エピローグ
仮名荘の事件から数週間たった。
まだ暑い夏は続いていた。
僕は詩羽と待ち合わせしている喫茶店のドアを押した。
真鍮のベルが、澄んだ音を鳴らす。
僕は詩羽を探し店内を見渡していると聞き覚えのある声が聞こえた。
「こっちだよ朔之介!」
僕が席に座ったらメニューを僕の前に突きつけた。
「今日は私のお、ご、り!」
「じゃあこのケーキと――」
「コーヒーね」
詩羽は店員をよびコーヒーとケーキ2個注文した。
コーヒーが届き僕は一番気になっていることを聞いた。
「何歳?」
「16高1」
「年下じゃん!」
詩羽は大きく目を開き言った。
「え?!同い年だと思ってた」
僕らは大きく笑いその後も他愛もない話を続けた。
「てかコーヒーに砂糖入れすぎたろ」
「僕はコーヒー苦手なんだよ」
「じゃあなんで頼んだの?」
「コーヒーはきみが頼んだんだろ!」
僕らはまた大きく笑った
僕がコーヒーを口に運ぼうとした瞬間――
「わぁっ!」
詩羽が手を滑らせ、ケーキの一部がテーブルから落ちてしまった。
「ちょ、ちょっと待って!」
僕は慌てて手を伸ばしたが、時すでに遅し。ケーキは床に落ち、ふわっとクリームが跳ねた。
「うわぁぁ、私のごちそうが……!」
詩羽は大げさに両手を広げ、床を見つめながら叫ぶ。
「大丈夫、大丈夫。まだ半分残ってるし、僕が食べるから」
僕は苦笑しつつ、残ったケーキを手に取りながら言った。
「えー、ケーキ泥棒……」
詩羽は悔しそうに眉をひそめるけど、その顔はどこか楽しそうだった。
店員さんが慌てて駆け寄ってきて、床を拭きながら「大丈夫ですか?」と心配そうに声をかける。
「ごめんなさい!」
詩羽は頭を下げるが、すぐに僕を見てにっこり笑った。
「でも、こういうハプニングも悪くないね!」
僕はその笑顔に思わず笑ってしまった。
事件は終わり、日常は戻った――
僕らはただケーキを食べ、笑い合い、穏やかな時間を過ごした。
それだけで、充分だった。




