7優しい兄
私は宣言通り、その後王都のオーブ商会が開いている薬屋に行くことにした。
「兄さん」
「グレイス?お前、何があった?あいつが何かしたのか?いや、俺が悪かった。家同士の決め事だからってお前に無理をさせて‥」
慌てた様子であのにエドワードが私に詰め寄った。
「違います。喧嘩なんかしてませんよ。ちゃんとここで仕事をするって話をしてみなさんの許可もいただいて来たんです」
「って事は‥昨夜はしょ‥いや、何でもない。それでどうなんだ?チャーチルは?」
もちろん兄も白い結婚などの契約の事は知らない。
「ええ、優しいです。今日は義理父様と一緒に領地に向かわれました。明日には戻って来るそうです」
「へぇ、意外とまめなんだな。まあ、新婚だからか?グレイスはほんとにいいのか?」
「ええ、伯爵家は意外と居心地も良さそうですしメイアとヴォルターもいますし」
「ああ、ヴォルターご苦労。メイアもさあ、入れ」
メイアとヴォルターはもちろん一緒に店に来た。
いつものように私は奥の調合部屋に籠る。
棚には何樹種類という薬草や薬剤が揃っている。薬の調合は幼いころから父や兄に教わって今では目を閉じていても匂いで薬草が分かるほどだ。
だから薬を作ることは私にとってはごく当たり前のことだった。
私はレイブルが流行り病で亡くなって初めて身近な人の死に触れた。
母も亡くなっているが幼い時で記憶はほとんどない。なので見知った人がいきなりいなくなると言う出来事にショックを受けた。
そして感じた疑問。どうして同じ病なのに感染する人もいればしない人もいるんだろう。
人間は男、女、子供、年寄り、若者、それぞれみな違う。そしてよく見れば体温や脈拍、身長や体重、もちろん食生活だって違う。それぞれ環境も違えば体格も違ってて‥
それなのに病は関係なく人々に感染する。どうやって?
子供でも感染しないときもある。年よりだって、ガタイのいい男が死んでか弱い女性が助かることもある。それはなぜ?
そんな疑問を抱くようになった。
病を完全に治す方法は今のところない。ならば移らないようには出来ないのだろうか?
病をもし感染の段階で防ぐことが出来たら?酷くなる前に。もう手の施しようがなくなる前に手を打つことが出来たら。
それに気づいてから私は日夜感染予防の方法を研究している。
「さて、今日はこの薬草で‥」
「お嬢様張り切ってますね」
メイアが隣でそう言った。彼女は私の助手のようなものでいつも私の手伝いをしてくれている。
「まあね。もしかしたらここに来ることを禁止されるかもって思っていたから、ご両親が話が分かる人で良かったわ」
「そうだといいんですけど。あっ、余計な事でしたね。この薬草ですね」
「もう、メイアったら、でも、孫が欲しいなんて‥その事はチャーチル様に何とかしてもらうしかないもの。でも、そのおかげで私は自分のやりたいことが出来るんだしこれで良かったわ」
「‥ええ、そうですね」
メイアは本心からはそう思っていないみたい。そりゃ私だって結婚するならって覚悟を決めるつもりだったわよ。だけど、彼が言いだしたんだから。
それより今日のやることに集中しよう。
色々試行錯誤をして、感染予防に良い薬草や食材を調べハーブやジンジャー、ハチミツ。ユーカリやユキノハという植物もいいと分かった。それらのエキスを取り出し凝縮させたものを飲む方法を思いついたが、かなり味に問題があった。
それで子供やお年寄りでも取り入れれるようにと考えたのがキャンディとうがい薬だ。
飲む事が出来なくてもうがいなら出来るのではと、それにキャンディならいつでも取り入れられる。
小鍋にハチミツと薬草を入れて煮詰め固める。次にベリーのジャムとユーカリ。そう言った具合に数種類のキャンディを作り味見をした。
何とか食べれそうな味になった。
うがい薬は数種類に薬草を乾燥させて粉末にしたものを使えそうだ。
「兄さん、感染予防にどうかと思って作ったんでけど」
私は何を作っているかずっとひみつにしていたので兄は驚いた顔をした。
「これをグレイスが?へぇ、何を作ってるかずっと気になってたんだ。でも、お前の好きにさせて見ようって思ったんだ」
「どうして?」
「レイブルの事、ショックだったんだろう。俺が気付かないとでも思ったのか?あれからお前深刻な顔ばかりしてた。いつも塞ぎ込んで部屋に閉じ籠ってばかりだった。たまに出かければ図書館とか商会の薬品庫とかで‥心配してたんだぞ。おまけにいきなり婚約の話が決まってすぐに婚姻だったし」
「兄さん、心配してたんだ」
「当たり前だ!二人きりの兄妹だぞ。可愛くないはずがない。あんな奴に!あっ、でも、あいつの事は調べた。結婚前に女の影はなかったし離縁した後も娼館に出入りもしてなかったから安心しろ。でも、お前を泣かせたら許さない。いつでも帰って来ていいからな」
「ありがとう兄さん。でも、今のところ大丈夫。それよりこれを商品化したい」
「これは凄い。病の予防か。グレイスいいところに目をつけたな。これは売れるぞ!」
兄は大喜びですぐに商品化することを決めた。




