第18話 ルルナ・キャスパリーグ
(*´∀`*)おぱようございみゃす!
「お断りします」
レイヴンは腰を丁寧に曲げて断る。
「あらあら、うふふ、振られてしまいましたわ」
ルルナは面白そうにコロコロと笑う。
「⋯お主、女の扱いに手慣れて来とるな?」
「言わんで下さいよ」
皮肉な事だが、プリムやカグラやコヨミのお陰である。
彼女達のアプローチでお腹いっぱいになっていなければ、金髪青眼の美少女の笑顔にコロリとやられていただろう。
「私とレイヴン様の婚姻が成されれば話は簡単でしたが⋯仕方有りませんね」
溜め息を吐き出しながら美少女が次善策を走らせる。
(あらあら、うふふ、予想より手強いですわね)
ルルナはその美貌と社交力で学園内外を立ち回って来た。
まるで身売りする様な出会い頭の求婚であるが、今の彼女のやや複雑な状況からすると、実は最善の一手であった。
不発に終わったものの布石にはなっている。
(まだチャンスは有りますわ)
成人済みであるが婚約者を決めて来なかった事が活きて来る。
生粋の高位貴族令嬢は幼少期か、それこそ産まれる前に許嫁が決められている。
普段は彼女達の下に甘んじているルルナであるが、今は一歩リードである。
二代目勇者レイヴンへのアプローチ。
(手強いのはやはり初代勇者パーティー直系子孫の方々ですわね。それにしても、近くで見るとやはり⋯)
彼女の審美眼が容赦無くレイヴンを値踏みする。
中肉中背、特に特徴も無い風貌。
ルルナが普段接してる男性と比べてカリスマもオーラも感じない。
刺激されるとしたら、母性本能だろうか?
年齢差は十歳程彼の方が上の筈だが、何やら守ってあげたくなる様な妙な庇護欲を唆られる。
(うふふ、お可愛らしいですわ)
凡庸そうで普通そう。
群衆に紛れたら直ぐに見失いそうである。
飾り気の無さは誠実さの現れか。
(ふふ、何処にあの様なスーパーパワーを秘めているのかしら?)
初代勇者直系子孫プリムとの模擬戦は観客席から観ていた。
プリムと交流を持とうと努力した事は有るが、拳による肉体言語を母国語とする戦闘民族とは国交断絶気味なルルナである。
ルルナは戦闘に関しては完全な素人。
婦女子の嗜みとして多少の護身術や魔法を身に付けてはいるが、学園内に居る化け物共とまともに渡り合える自信は無い。
彼女の武器は知識と教養と人脈、そして言葉、つまりは社交術、交渉術だ。
レイヴンは隙が有る様に見えて隙が無い。
女にも金にも靡きそうにない。
鋼の意思が有ると云うより、小市民的感覚が貴族的常識とかけ離れている。
成り上がり商人、もしくは没落貴族として踏ん張って来たルルナの手持ちカードが尽く通じそうにない。
一番効果の有りそうだった自身の美貌も通じなかった。
完璧なポーカーフェイスで誤魔化したが、ちょっとショックだったのは内緒である。
(その方が燃えますけれど)
しかしこの程度でへこたれる程、ルルナ・キャスパリーグはヤワではない。
「本当に宜しいので?私の提案を受けて頂ければ、プリム様やカグラ様と結婚なさらないで済みますのに」
「そうなの?」
確か決闘中は他の女子生徒の介入は御法度と聞いたが。
「そうですわよね?ポプリ校長」
「ふむ、そうさの」
(ちっ。良く知っておるな⋯)
レイヴンにはプリムとカグラ、勝った方どちらかと結婚しないとならないと嘯いていたが、実は違う。
決闘内容に際し、レイヴン本人の同意を得ていない。
勿論、彼を賭けて戦う二人の気持ちを無碍にする事はマナー違反だが、ルール違反ではない。
レイヴンの意思も、当たり前だが尊重されなければならない。
この期間に二人以外の誰かと結婚⋯少なくとも婚約をすれば二人の決闘は意味を為さず無効試合となる。
結果的にレイヴンを寝盗ったルルナは、プリムとカグラ二人に恨まれ決闘を申し込まれる可能性も高いが。
一週間の猶予はカグラが設定したものであるが、決闘の調整期間としては妥当なものである。
ちなみに一週間と長くしたのは、カグラが単に戦闘狂なだけであるが。
しかしそれらも全て夫、もしくは婚約者となったレイヴンが退ければ問題無い。
正式な婚約者を得た男が他の女子生徒を倒せば全て解決する。
初代勇者時代からのルールだ。
弱肉強食。
強い者が我を通せる。
勿論、古のその時代、熾烈を極める二人の女子に挟まれた男は違う女子を選ぶ事等出来ず、大体が勝者の女子と結婚したりした。
金銭や契約で他の女子と子作りする事も有ったが、完全に勝者の所有物である。
魔王軍との戦争で強い男は軒並み死んでおり、残されたのは男に飢えた大量の女と、大切に守られたお坊ちゃん達ばかりだった。
この頃の男性達には暗黒時代であったろう。
現代人が抱くハーレム生活とは程遠い。
割り込みした女子生徒が取り合う二人を倒して男をゲットしても結局、種付けの為に貸し出される事も多かった。
男不足に依り仕方無いとは云え、正に種馬である。
(⋯そんな昔の校則、何故残した⋯)
レイヴンはもう一度しっかり初代勇者時代の校則を見直す事を決意する。
穴が有れば其処を突き、窮地を脱する打開策を閃けるかも知れない。
(⋯⋯⋯調べるにはまた図書館行かないといかんのか⋯)
コヨミが手薬煉引いて待っているだろう。
「まぁの。レイヴンはあの二人と結婚すると了承してはおらん。二人の決闘はそうさの⋯レイヴンへのアプローチ権と云った所か」
「うわぁ、騙された」
レイヴンが非難めいた視線をポプリ校長に向ける。
ボイィィン!な女学生を人質にしてレイヴンの転職をゴリ押ししたり、やはり老獪なクォーターエルフである。
見た目は五歳児ぐらいなので本当に騙される。
「じゃからの。ルルナよ。レイヴンへの求婚は横紙破りが過ぎるぞい?」
他の女子生徒は指を咥えて見ていると云うのに。
(敢えて放置してる連中も居るがの⋯)
「そうでしょうか?婚約者不在の貴族令嬢は独身男性へのアプローチを許されています。此れも校則ですわ。それにプリム様カグラ様両名は正式にレイヴン様へ求婚していません。お互いにレイヴン様を己の所有物であるかの様に主張していただけ。お二方の方がレイヴン様に対して失礼なのでは?」
「ぬぅ」
(手強い⋯)
決闘システムが発動してる以上、今更プリムやカグラがレイヴンへ求婚する術は無い。
それこそ決闘の勝者になってからだ。
ルルナの行為はルール違反では無い。
だが実践する者はほぼ居ないだろう。
ルール等気にしない無法者二人に恨まれるのだ。
割に合わな過ぎだ。
「さて、では本題と参りましょうか」
ルルナはスッと身を引く。
此れ以上は宜しくない。
婚約者の居ない独身女性⋯勇者学園最強の女が目の前に居る。
余り無茶を言うとポプリ校長本人が乗り出して来る。
ポプリ校長が自分を売り込まないのは、自分自身が切り札だと理解しているからだ。
現生徒会メンバーであり、この国の正真正銘のお姫様。
もしも彼女がレイヴン奪取に乗り出して来た場合、ポプリ校長は動くだろう。
「こちらからの条件は、我々の家を偽者扱いしない事。此れに尽きます」
「勿論だよ」
(俺だってレプリカを抜いただけの偽者だもん)
「おい、勝手に話を進めるな」
ポプリが待ったを掛けるが強く出れない。
レイヴンはまだ正式採用手続き中。
ギリギリ試用期間中みたいな扱いだ。
貴族令嬢が将来性の有る男性へアプローチするのを止められない。
勇者学園校長室であるのに、校長は部外者なのである。
(しまったの。上手く止めるつもりが立会人の様なポジションにされてしもうた)
ルルナはレイヴンがやって来た偶然を最大限活かして来ている。
それに話がズレて来ている。
婚約話からビジネスの話に。
此れだと更に止めれない。
「我々と違う会社と契約しない事」
「違う会社?」
「勇者饅頭等の類似品を売ってる会社ですわ。確か十代目勇者の家だったかしら。小さく十代目と書かれた物を、勇者饅頭として販売しています。うちよりも品質が落ちてる上に値段も高く、偶にうちへクレームが入る事も有って困っています。ただその家には年頃の娘は居ないので強引な手段は取れない筈ですが。テレビCM等にも―――」
「大丈夫、テレビCMなんざお断りだよ」
「⋯それは良かったですわ」
(あら?まとめて断られてしまいましたか)
レイヴンは本当に嫌そうである。
キャスパリーグ家の公式アンバサダーにも成ってはくれなそうだが、他社にヘッドハンティングされる心配も無いだろう。
「では私とデートして下さいな」
「何故?」
結婚、婚約よりかはハードルは低いが、そんなに自分に拘る理由が本当に解らない。
自分はレプリカの聖剣を⋯
(そうか。聖剣がレプリカなのは公然の秘密。俺が抜いたのはあくまで本物の聖剣なんだった)
「アピールですわ」
「でも俺は⋯」
「勿論、何か私と契約して欲しい訳では御座いません。只、私達が仲良くしている事をアピールするだけです」
「それって俺に何かメリット有るの?」
レイヴンはズバッと切り捨てる。
自分の様な美少女とデートする事自体が最高のメリットなのに。
ルルナのプライドがまた少しダメージを受ける。
しかしレイヴンに鋼の意志が有った訳ではない。
(こんな娘とデートなんて緊張して疲れちゃうよ)
ルルナの読み通り、小市民的な理由からであった。
「その⋯メリットは、有り、ません⋯」
少し言い淀むルルナ。
(この方には駆け引きよりも誠実に対応した方が宜しいですわね⋯)
この後に用意していたシナリオは、本家二代目勇者レイヴンと、元祖二代目勇者キャスパリーグ家との折衝であった。
彼女の提示する金銭や恩恵を提示してレイヴンを囲い込む算段だったが、それは悪手だと即断。
本当はバラしたくは無かったプライベートな事情を晒す覚悟を決める。
「⋯とある貴族の方から求婚を受けておりまして。断っているのですが、しつこくて⋯私⋯怖くて⋯」
「それは⋯」
演技でなく身体が震える。
どんなに財力が有ろうと貴族位が有ろうと、あくまでも成り上がりの商人に過ぎない。
没落貴族の令嬢の血を引いているが、半平民半貴族の様な見方をされ侮られる事も多い。
ガチ貴族から直球の求婚を受けると、簡単に袖に出来ないのだ。
それにもしも実力行使に出られたら抵抗出来ない。
基本的に貴族の方が平民より魔力が高く、単純に強いのだ。
「私を守って下さいませ」
潤んだ瞳で訴えてみる。
「デートして⋯それで守る事になるのか?」
(その貴族と戦えって云う訳じゃないなら⋯)
少し戸惑ったレイヴンの顔⋯ちょっと可愛い。
「ええ、うふふ。勿論ですわ」
「止せっ!レイヴンっ!その話は断―――」
ポプリがストップする。
「そのくらいなら別に良いよ」
(少し気分転換したいのかな?俺もしたいし、丁度良いか)
あっさり安請け合いしてしまうレイヴン。
二代目勇者等と云う訳の解らないものを引き受けた手前、可愛い女の子とデートするぐらいなら問題無い。
彼の感性からすると、教え子とデート等抵抗が有りそうなものなのだが、アンジェラートのお陰でそこも緩和されていた。
アンジェラートはレイヴンとの仲を進める為に、ちょっとした夕飯の買い出しや犬のお散歩でもデートデートと繰り返しアピールしてしまっていた。
策士策に溺れる。
ポプリとアンジェラート、二人の策略が自身の首を絞めていた。
ポプリの強引な勧誘と転職の所為でレイヴンは多少の事は簡単に引き受けてしまうし、アンジェラートのアプローチが酷かった所為で女子からの誘惑に変に場馴れしてしまっていた。
「有り難う御座います。レイヴン様」
「ああっ!もぉっ!このバカタレッ!もう知らんっ!」
「さっきからなんなんですか?ちょっとお出掛けするだけでしょう?」
ドア・イン・ザ・フェイス⋯譲歩的依頼法。
相手が断るような大きな要求を最初にぶつけ、断られた後に本命の小さな要求を呑ませる交渉術の基本だ。
学園外に連れ出されると校長には手を出し難くなる。
「それでは参りましょうか。レイヴン様?」
ルルナは嫣然と微笑み、レイヴンの手を取って校長室を後にした。
(*´∀`*)お読み頂き有り難う御座いみゃす!




