第九幕 ~挨拶をする少女次男編~
相沢美冬は、第五皇子カインと共に手を
つないで歩いていた。
美冬としては恥ずかしかったのだが、はぐ
れたら大変だからと彼が手を離さなかった
のだ。
ずうずうしいと思いつつ、美冬は何故か
無理やり手を振り払う気にはなれなかった。
それが何故なのかは、美冬にはまだ分かって
いないけれど――。
第一皇子ノアとの対面は無事終了した美冬達
なのだが、カインは十人兄妹である。
五人の兄と、四人の姉がそれぞれいるのだ。
妹のフィレンカとは何度か合っているので後回しに
するとしても、少し多すぎる。
「カインって兄妹が多いのね……」
「うん、そうだよ! ……って血はつながって
ないんだけどね、フィレンカ以外」
「カインが、王様と王妃様の実子って事かしら」
「そうだけど、僕は皆兄妹だって思ってるよ」
「……」
美冬はちょっと自分へのカインの評価の株が
上がった事に自分でも気付いたが、素直に教える
のは尺だったのでそう、とだけ返した。
カインはそんな事とは気づかずににこにこ
している。
「今日は二番目の兄さんの所に行こうよ美冬。
ちょっと――いや、かなり変わってるんだけど、
いい人だよ。美冬の世界についていろいろ調べ
てるみたいで、詳しいんだ。美冬の世界のご飯の
事も彼から聞いたんだよ」
美冬の顔が次の瞬間強張った。
それに気づいたカインが、黙ったまま彼女の手を
掴む手に痛くないくらいの力を込める。
美冬はまだあちらでの事が忘れられないようだ。
そんな彼女を、守ってあげたいとカインは思って
いた。
「そ、そういえば、次の王様ってあなたのお兄様が
なるの?」
「予定としては、僕になってるよ。魔法大国では、
魔力が一番高い者が兄弟の中でも王位を継ぐ事に
なってるんだ。血のつながりに関係なく、ね」
「普通は、長男が継ぐのではないの?」
「うちは年功序列じゃないんだよ。兄様は、騎士団の
団長になる事が決まってるよ。次の兄様――アベル
兄様は大臣になるのが決まってる。そうやって、僕らは
兄弟で力を合わせて国を支えて行こうと思ってるんだ」
美冬は、兄弟がたくさんいるカインを羨ましいと
思ったけれど、その気持ちを素直に口にする事は
なかった――。
話し込んでいる内に、次兄アベルの部屋が近づいて
きていた。
美冬は緊張の面持ちになっている。
カインはそれを優しくなだめながら部屋の戸を叩いた。
返事があり、二人で入る。
「……何か用ですか、カイン。今、忙しいのでまた今度に
してくれませんか?」
「アベル兄様……なら、返事をしないでくださいよ……」
眼鏡をかけた短い銀髪の男性は、振り向きもせず
カインに言い返した。
鏡のような物に視線を向け続けている。
忙しいなら初めから返事をしなければいいのにと呆れ顔に
なるカイン。
美冬は不安そうに周囲を見回していたが、その目がやがて
一点を見つめて見開かれた。
「こ、これ……。私のいた世界……?」
鏡に映っていたのは、カインの兄ではなく美冬のいた異世界
だった。何故かカインと、カインの兄だけは映っていない。
美冬の姿が映し出されたのに気付き、アベルはハッとなって
振り向いた。
「あなたは……?」
「わ、私は相沢美冬、です……」
「ああ、あなたがカインの……どうぞ、ここに腰かけて
ください」
「あ、あのアベル兄様、僕は?」
「適当に座ればいいでしょう」
「なんですかその態度! 酷いですよ!!」
美冬には優しく声をかける癖に、自分への態度がぞんざいな
事にカインはため息をついていた。美冬が不安そうな顔になる。
「あんまり、お兄さんと仲が良くないの?」
「アベル兄様は、少し変わっているというか、異世界の事にしか
あんまり興味が
なくて兄弟達への態度も悪いんだよね。あ、でも悪い人ではないと
思うよ」
小声で美冬が聞くと、カインは呆れたような顔をしながら次兄に
対しての評価を下していた。
美冬はどう言ったものか分からなくて黙り込む。
「な、何を見ているんですか?」
「あなたの世界ですよ。ほら、あなたと似たような方々が映って
ますよ」
美冬はアベルの見ている鏡を覗き込んだ。
自分の顔がまっすぐ見返してくる。
しかし、美冬だけじゃなくて見知らぬ人々も移りこんでいた。
これは異世界を移す鏡なのだろうか。
「あなたは、ずっとここで異世界を見続けているんですか?」
「そうですよ。僕は、ずっといろんな世界を見るのが好き
なんです」
「あんなに、素敵な家族がいらっしゃるのにどうしてですか?
私ならここで暮らしていたら異世界の事なんて考えないと
思います」
美冬が何故あんなに優しい家族がいるのに、異世界だけを
見続けているのかと問うた。
アベルは答えず、銀色の瞳を大きく見開いて黙り込んで
いる。
「異世界を見るのもたまにはいいとは思いますけれど、
もっと、家族やこの世界についての事に目を配ったら
どうですか?」
「異世界には……面白いお嬢さんがいるですね。そんな
風に言われたのは初めてです」
「す、すみません。余計な事を……」
「いや、いいんです。――カイン、久しぶりに兄と話でも
してみますか?」
「え、えっと……また今度でもいいですか? カナン兄様に
美冬を会わせなければいけないので」
「いつでもいいですよ。――兄さんとも話してみますか。暑
苦しいんですがあの人」
カインは美冬の手を掴んで一端外へ出た。
美冬は目を丸くして、素直に自分の言う事に従った第二皇子の
後ろ姿を見つめたままだった。
「ありがとう、美冬。アベル兄様は、ずっと異世界の魅力に
囚われちゃって。僕らとは中々話もしなくなってたんだ。
話したとしても、さっきのようにぞんざいに話すだけだった、
美冬がいなかったらずっとあのままだったかもしれない」
「わ、私は言いたい事を言っただけよ」
美冬はカインに礼を言われてそっぽ向いたが、嫌な気分には
ならなかった。
カイン達は外で待っていたテレーズと合流し、第三皇子の
元へと向かう事にするのだった――。
今回も書き終わりました。余裕があれば
姉も出そうと思ったのですが、無理そう
なので次の機会にします。
次回はカインの三番目の兄を出す予定
です。




