14はっきり聞きました。不能だと
目が覚めると見知った場所にいた。
王都にあるオーブ子爵家の屋敷だった。
学園に通う頃は休日には良くここに来ていた。特にレイブルがなくなってからは薬屋で遅くまでいて兄と一緒にこの屋敷に帰ってきたりして。
兄さんったら私結婚したのに、まだ私の部屋そのままにして。
それより頭が痛い。それに右肩から腕にかけても‥
そこでやっとチャーチルの家で階段から落ちたことを思い出した。
「メイア?」
「お嬢様、気が‥ヴォルターすぐにエドワード様に」
バタバタ音がしてしばらくすると兄さんが走り込んで来た。
「グレイス?気が付いたか。良かった。俺がわかるか?」
目の前に兄がググっと顔を近づけた。
「兄さん、わかるわよ。もう、近いったら」
「おお、それくらい言えれば心配ないな。どこか痛むか?」
「うん、肩と腕が少し」
「ああ、でも運が良かった。右肩を打ち付けたが頭は打ってなかったんだ。ったく、何で‥」
湿布薬の匂いが鼻についた。
「すみません。俺のせいです。グレイスごめん。君に心配をかけた。ヴォルターから聞いた。昨晩アムソンティ伯爵家で俺を見たって」
見れば走り寄ったチャーチルが悲痛な顔で私に謝罪をしている。
「おい、誰が入っていいって言った?お前なんか!」
バコン。ドス!うぐっ。
「兄さんやめて、チャーチルは悪くない。私達はそう言う契約をして結婚したの。だから」
「違う!グレイスあの時は俺が間違っていた。あんな契約をした事後悔してるんだ。昨晩仮面舞踏会に行ったのは‥行ったのは、俺が不能だからだ。グレイスと結ばれたくても俺はそれが出来ないから白い結婚にすると言ったんだ。でも、もう無理なんだ。グレイスが愛しくて可愛くて抱きたいと思う。でも自信がなくて‥だから、誰でもいいから一度試してみようと、でも、そんな事出来なかった。君を裏切る事になると思うと全くそんな気になれなかったんだ。グレイスと本当の夫婦になりたい。心から互いを思い合うそんな夫婦に例えそんな事が出来ないとしてもそれでも俺は君と一緒に暮らしたいんだ!」
チャーチルの悲痛な叫び声とは裏腹に、私、兄、メイア、ヴォルターは不能という言葉に固まった。
「チャーチルが不能‥‥それって、つまり、女と事を成せないと言う?」
「ああ、それが原因‥」
「まあ、致命的な」
「気の毒に‥」
みんなの冷ややかな視線を浴びながらもチャーチルは私のベッドに近づき跪いた。
「いや、俺は、その‥コホン。とにかくグレイスを愛してるんだ。グレイスわかってくれるだろう?その、どうしてあんな事をしたのか。ただ、君を俺のモノにしたいって‥君を抱きたいと思った。でも、君が言ったような事は出来なかった。本当だ」
私は喉の渇きを覚え一度舌先で唇を湿らせる。じっと見据えられた瞳は美しい宝石のように澄み渡り一点の曇りもない。
「ええ、信じます。あなたの悩みに気づいてあげれなくてごめんなさい。でも、そんな事は気にしなくてもいいのに。私達は最初から白い結婚なんだから‥いたっ」
ズクっと打ち付けたところが痛んだ。ううん、それより胸が痛い。彼を信じれなかった。あんなに優しくしてくれてたのに。
「ご免、身体が辛いのに。でも、男って愛する人と繋がりたいって思うんだ。君を俺だけのものにしたいって、だからこれからは君に協力してもらってもいいかな?」
「もう、そんな事をこんな所で言うなんて!」
「あっ、ごめん。みんな聞かなかったことにしてくれ。お兄さんもこの話は内緒でお願いします」
「仕方ないな。グレイスお前本当にいいのか?今なら引き返せるぞ」
「ううん、私気づいた。チャーチルを失うことがすごく辛いって、それに彼はすごくいい人だし、ご両親も優しいし、このままがいい。ごめんなさいチャーチルあなたを疑って‥」
「いいんだ。そんなの」
彼が私の手をそっと握る。
「そうか、ならいいんだ。お前が幸せなら」
「お嬢様、私達もこれまで以上にお世話させて頂きますよ。ネッ、ヴォルター」
メイアがヴォルターにすり寄った。ヴォルターは嬉しそうに目を細めメイアの腰を抱いた。
「ヴォルターとメイアは恋人なのか?」
チャーチルが驚いた顔で尋ねた。
「ええ、そうよ。知らなかった?」
私は知ってけど。
「それならそうと言ってくれよ。俺はヴォルターは絶対グレイスが好きなんだって思ってたんだぞ!だって、いつもそばにいるし部屋からイチャイチャする声が聞こえてたから」
「あっ、それは私といちゃついてただけです」
メイアが手を上げるみたいにはい私ですって。そう言えば私の部屋でよくふたりでいちゃついてた。
「なんだよ。俺がどれだけヤキモキしてたか!」
「最初にあんな冷たい態度を取った罰です」
メイアにビシッと言われてチャーチル様がしょんぼりうなだれたがふっと何か思いだしたように口を開いた。
「そう言えば、グレイス、元婚約者のレイブル・クルーソの事今でも好きなのか?」
「何でそんな事を?」
チャーチルがガクッと肩を落とす。
「いいんだ。人の気持ちをどうかしようなんて無理な事だ。でも、俺、頑張るから君が俺を好きになってくれるまで」
「チャーチル様、その話どこから?」
「メイアから聞いた。今でも送るはずだったプレゼントを大切にしてるって」
「あっ、ちょ!メイアったらあれはもったいないから捨てれなかったって知ってるでしょう?チャーチル様誤解です。亡くなったクルーソ伯爵令息は婚約中に他の女性とあちこちで遊んでいたんです。私がそんな男にいつまでも執着すると思います?私が好きなのはチャーチル様です!ったく、メイアったら」
メイアが肩をすくめて「申し訳ありません。あの時は旦那様がひどい方だと思っていたので少し意地悪をしたんです」と謝る。
「はぁ、そうだったのか。でも、これも自分が招いた結果だから怒るに怒れないしな‥」
チャーチルは照れ臭そうに頭をぼりぼり書く。
「それで、チャーチルその契約書だが、どうする気だ?」
兄さんが尋ねた。




