8義理母のおせっかい(グレイス・チャーチル)
私は気分よくダーレム伯爵家に帰って来た。
「ただいま戻りました義理母様」
「おかえりグレイスさん、少し話があるの。いいかしら?」
義理母は機嫌が悪そうだった。
急いでメイアやヴォルターを下がらせて義理母と二人きりになる。
やっぱりいきなり仕事に行ったのが悪かったんだ。
居間に伯爵家のメイドがお茶を運んで下がると義理母が先に口を開いた。
「グレイスさん、昨夜はチャーチルと一緒ではなかったのね」
「えっ?」
仕事のことじゃないの?
今朝の機嫌の良かった雰囲気は影を潜め強張った面持ちの義理母の顔が私を見つめる。
「言ったでしょう?ダーレム伯爵家には跡継ぎが必要なの。チャーチルは真面目で他に愛人や妾も作れない真面目な子なの。あなた以外にそれを望む相手はいないのよ。それをわかっているの?」
チャーチルには女の影はなかったと言った兄の言葉が脳内に蘇る。
確かに義理母が言ってる事は一理あると思う。でも白い結婚と言ったのはあなたの息子ですよ?
言ってないの~。
喉の奥まで出かかった言葉。でも、そんな事を言っていいのか?
葛藤が‥
黙り込んだ私に義理母も言いすぎたとでも思ったらしく。
「いきなりこんな事言って悪いと思ってるわ。きっと、チャーチルは優しいからあなたの気持ちに寄り添おうとしたんでしょう?だって、婚約からまだ二ヶ月、普通ならまだ結婚は先の話ですものね。でもね、あの子は、チャーチルは真面目であなたを大切にするわ。私達だって領地の窮地を助けて貰って貴方みたいな素敵な女性が来てくれてすごく嬉しいのよ。だから、グレイスさん、安心してチャーチルに身を預けてちょうだいね。私は今から友人と会う予定があるから、貴方はゆっくり休んでね。ごめんなさい。余計な事を言ちゃって」
義理母はもうソファーから立ち上がりかけている。
私も儀礼的な言葉を言った。
「いえ、ご心配をお掛けして申し訳ありません」
「いいのよ。気にしないで。お互い気持ちよく過ごしたいもの。じゃ」
義理母はにっこり微笑んで居間から退室していった。
これはチャーチル様に話してもらうしかなさそうね。
私だって自分勝手な嫁だって思われたくないもの。跡取りは自分たちでどうにかして欲しい。
*~*~*
翌日の夕方、俺は領地から返って来た。父が夕食は一緒に取れとか言って早めに帰らせたくれたから。
グレイスには領地で今度販売予定の便箋と封筒を持って帰った。封筒には押し花を入れ込んだ美しい品だ。
「ただいま母さん」
出迎えたのは母だった。
「おかえりチャーチル」
「グレイスは?」
「まあ、あなたったらグレイスさんがよほど気にいったのね。良かったわ。カトリーナは、ほんとに嫌な嫁だったもの。グレイスさんならきっとあなたに寄り添ってくれるわ」
「まあね。それで彼女は?」
「もう帰って来ると思うわ。オーブの薬屋に行ってるから」
「ああ、早速仕事をしてるのか」
「ええ、そんなことよりチャーチルあなたに話があるの。こんな所じゃあれだから‥」
母に促されるようにリビングに行く。
「なんだい話って?俺は夕食の前にシャワーがしたいんだけど」
「なんだじゃないでしょう?あなたグレイスさんと初夜を済ませてないでしょう?」
ぶっ!!
はっ?どうしてばれてる?いや、そりゃばれるか。メイドが寝室を片付ければわかる事。それにグレイスは妻の寝室で休んだ事はみんな知っている。
チッ!グレイスとは事を成せないから白い結婚にしたのに困ったな。
「ああ、そうだけど。母さんがいちいち口をはさむことじゃないだろう!」
当然言葉は乱暴になった。
「それはわかるわよ。婚約して間がないんだからグレイスさんが戸惑うだろうってあなたが気にかけてるって事くらい。でも、こういうことはあまり間を開けると逆効果って事にもなり兼ねないのよ。彼女にも話をしたから今夜はちゃんと最後まで‥」
「母さんグレイスに何を言ったんだ?そんな無神経な事、母親だからってそこまで口を出さないでくれ!!」
「チャーチル。悪かったわ。でも、ふたりの事を思ってのことなのよ。わかって頂戴。そうだ、母さん2~3日とお友達の所に行くから二人で仲良くしなさい。ねっ機嫌直して‥ほら」
「ったく‥‥いいから俺たちの事は放っておいてくれ母さん。余計な事はしなくていいから。頼むよ。それに今夜おかしな期待しないでくれよ。グレイスだってきっと‥もういい」
俺は怒ったままシャワーを浴びに行った。
シャワーを浴びながら思考がぐるぐる回った。母さんも余計な事を‥だから言ったんだ。ふりでも一緒の部屋で寝た方がいいって。でも、無垢な女性がいきなり男の隣で寝ろなんて言われてもなぁ。でも、俺たちは結婚したんだし。でも、白い結婚にすると言ったのは俺だしな。
はぁぁぁ~、グレイスは怒ってないだろうか?
こうなったら白い結婚の話を両親にしなくてはならない。でも、なんて説明する?俺のモノが役に立たないからと言えるか?
言えるわけないよなぁぁぁぁぁ~。はぁ、どうするんだよ。
俺は頭を抱えた。




