第三十二章『神を終わらせる者』
空が泣いていた。
白い門から溢れ出る神聖力が、
帝都全体を覆っている。
建物が軋む。
地面が裂ける。
人々は恐怖に震え、
ただ祈ることしかできなかった。
だが。
その中心で、
ガブリエラは静かに立っていた。
白と黒の光が身体へ絡みつく。
神性。
魔力。
本来なら相容れない二つ。
けれど今、
それは彼女の中で完全に調和していた。
レオンハルトは息を呑む。
「……本当に」
別人だった。
いや。
ようやく“本当の彼女”になったのかもしれない。
ノクスだけは目を逸らさない。
赤い瞳は、
変わらず真っ直ぐだった。
その視線に、
ガブリエラの胸が少しだけ落ち着く。
すると。
白い門の奥から、
巨大な目が現れた。
金色の瞳。
感情のない視線。
それだけで、
周囲の空気が凍る。
神だ。
人ではない。
理解不能な存在。
『排除』
声が響く。
次の瞬間。
無数の白い槍が空へ現れた。
数百。
数千。
帝都へ向けて降り注ぐ。
レオンハルトが叫ぶ。
「防壁を張れ!!」
皇宮騎士たちが一斉に動く。
だが間に合わない。
神の力が強すぎる。
ガブリエラの瞳が揺れる。
このままでは、
帝都の人々が死ぬ。
すると。
ノクスが前へ出た。
「お前はそっちをやれ」
黒翼が広がる。
膨大な魔力。
彼は空を睨み、
ゆっくり右手を掲げた。
「全部叩き落とす」
その瞬間。
巨大な黒い結界が、
帝都全体を包み込む。
白い槍が次々と衝突する。
轟音。
衝撃。
空が爆発しているようだった。
ノクスの口から血が零れる。
ガブリエラが顔色を変えた。
「ノクス!!」
「見るな」
彼は笑う。
苦しそうなのに。
「今のお前がやることは一つだろ」
その言葉が、
胸へ深く刺さる。
ガブリエラは唇を噛んだ。
レオンハルトも剣を握る。
「行け」
蒼い瞳が真っ直ぐ向けられる。
「今度こそ、
お前を一人にしない」
ガブリエラの胸が痛む。
昔、
欲しかった言葉。
でも今は。
もうそれだけでは足りない。
彼女は静かに頷いた。
そして。
白い門を見上げる。
神の目がこちらを見ている。
感情のない存在。
人を道具としか見ないもの。
カサンドラの絶望が蘇る。
ガブリエラは拳を握った。
「返して」
声が震える。
怒り。
悲しみ。
全部を込めて。
「カサンドラを返して!!」
白と黒の光が爆発した。
轟音。
空間が裂ける。
ガブリエラの身体が浮かび上がる。
長い髪が舞う。
その姿は、
まるで神話の存在だった。
神が初めて反応する。
『危険』
その瞬間。
巨大な白い光が、
ガブリエラへ放たれた。
だが。
彼女は逃げない。
ゆっくり手を伸ばす。
「終わらせる」
白と黒の力が融合する。
そして。
世界を裂くような一撃が放たれた。
轟ッ――――!!
白い光と黒い闇が交差する。
神の力が押し返される。
初めて。
神が後退した。
アステリオが絶望した顔をする。
「そんな……神が……」
ガブリエラの瞳が冷たく光る。
「お前たちが神を壊したの」
神を絶対視し、
人を犠牲にし続けた。
その結果が今だ。
白い門が軋む。
巨大な亀裂が走る。
神の声が乱れる。
『排除……排除……』
壊れ始めている。
その時。
突然、
ガブリエラの胸へ激痛が走った。
「っ……ぁ……!」
神性と魔力。
二つの力が、
限界を超えて暴れ始める。
身体が崩れる。
ノクスが顔色を変えた。
「ガブリエラ!!」
レオンハルトも駆け出す。
だが。
ガブリエラは震えながらも、
笑った。
「……まだ」
涙が零れる。
「まだ終われない」
その瞬間。
彼女の背後に、
もう一つの影が現れた。
小さな少女。
白い髪。
赤い瞳。
――カサンドラだった。




