第15話 夜に朝食を食べる勇者
(*´∀`*)おぱようございみゃす!
「こんな料理⋯何処から⋯」
自室のテーブルには豪勢な料理が並んでいた。
「⋯ふふ。今朝此処に来る前に用意してた、の⋯。コヨミ偉い?⋯」
レイヴンが散歩してカグラと会話してる時間だけでこれだけの料理は作れまい。
今朝男子寮に不法侵入した時に下拵えをしておいた筈だ。
レイヴンが帰宅後、なんやかや二人で眠ってしまったので夕飯になってしまったのだろう。
豪勢ではあるが、トーストやサラダ、オムレツ、フルーツヨーグルト等、何処か朝食っぽい。
しかし考えてみれば朝から何も食べてない。
(コヨミ⋯ちょっと変わってるけど、優しい子なんだな⋯)
まぁレイヴンが食事しそびれているのはコヨミの所為なので、マッチポンプも良い所なのだが。
「偉い偉い」
「⋯えへへ」
頭を撫でてやると嬉しそうにするコヨミ。
ちなみに今はちゃんと制服を着ている。
服を着ろと言ったら普通に着てくれた。
「⋯それじゃぁね、おやすみ、なさい⋯」
コヨミはペコリと頭を下げ、玄関へ向かう。
コヨミの首輪がカチャリとあっさり外れる。
レイヴンの手元に戻る鎖に哀しそうな視線を送るコヨミ。
(なんで残念そうなんだよ⋯)
一応門限ギリギリだ。
夜更けに男子寮から出て来る所を風紀委員会や放送委員会や新聞部に見つかるとレイヴンの迷惑になる。
「ああ、おやすみ、コヨミ」
「⋯またね、先生⋯」
名残惜しそうにしながら男子寮を後にするコヨミ。
本当はレイヴンが自分の手料理を食べている所を見ていたかった。
その後コヨミ自身も召し上がられたかった。
⋯が、仕方無い。
まだチャンスは有る。
レイヴンに対して⋯コヨミはとある強力な魔術式を発動させ続けていた。
それが効いていれば、とっくのとうにレイヴンはコヨミの肉体に溺れていただろう。
つまり彼自身が拒否する限り他の何者かに寝盗られる可能性は、無い。
「⋯彼は私のよ?渡さない、から⋯今度こそ⋯今度こそ、コヨミの物に⋯するの⋯」
俯き笑うコヨミは闇夜へと消えて行く。
前から見たらコヨミはまるで幽鬼の如く邪悪なオーラを纏って見えただろう、
しかし男子寮の二階から見下ろすと、寂しそうにトボトボ歩いている様にも見える。
「ごめんな。慕ってくれるのは嬉しいんだけど⋯」
手段に問題が有り過ぎるが、あんな直球に想いをぶつけて来る少女に応えられず、心苦しく思うレイヴン。
とことんお人好しである。
「じゃぁ頂くかな」
歩み去るコヨミを窓から見送った後、レイヴンは遅くなりまくった朝食を食べる。
胃に悪いので珈琲はカフェオレにして一口。
「⋯⋯美味い⋯⋯」
空っぽの胃に染み入る苦味と甘味とまろやかさ。
「頂きます。ズズッ⋯あったかいな⋯」
クリーミーなコーンスープも胃腸を温めてくれる。
トーストを齧るとカリカリで美味しい。
オムレツもぷるぷるだ。
ソーセージも皮はパリパリに焼けていてジューシーである。
サラダもしゃきしゃきしていて、しっかり下処理されているのが窺える。
デザート代わりのフルーツヨーグルトを食べると、妙に甘いのは蜂蜜入りだからだろう。
味付けは本人の行動程エキセントリックでなく、良い塩梅にバランスが取れている。
献立はシンプルだがそれ故に実力が透けて見える。
「プロ並じゃないのか?」
レイヴンも幼い頃から自炊している。
祖父母も働いていたので、料理等はレイヴンもしていた。
その彼でもコヨミには敵わないと思う。
王都観光中に立ち寄ったレストランや、ホテルで食べたモーニングと比べても引けを取らない。
コヨミの愛情と⋯とある魔術式⋯が、たっぷり籠もったご飯を食べ終わった後、レイヴンはベッドに入る。
散歩して小腹を満たしたから良い感じに眠気が来たので、そのままストンと落ちる様に眠りにつく。
そうして翌朝、シャワーを浴び髭を剃り髪や服を整え、改めて校長室に出向いた。
「ポプリ校長、昨日は申し訳有りませんでした」
「ん?なんじゃ?」
ノックし入室した直後、深々と頭を下げて謝罪するレイヴンに、不思議そうに小首を傾げる超合法ロリエルフ。
「ですから、昨日は無断で休んでしまい大変申し訳有りませんでした」
「んむ?まだ正式採用ではないから気にせんで良いぞい」
ポプリはあっさりとそう返す。
「え?それじゃぁ―――」
正式採用ではない。
ならばもしかして田舎に帰れるのかも?
淡い希望を抱く二代目勇者。
「おん?前の職場は退職させてあるぞい。安心せい」
「そうですか⋯」
駄目だった。
「ただの、貴様の採用に横槍が入ってのぉ」
「はぁ」
「少し待て。直ぐに黙らせる」
間抜けな聖剣を抜く動画と、初代勇者直系子孫プリムを完封した動画。
判断材料としては曖昧な物ばかり。
だが事実としてレイヴンは聖剣を抜き、初代勇者直系子孫に勝利した。
動画がどんなに胡散臭くても此れは勇者と断定しても良い。
塩梅も上出来だ。
格好良く聖剣を抜いたり―――例えばモンスターが都合良く町中に現れそれを倒す為に聖剣を抜くとか―――していたら、興味を持たれた王族に盗られていたろう。
「軍部も今きな臭いからのぉ⋯。平和な時代が続き軍縮も進んでおる。武官の一派はまだ起死回生の一手を狙っておる様でな。レイヴンお主、軍部に目を付けられたら最前線に投入されるぞい?」
「はは、は、そんな無茶な⋯」
自分はレプリカの聖剣を抜いただけなのに。
「今は小競り合い程度しか戦闘は無いがの。今更勇者が現れる等誰も予想しておらんかったし」
「なんか本当すいません⋯」
レプリカとは云え大事になってしまった事を自覚するレイヴン。
確かに田舎の学校の校長もレプリカの骨董品の壺を大切に磨いていた。
オリジナルではないのにと思ったが、本物は天文学的な値段だと云う。
それに贋作とかでなくレプリカは、製作者の本物に寄せようとする努力が見えて、それはそれで良い味らしい。
一流の作家が作ったレプリカは校長に長年愛され、本当に価値の有る壺となっていたのだ。
そう考えるならば、あのレプリカの聖剣もきっと作者の思い入れが有るに違いない。
どのくらいの期間役目を果たしていたかは解らないが、もしかすると百年以上本物の聖剣の代役を務め、数多の人間の尊敬と憧れの眼差しを浴び続けていたのかも知れない。
実際プリム等はアレがまだ本物だと信じ切っている。
自分はその嘘を押し通すのが仕事なのだ。
「⋯まだ今一実感は無いですが。二代目勇者として、まぁ頑張りますよ。本物の聖剣を抜いた者として、ね」
(だから早く新しいレプリカを用意して下さいね?それまでなんとか道化を演じますから)
「ふふっ。自覚が出て来て何よりじゃの」
レイヴンの覚悟の籠もった顔を見てポプリ校長は満足気に頷く。
彼の心の声は、ポプリ校長には届いていないのであった。
(*´∀`*)お読み頂き有り難う御座いみゃーす!




