第39話:新婚七日目の朝。……殿下、これはただの筋肉痛(運動不足)ですので、国家非常事態宣言を出すのはやめてください!
「……はぁ。状況把握、開始。時刻は午前九時。新婚生活、記念すべき一週間目の朝。私は今、ベッドから起き上がろうとした瞬間、下半身に走る激しい激痛を検知した。状況、前世の地獄の行軍訓練(百キロ山岳踏破)の翌朝と完全に一致ね」
ついに、私の高性能な肉体が悲鳴を上げた。
原因のプロファイリング(分析)なんてするまでもない。この一週間、昼夜を問わずルファード殿下の「時間無制限の甘々総攻撃(じっくり愛される残業)」に付き合わされ続けた結果だ。元自衛官とはいえ、今の私はただの箱入り令嬢の身体。連日の超高負荷な実技演習により、深刻な筋肉痛と疲労が蓄積していたのだ。
私が「う、動けない……。状況、完全な大破(ギックリ一歩手前)よ……」とベッドの中でシーツを掴んでリアルに悶絶していると、ちょうど着替えを終えたルファード殿下が戻ってきた。
私の青ざめた顔と、苦しげな呻き声を目撃した瞬間――殿下の宝石のような紫の瞳が、見たこともないほど恐怖に大きく見開かれた。
「アルティナ……!? 顔色が真っ白じゃないか、どうしたんだい、どこが痛むんだ!? カイゼル! 今すぐ王宮の文官と近衛、それから高位の医官を全員この部屋に強制連行しろ!!」
「で、殿下、落ち着いて……っ! 状況把握を! 外部からの毒殺や呪術の可能性はゼロです。ただの、その、連日の運動不足(夜の連勤)による肉体の悲鳴(筋肉痛)ですので、国家非常事態のアラートを鳴らすのはやめてください……!」
私が顔を真っ赤にしながら必死にベッドの中から片手を挙げて制止するが、いつもなら15手先まで見抜いて不敵に笑う天才皇太子は、完全に理性をシャットダウンさせて大パニックを起こしていた。
殿下はなりふり構わずベッドに飛び込んできうと、壊れ物を扱うような手付きで私を抱き上げ、その広い胸の中に引きずり込んだ。その身体が、嘘みたいに小刻みに震えている。
(……うん、状況把握完了。殿下、私の体調不良に本気で狼狽えて、目に見えて余裕をなくして取り乱してるじゃん。いつも私を翻弄する肉食獣上司のくせに、そんなに捨てられた仔犬みたいな顔で私を見つめないでください、別の意味で心臓に悪いから)
至近距離から押し寄せる殿下の本気の焦燥感と、私を絶対に失いたくないという重すぎる愛の熱量に、私の心臓は筋肉痛の痛みを忘れて最大戦速(大バクバク)を記録する。
「……俺のせいだ。君が可愛いからと、一週間も加減を忘れて強行軍を強いてしまった……。すまない、アルティナ。俺の大切な奥様を、俺自身の独占欲で傷つけるなんて、夫として完全に作戦失敗(規律違反)だ……」
耳元で、今にも泣き出しそうな低く掠れた声で囁かれる怒涛の反省文。
頭が良すぎる私は、このまま殿下に主導権を握らせたままだと、今日から一ヶ月間くらい「過保護すぎる絶対安静(ベッドへの完全拘束ライフ)」という名の、さらなる超高負荷残業が執行される未来を秒で看破した。ルートを塞がれる前に、こちらから防衛線を張らねばならない。
「状況把握、完了しました。殿下、今回の事案は共同責任です。ですので、本日は医官を呼ぶ代わりに、殿下自らの手による『全身のマッサージ(物理的バックアップ)』および、一晩の『完全な添い寝(完全休息日)』を要求(妥協)します!」
私が真っ赤な顔で胸板をパシパシと叩いて提案すると、ルファード殿下は一瞬だけ呆然としたあと、狂おしいほどの愛おしさを湛えて妖艶に目を細めた。
「……フッ、本当にどこまでも俺を驚かせる可愛い皇太子妃だ。分かった、その条件を全面承認(全面降伏)しよう。今日から三日間、俺の最高技術で君の身体を隅々まで労ってあげるから、覚悟しておいで」
(だから、マッサージのついでにそのまま第2ラウンドへ移行しそうな妖しい笑顔を浮かべるのをやめてくださいーーー!!)
こうして、新婚一週間目の朝は、夫の「過保護すぎる勘違いパニック」から、まさかの「三日間の甘々マッサージ拘束」へと突入するのだった。元自衛官令嬢アルティナの週休六日ライフへの戦線は、夫の重すぎる溺愛によって、今日もベッドの上で甘く、激しく、全方位から侵略され続けている。




