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帰還者  作者: 松田要臣
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復讐

再会を果たした高山へ陽介は執念の復讐をはじめる。

 高山と同じクラスになった私は、高山に腰ぎんちゃくのように取り付いてきた、石井と加藤に狙った。


 この2人は2年前の保育園の事件で私を囲んで罵声を浴びせた奴らだ。

 クラスは違うのだが、高山の事をかなり慕っているらしい。通学班が一緒なのだ。


 このうちの石井とは去年1年生で私は同じクラスだった。

 石井は私が柔道を習い始めた事を知り、1年の時から一目置き始めていた。


 そんな石井と私はトイレで出くわした。高山も加藤もいなかった。2人だけの状態だった。


 私は用を足し終えて、石井はこれからの状態だった。


 そんな石井に、 

 「石井君って、何組になったの?」

と、話しかけた。


 「4組だよ。」

と、石井は用を足しながら言った。


 私はトイレの入り口を見た。誰も入って来る様子が無い事を確認した。

 

 すかさず石井の後ろに回り、いきなら石井の半ズボンを下に降ろした。


 石井は叫んだ。

 「やめてよ、やめてよっ!」


 石井は半ズボンで、ファスナーを開いて用を足していた。ファスナー上の丸ボタンはとめたままの状態になっていた。それを強引に私が下げたものだからズボンはビショビショ状態になった。

 もちろん中もビショビショ状態なのだろうが、私はお構いなしだった。


 石井はパニくったのだろう。その場のトイレのタイル床に膝をついて座り込んだ。


 私が、一言

 「きったねぇー。」

と軽く笑いながら言うと、石井は泣きながら、

 「やめてよぉ!もうやめてよぉ!」と叫んでいた。


 「おい、この話みんなに言っちゃおうかな・・・。」

とも言った。


 「やめてよぉ!もうやめてよぉ!」

石井はそれを泣きながら繰り返すだけだった。


 「石井君、内緒にしといてあげるからさ、もう高山君の近くに来ちゃダメだよ。わかった?」


 「わかった。」


 「それから、加藤君にも言うんだよ。高山君の側にいたら、2人とも投げちゃうぞ。わかった?」


 「わかった。本当にわかったから・・・。」


 「石井君が漏らした事内緒にしておくよ。このまま教室行くとみんなにバレるから、保健室に行くといいよ。」


 私は1年生の時に保健室で休んでいる時、保健の先生がズボンを汚した子の対処をしているのを見て知っていた。


 石井は突然優しくなった私に、

 「ありがとね。内緒にしといてね。」まるで感謝して言い、保健室に向かった。


 この一件以来、全く石井と加藤は高山に近づかなくなった。


 高山聡史から鎧が捥ぎ取られたのだ。


 石井だけ抑え込めば良かった。石井の方が加藤より強い存在だった。だから、石井を抑え込み話をつければ、石井が加藤を抑えるのは目に見えていた。 


 2人は急に高山から離れていった。高山としたら、それがなぜなのかわからなかっただろう。

 いや、もしかしたら子供だった石井や加藤から、内緒の話が高山に話されていたかもしれない。

 それは定かでなかったが、とにかくその仲良し3人組は崩れた。


 通学も一緒に帰らなくなったのだ。


 私はしばらくそれからの様子をうかがった。


 そして高山が完全に一人になる瞬間を待っていた。

 石井とのトイレでの1件があってから、1週間くらい経っただろうか。その時は、またトイレでやってきた。


 高山がトイレに行く瞬間があった。私は後を追った。気付かれないように追った。


 廊下に人通りはない。高山が入って15秒くらい遅れて私は入っていた。高山は男子用便器の前にいた。そして、まだ用は足していない。高山はこちらを見るが、私とわかると目を反らした。


 まるで、かかわらないようにするかのように・・・。しかしそうはいかない。わたしは用を足そうとしている高山の横の便器の前に立ち、高山が用を足す目前で肩を持ち、態勢をこちらに向かせた。


 「わっ、わっ、何するの?」と高山は言ったのだが、何も言わずいきなり腹を殴った。


 高山は殴られた腹を押さえ、体を丸めた。その瞬間背中にエルボ(肘打ち)を何度も打ち降ろした。

 すると、倒れ込み泣きながら、

 「ご、ごめんなさい、ごめんなさい。やめてくださいっ。」とうな垂れた。


 私は、無言でいた。


 「僕、何もしてないやん・・・。石田君に何もしてないやん・・・。やめてよ。」

と、言葉が出たのでイラつきを覚えた。


 「保育園の事覚えてないんだ?」


 「保育園?」


 「お前が、嘘をついて俺が先生に叩かれた事覚えてないんだ?」


 やっと、思い出したようだった。

 「あれは、あれは、ごめんって。ごめんって。」と、高山は謝っていたが、


 「こんなんじゃ、許さないぞ・・・。」


 そう言って、私はトイレを出て行った。


 そこから先の高山聡史への1年間での復讐はすごいものだった。


 冬の寒い日に川の中に素足で入れ、カメを取って来るまであがって来るな。とか、幅1m・高さ2mくらいの用水路を飛べと言い、飛んだ瞬間にシャツの背中を引っ張って下に叩き落とした事もあった。


 酷い時には、かなり大きく流れの早い愛知用水に連れて行き、泳いでみろとも言った事もあったが、土下座して泣きつかれ仕方なく許し、代わりに学校の便器を舐めさせた事もあった。


 何度も高山の口から、「先生に言うから」「お父さん、お母さんに言うから」の言葉はあったが、それ以上の恐怖心を煽りやめさせた。


 正直、先生なんかは怖くなかった。何も怖くなかった。


 こんな状態で、高山聡史は2年生という一年間を過ごし、まるで弱い子供になった。誰にもすぐに謝り、媚を売り、人の下にしかいないような子供になっていた。


 この2年生での話は3年生になる頃までに、いろいろな子供たちの耳に入り、みんなが私の事を怖がり出した。中には腕白な同級生が私に喧嘩を挑んで来たがそれに負け、高山までとはいかないが、同じような目に会い、すっかり牙が捥がれた状態になっていった。


 4年生に上がる頃には、全く逆らう者がいない状態になっていった。


 4年生で、あのリンチ事件を受けるまでは・・・。


  


 




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