第25話:温泉別荘の休日。……殿下、小指一本の約束がいつの間にか全身ホールドにすり替わっています
「……ふぅ。状況把握、完了。南国の極上温泉で旅の汚れを落とし、現在は最高級シルクの毛布に包まれての完全引きこもりモード。……ここまでは、私の完璧な作戦勝ち(スローライフ)ね」
グランバレー領の汚職事件を最速で片付けた私は、別荘の極上ベッドの真ん中で、深い至福に浸っていた。
外はのどかな南国の青空。遮光カーテンをきっちりと閉め、お気に入りのカモフラージュ毛布にくるまれば、そこは誰にも邪魔されない私の『絶対防衛聖域』だ。
これぞ、地方の狸どもを3分で公開処刑して勝ち取った、正当な残業代(有給休暇)である。
――しかし。
カサリ、とシーツが擦れる音がした直後、私の背中にずっしりとした強大な『質量』と、お風呂上がりの男物の熱い体温がのしかかってきた。
(……はぁ、状況把握開始。ルファード殿下、公務を部下に丸投げして、当然のようにパジャマ姿で私のベッドへ完全侵入をキメてきてるじゃん。状況、極めてレッドアラート(逃げ場ゼロ)よ)
私のカンストした状況把握能力が、私の腰をがっちりと抱きすくめる殿下の長い腕と、うなじに触れる熱い吐息を正確にスキャンした。
「殿下、状況把握を。昨夜の契約に基づき、本日は私の『完全有給(ガチ寝)』の日です。殿下の常駐枠は『左手の小指一本』だったはずですが、なぜ今、私の全身が完璧にバックホールドされているのでしょうか。速やかな戦略的撤退をお願いします」
私が毛布の中から声を籠らせて抗議すると、ルファード殿下は私の肩口に顔を埋め、楽しそうに低くくすくすと笑った。
「地方の残党がいつ君を襲うか分からないからね。小指一本の防衛線では、我が国最強の盾である君を完全に守りきれないと判断して、より強固な『密着防御陣形』に切り替えたんだ。軍事戦略的に、極めて論理的な判断(職権乱用)だろう?」
(その陣形、守るどころか私が殿下に24時間体制で精神的残業を強いられてるだけなんですけど、この肉食獣上司ーーー!!)
殿下は私の身体をくるりと反転させ、至近距離でその宝石のような紫の瞳を細めた。
お風呂上がりの無造作な金髪から、男物の甘い香りが漂い、私の心拍数は瞬時に戦闘限界(大バクバク)を突破する。頭が良すぎるせいで、殿下の指先から伝わる愛の重さが冗談ではなく、本気で私を一生手放すつもりがないのだと秒で理解してしまうのが、本当に心臓に悪い。
「アルティナ。君がどれだけサボりたがろうが、俺の隣以外へ戦略的撤退(逃亡)することは絶対に許さない。……この公式巡幸が終わったら、王都に帰り次第、すぐに『正式な婚礼の儀(最終ロックオン)』を執り行おう。それなら、週休六日にしてあげてもいいけれど?」
意地悪く、けれど狂おしいほどの独占欲を孕んで微笑む上司。
「……状況把握、完了しました。殿下、その週休六日、および『朝の起床戦線での5分間の猶予(二度寝権)』を条件に、王都帰還後の婚礼を承認(全面降伏)します」
「フッ、本当に取引の強気な俺の可愛い王妃様だ。契約成立だね、アルティナ」
殿下は満足そうに微笑むと、私の額に優しく、けれど深く熱い誓いのキスを落とした。
地方の巨悪を最速で粉砕したものの、目の前の愛が重すぎる皇太子の「最終包囲網」についに完全捕獲された元自衛官令嬢アルティナ。私のものぐさスローライフへの戦線は、世界で一番贅沢で甘い「王妃のベッドの上」へと、永久に固定されてしまうのだった。




