【短編】古代転生~目が覚めたら原始地球~
彼が熱さによって目を覚ました時、目に入ったのは一面がマグマの海だった。
──え?
「っ!?」
ここは現代より約45億年前の地球。
一面がマグマで覆われており、大気は二酸化炭素が含まれている死の世界。
その温度は数千度にも及び、人間がこの環境に入った場合瞬時に蒸発するだろう。
それを証明するかのように彼が声を発しようとした瞬間、暴力的な熱量によって身体の水分は瞬時に蒸発し、皮膚は溶解し、骨すらも瞬時に蒸発して彼はこの世から消え失せた。
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次に彼が目を覚ました時、自分がまだ生きていることへの疑問を浮かべる前に再び蒸発したのだった。
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何度も何度も、蒸発しては復活を繰り返した彼は徐々に蒸発までの時間が長くなっていった。
最初は一瞬、数十回後は数秒、数百回後には数十秒。
ただひたすら圧倒的な熱量によって蒸発した彼は、数千回にも及ぶ死の果てに暴力的なまでの熱への耐性を獲得したのだった。
だが……、
「(息がっ! 苦しい!)」
熱で蒸発しなくなった彼を待っていたのは、呼吸ができないことによる窒息死だった。
それも当然だろう。
マグマで覆われた原始の地球の空気中に酸素など存在せず、あるのは水蒸気やメタン、アンモニアなどの有害な物質のみ。
当然そんなもので呼吸ができる訳もない彼は、再び死を繰り返すことになるのであった。
それも蒸発のようなものではなく、徐々に死んでいく窒息で。
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数百回もの窒息による死を経た彼は少し息苦しいながらも呼吸を行えるようになった。
そんな彼に待っていたのは豪華な報酬ではなく、幾千もの死と苦痛の記憶による精神の発狂であった。
何度も何度も死ぬまでの苦しみによって廃人となった彼は、マグマの海で仰向けに寝転がりながら分厚い雲に覆われた空を眺めていた。
最初の頃はまだよかった。
なにせ死ぬのも一瞬だ。
だが、不思議と死ぬまでの時間が長くなるにつれ、自分の身体が徐々に溶かされていく感覚を味わうことになってしまった。
呼吸ができない時もそうだ。
最初は一切の呼吸ができなかったためすぐに死んでしまったが、徐々に呼吸ができてくるようになると反射で呼吸をしてしまい死ぬまでの時間が長くなる。
そんなことを繰り返していたら廃人になるのも致し方ないだろう。
完全に精神が破壊されていた彼だったが、自然は彼を休ませる気はないようで、覆われていた分厚い雲に空から何かが突撃してきた。
それは岩だ。
人間である彼から見ればとてつもなく大きな岩。
宇宙から飛来する岩。
人はそれを"隕石"と呼ぶ。
飛来した隕石は一直線に彼のいる場所へと向かい、そのまま彼をマグマの海の中へと押し込んだ。
マグマの中へと押し込まれる彼の身体は隕石によって引き裂かれ、身体が二つになった彼は再び意識を途切れさせた。
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再び彼が目を覚ましたのはマグマの中だった。
前後左右すべてがマグマの中を漂っていた彼は、口と鼻から入ってくるマグマを一切気にせずにただひたすらボーっと過ごす。
そんな彼は呼吸ができないことで何度も死にながら徐々に浮かんでいき、数十回ほど死んだ頃に再び大気の元へと顔を出した。
だがそんな彼を嘲笑うかのように再び隕石が彼へ衝突し、再度身体を破壊されながらマグマの中へと押し込まれるのであった。
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それから一体どれほどの時が経っただろう。
マグマの中に押し込まれ呼吸ができないことで死んでいた彼は、ついにマグマの中ですら呼吸ができるようになった。
だが呼吸ができるようになったのだとしても、浮かび上がれば再び隕石によって身体を引き裂かれながらマグマの中へと押し込まれる。
何度も何度も繰り返していた彼だったが再び浮かび上がった今、既に数分はマグマの海で分厚い雲をボーっと見ながら浮かんでいた。
不思議なことにこの数分は彼へ直撃する隕石は一つも無く、あるとしても小さな隕石で彼の身体に穴を空ける程度。
それが原因で死ぬこともあったが、そこで死んでも目を覚ますのはマグマの上。
完全に廃人となって何度身体を引き裂かれて死のうとも無反応だった彼は、徐々に徐々に意識を取り戻し始めていた。
「(……)」
未だに言葉を考えることすらできない有様ではあるが、廃人だった彼の精神は間違いなく復活の兆しを見せていた。
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「(……おれは、だれだ?)」
隕石が降り注いでマグマの海が波打つこと数千回、彼はついに意識を取り戻した。
「(おれは、たしか……っっ!)」
今の自分がどういう状況なのかと考えた彼は思い出す。
今までの苦しみ、痛み、絶望を。
「(っ……?)」
数千、数万にも及ぶ苦しみの記憶を思い出した彼だったが、不思議と再び廃人へ戻ることは無かった。
それが良い事なのかどうかは置いといて、とにかく正常な意識を取り戻した彼は現状の把握を始める。
「(おれは、しんだはずじゃ……? でも、あのくるしみはっ)」
自分は死んだはず。当然の疑問を思い浮かべた彼だったが、それを否定するかのように幾度もの苦しみが脳内を駆け巡る。
「(おれはしんだんだ。でもなぜかいきかえった。そんなことが、ありえるのか?)」
普通ならばあり得ないだろう。
だがそれを言うならばマグマの海へ叩き落されているのもあり得ないことだ。
「(これはたぶんマグマ。最初にとけたりしていたのは熱によるもの)」
彼は自身が浸っている赤いマグマを手に掬って握ったりしてみるが、既にその熱は一切感じ取れない。
むしろ彼にとってはとても快適な環境といっても過言ではなく、まるでふかふかのベッドの上にいるかのようであった。
「(おれは、この世界にてんい……いや、転生したのか? そして死ぬことでたいせいを得れる力を得た……?)」
半分正解である。
彼はこの原始地球へと新たな生命として転生した"転生者"だ。
彼が転生した際に得た能力はまさに破格といえるものであり、それは自身を"不滅"にする力。
彼は何度蒸発しようと、身体が分断されようと、粉々に砕かれようと、それらを無かったことにして復活する。
そして普通の生命ならば環境に適応できなければ絶滅するしかないが、彼の場合は能力によって復活できるため、彼の身体はあらゆる環境に適応するよう進化し続ける。
それが数千度にも及ぶ大気だろうと、酸素の無い大気とマグマの中だろうと変わらない。
ただし、その際に与えられる痛みや苦痛を無効化することはできない上に、適応するのは能力ではなく彼の身体であるためいつ適応できるかは誰も分からない。
「(でも、それが分かったからといって俺はどうすればいいんだ……?)」
自身の力を理解した彼だったが、だから何だというのが今の彼の環境だ。
なにせ見渡す限りマグマの海に空から飛来する隕石。
彼以外の生物はどこにも見えず、あるのはマグマのボコボコという音と隕石が衝突した音のみ。
マグマの中で生存できるような生物がいる訳も無く、これから彼は孤独の中で生きていくことになるだろう。
「(おれは……)」
彼が今後をどうすればいいかを悩んでいた時、分厚い雲を割いて今までに見たことが無いほどの巨大な隕石が遠くの方へ落ちてくるのが見えた。
だが彼が視線を奪われたのは隕石ではない。
彼が思わず視線を奪われたのは、隕石が引き裂いた雲の先。
それは間違いなく前世で見ていた星座の一つだった。
ひし形の四つの角の先にはいくつもの明るい星が見えている。
本来ならばひし形の角の先には二つの明るい星であり少しだけ星の数が変だ。
だがそれは間違いなく前世で見た物とほぼ同じ、ギリシャの大英雄"ヘルクレス"の名前を冠した星座"ヘルクレス座"である。
星座を認識した瞬間に巨大な隕石の衝撃波によって消し飛ばされた彼だったが、復活した時には希望が生まれていた。
「(少しだけ変だったけれどあれは間違いなくヘルクレス座だった。少し変だったのはここが異世界だからだとして……ここはもしかして、遥か昔の地球なのか?)」
実際には別の星という可能性もあるだろうと冷静に考える彼だが、一度芽生えた希望は中々消えることは無い。
「(ここが地球なのだとしたら、恐らくここは現代から45億年前の原始地球。つまり俺は異世界に転生した上にタイムスリップしたのか……?)」
だとしたら、人間が生まれるのは45億年後。
つまりは45億年間生き続ければ、人間の生活へ戻れるかもしれない。
だがそれは45億年もの間、一人で生き続けなければならないことを意味する。
「(……いや、一人じゃない。現代から40億年前には生命が生まれていたはず。……最低でも5億年か)」
気が遠くなるほどの時間だ。
彼は5億年もの間、マグマと隕石の中で一人生き続けなければならない。
そして五億年もの間生き続けたのだとしても、待っているのは会話ができるような生物ではなく微生物のような小さい生物。
だが微生物だろうが生物である。
自分以外の生物がいない環境で出会う自分以外の生物はさぞ感動することだろう。
だが、
「(問題は5億年のあいだ何すればいいんだ? ここにはゲームもないし。……とりあえずマグマの中で泳げるようになっておくか)」
目下の問題として何をすればいいかを考えた彼は、とりあえずマグマの中で泳げるようになることにしたようだ。
だがマグマ遊泳だけで5億年もの間暇をつぶせるはずがないため、最終的に彼が選んだのは……マグマの上で寝ることであった。
ここまで読んでくださりありがとうございました。




