第23話:南方の領地に到着。……この過剰すぎる歓迎、完全に隠蔽工作の裏返しですよね?
「……ふぅ。状況把握、完了。三日間の『密室小指ホールド攻防戦』をなんとか耐え抜き、ついに目的地である南方の穀倉地帯・グランバレー領へ到着。……だけど、目の前のこの光景、状況は極めてレッドアラートね」
馬車の扉が開かれ、私は皇太子直属護衛としてのキリッとした表情(仮面)を貼り直して外へ出た。
出迎えたのは、まばゆいばかりのレッドカーペットと、贅を尽くした歓迎の生演奏。そして、丸々と肥え太った体躯にこれでもかと宝石を散りばめた地方領主、グランバレー伯爵だった。
「おお、ルファード殿下! ようこそ我がグランバレー領へ! 殿下の大いなる公式巡幸を心より歓迎いたしますぞ!」
伯爵は揉み手でお世辞を並べ立て、これ以上ないほどの平伏を見せている。
周囲の貴族たちも笑顔で拍手を送っているが、私のカンストした状況把握能力(自衛官レーダー)は、彼らの『嘘』を秒単位でスキャンしていた。
(……うん、状況把握完了。歓迎の演奏をしている楽団員たちの手、楽器の持ち方じゃない。あれ、カモフラージュのために急に楽器を持たされた私兵(護衛)の重心だ。そして領主のあの泳ぐ視線。歓迎の裏で、何か『見られたくないもの』を必死に隠蔽している時の典型的な動揺パターンじゃん)
ハァ……、と私は心の中で本日最初の大ため息をついた。
王都の眼鏡文官の言っていた通り、この地では大規模な帳簿のズレ――いや、おそらくは組織的な物資の横領か、闇取引が行われている。これだけ派手に歓迎して殿下の目を眩ませようとしていること自体が、何よりの「ギルティ(有罪)」の証明だ。
(よし、状況把握完了。ここは完全に『気づかないフリ』を通そう。私はただの無能で怠惰な令嬢騎士。こんな地方の根深い汚職は、有能すぎる我が上司が一人で夜通し残業して片付ければいい。私は支給される歓迎の高級料理を食べて寝る。これが一番コスパがいい)
私が最速で「サボりの防衛計画」を策定し、スローライフの陣形を整えようとした、その時。
「グランバレー伯爵、見事な歓迎だ。……だが、我が婚約者のアルティナが、長旅の疲れと『君たちの不自然な配置』のせいで、少々ご機嫌斜めのようでね」
隣に立つルファード殿下が、私の腰をぐっと抱き寄せながら、グランバレー伯爵へ向けて極上の「すべてを見通した肉食獣の笑み」を向けた。
「えっ……? な、何をおっしゃるか、ルファード殿下。我が領には何も不自然な点など――」
「隠さなくていい。我がアスラ王国最強の盾である彼女の目は、どんな欺瞞も通さない。なぁ、アルティナ? 君のその鋭い目で、この領地がどれほど『腐っているか』、今夜の晩餐会までに最速で状況把握(監査)してくれるだろう?」
(この肉食獣上司ーーーー!! 私のサボり計画を秒で察知した上で、それを上回る速度で私を『特大の残業(最前線の監査役)』に指名しやがった!!)
グランバレー伯爵らの顔が、一瞬で土気色に変わる。
殿下は私の有能さを100%信頼し、かつ、私をダシにして地方の狸どもを心理的に追い詰めるチェックメイトを仕掛けたのだ。
「さあ、アルティナ。二人でサクッとこの地の『害虫駆除』を終わらせて、夜は温泉でゆっくり『ハネムーンの続き』をしようか?」
耳元で妖しく囁く上司の、底なしの独占欲と信頼の重さ。
「……状況把握、完了しました。殿下、今夜の晩餐会までにすべての証拠を揃えます(怒りの全スキャン)。その代わり、明日は丸一日、私に完全な有給(引きこもり権)を支給してください」
「フッ、素晴らしい手際だ。契約成立だよ、俺の可愛い王妃殿下」
地方の不正を前に、元自衛官令嬢アルティナの「最速・省エネ監査無双」が、南方の地でも強制的に幕を開けるのだった。私の穏やかなお昼寝タイムは、この有能すぎる愛の包囲網によって、またしても遠のいていく。




