第二十八章『黒と白の戦争』
巨大な魔法陣が、
皇宮全体を覆い尽くした。
白銀の光。
複雑な神聖文字。
空気そのものが重くなる。
ガブリエラは息を呑んだ。
「……っ」
身体が動かない。
神性が共鳴している。
まるで、
“帰れ”と命令されているようだった。
アステリオが静かに手を掲げる。
「確保しなさい」
その瞬間。
神殿騎士たちが一斉に動いた。
白銀の槍。
神聖魔法。
殺気。
部屋の空気が一気に戦場へ変わる。
「下がれ!!」
レオンハルトが剣を振るう。
轟音。
黄金の魔力が爆発し、
神殿騎士を吹き飛ばした。
ガブリエラが目を見開く。
強い。
以前より遥かに。
ノクスも同時に前へ出る。
黒い魔力が床を侵食した。
「触れたら殺す」
低い声。
次の瞬間。
彼の背後から巨大な黒翼が完全に解放される。
圧倒的な魔力。
神殿騎士たちが一瞬怯んだ。
アステリオだけは冷静だった。
「やはり魔王の血は危険ですね」
ノクスは笑わない。
ただ、
赤い瞳だけが冷たく光る。
「今さらだろ」
次の瞬間。
黒と白の力が激突した。
轟音。
魔力波で壁が吹き飛ぶ。
ガブリエラは咄嗟に翼で身を守った。
熱い。
苦しい。
神聖力と魔力がぶつかり合い、
空間そのものが軋んでいる。
レオンハルトが叫ぶ。
「ガブリエラ!」
振り返ると、
神殿騎士の一人が背後へ迫っていた。
槍が振り下ろされる。
ガブリエラは反射的に手を伸ばす。
瞬間。
白銀の光が爆発した。
轟ッ――!!
神殿騎士が吹き飛ぶ。
壁へ叩きつけられ、
動かなくなった。
静寂。
ガブリエラ自身が一番驚いていた。
「……え」
自分がやった?
今のを?
手が震える。
ノクスが一瞬だけこちらを見る。
「躊躇するな!」
その声で我に返る。
次の瞬間。
アステリオが高速で接近した。
ガブリエラの目の前。
金色の瞳。
「ようやく目覚め始めましたね」
彼の手が伸びる。
触れられる――。
その瞬間。
黒い刃が割り込んだ。
ギィン!!
ノクスだ。
彼はアステリオを強引に弾き飛ばした。
「触るなって言っただろ」
怒り。
殺気。
今にも噛み殺しそうな声。
アステリオは着地し、
静かに微笑む。
「感情的ですね」
「黙れ」
その時。
別方向から神殿騎士が突撃してくる。
だが。
黄金の閃光がそれを切り裂いた。
レオンハルト。
彼はガブリエラの前へ立つ。
「下がっていろ」
その背中に、
ガブリエラは息を呑む。
昔と同じ。
守るような背中。
でも違う。
今はノクスもいる。
二人とも、
自分を守ろうとしている。
その事実が、
胸を激しく揺らした。
アステリオが静かに言う。
「皇太子殿下、
正気ですか?」
「お前たちよりはな」
レオンハルトの声は冷たい。
「神を降ろすために人を壊すなど、
狂っている」
アステリオは小さく笑う。
「世界を救うには必要です」
「救いのために犠牲を強いる時点で歪んでいる」
空気が鋭くぶつかる。
ガブリエラは息を荒くした。
だがその時だった。
突然。
胸の奥が激しく痛む。
「っ……ぁ……!」
膝が崩れる。
黒翼が暴れた。
神性が暴走する。
白銀の光が身体から漏れ出す。
アステリオの目が細められる。
「限界ですね」
ノクスが顔色を変える。
「ガブリエラ!」
苦しい。
熱い。
頭の中へ、
知らない声が響く。
『器』
『神を降ろせ』
『世界を浄化しろ』
嫌だ。
そんなもの、
聞きたくない。
ガブリエラは耳を塞ぐ。
「やだ……!」
レオンハルトが駆け寄る。
「しっかりしろ!」
だが。
白銀の光が彼を弾き飛ばした。
轟音。
レオンハルトが壁へ叩きつけられる。
「っ……!」
ガブリエラの顔が青ざめる。
違う。
傷つけたいわけじゃない。
なのに力が制御できない。
ノクスが彼女を抱き締める。
「俺を見ろ!!」
赤い瞳。
強い声。
「飲まれるな!」
ガブリエラの涙が零れる。
怖い。
壊れていく。
その時。
アステリオが静かに呟いた。
「……始まった」
次の瞬間。
ガブリエラの背後に、
巨大な“白い扉”が現れた。




