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第五章 Δの檻


 嵐のように去って行った詩羽を、しばらく庇の下で見送っていた。

 けれど胸のざわめきは消えなかった。

 あんな顔をした詩羽を、放っておけるわけがない。

 少しして僕は荘に戻り、廊下の突き当たり見慣れない部屋に明かりがついているのに気づいた。

 そっと扉を開いて覗くと、詩羽が椅子に寄りかかっていた。

「詩羽?」


 呼びかけると、詩羽は少し驚いたようにこちらを見て、ゆっくり立ち上がった。

「さっきは、なんか悪かったな〜」

 謝っているくせに、声だけはいつも通り軽い。

 本気で反省しているようには見えない。

 出ていこうとする詩羽の背中を見て、僕は思わず呼び止めた。

「何でそんなに焦ってるんだ?」

 その一言で、詩羽はぴたりと動きを止めた。

 振り返った顔は、さっき食堂で見せたものとは少し違っていた。

「……なんでそう思う? 焦ってなんてない」

「だって最終手段だーとか言ってただろ?」

「それはそれ、これはこれ」

 曖昧な返事を残し、詩羽はすぐに部屋を出ようとした。

 だが、扉のところでふと立ち止まり、こちらを振り返る。

「⑦」

 それだけ短く言い残して、今度こそ去っていった。

 ⑦──桐生葵の部屋。

 あそこに来い、という意味だろう。


 詩羽が何を考えているのかは分からない。

 でも、これから何かが動く気がした。


桐生葵の部屋の前に行くと、詩羽が棚や床をひっくり返して荒らしているところだった。

「何してんだよ、アホなの?」


「朔之介……冷静だね」

 その直後、僕の顔に枕が飛んできた。

 腹が立った僕は、もう相手にする気にもなれず部屋を出ようとした。

 ──なんなんだあの女!


 怒りのまま出口へ向かった瞬間、足が何かに引っかかり、前のめりに倒れてドアにぶつかった。

 

 カランッ。

 金属の落ちる音がした。

「……ん?」

 床を見ると、ドア内側の“つまみ”――サムターンが落ちていた。

 ネジ式だったようで、衝撃で外れたらしい。

 僕はそれを拾い、内側につけ直そうと穴に当て、くるくるとネジを締めた。

「どこだ?……ここか。分かりづらいな……よく見ないと」

 一応ついたようなので、確認するため一度廊下に出て扉を閉めた。


「あれ……?」

 サムターンが“外側”についていた。


 僕は呆気に取られながら内側を覗く。

 すると内側にも同じ取り付け穴があるのが見えた。


 つまり僕は、反対側の穴につけ直していたのだ。

 外側からでも“普通に付けられてしまう構造”だった。

「……そういうことか。これなら……密室が作れる!」


 背筋に電流が走った。


「おい!どこに行くんだよ!」

 詩羽がドタドタと走ってきて、僕の肩をつかんだ。

「密室トリックがわかったから」

「逃げる気か!」

 何から逃げると言っているのか分からなかったが、一応「逃げないよ」と返して歩きだそうとした。

 だがまた腕をつかまれて止められる。


「七瀬つかさの死に方は、“心音の鎖”と同じだよ! まだだね、終劇の執筆者だね!!」


 詩羽はほとんど早口でまくしたてると、桐生葵の部屋の扉を思いきり閉めた。

 バキッ、と嫌な音がしたが──もう僕の知ったことじゃなかった。


 その後僕は部屋に戻って寝た。


その後、僕は部屋に戻り、やっとのことで寝付いた。


しかし朝、耳をつんざくような争う声で叩き起こされた。

またかよ……どうせ詩羽が怒らせたんだろ。

僕は布団に潜り込み、二度寝を試みた。


ドゴォッ!!

「オラァ!ふざけんなや!」

ドカッ、バキッ、ガシャーンッ!!


さすがに無視できず、僕は飛び起き、急いで着替えて外へ出た。

「何なんだよ!!ぶっ殺すぞ!」

怒鳴り声の主は、完全に怒り狂ったフィレモン灯だった。

その攻撃の標的は、必死に避けるN.Y.トワイライト。額に汗が浮かび、表情は血相を変えている。


少し離れた場所には、詩羽、朝倉涼、雨裂ミドリの三人が立っていた。

しかし三人は止めるどころか、ただ傍観しているだけだ。

「ちょっと!落ち着いて!」

僕が叫んだ瞬間、フィレモン灯の拳が炸裂し、僕は勢いよく吹き飛ばされた。


しかしその勢いで、ちょうど三人のもとへ飛ばされる形になった。

風圧に体を揺らされながら、僕は必死にバランスを取り、三人の前で立ち止まった。


「何が起きたの?」

「あれは三十分前」

朝倉涼は僕の目の前に立ち、語り始めた。


「私が食堂に向かっている最中でした」

「涼!お前も食堂に?」

食堂に向かって歩いていたN.Y.トワイライトと出会ったのです。

二人で歩き始めると、突然フィレモン灯と出くわしました。

「よっ!」

彼は明るく挨拶していましたが、目の下には大きなクマがありました。

それに目をつけたN.Y.トワイライトはヘラヘラ笑いながら言いました。

「その目の下のクマ、どうしたの?

徹夜で証拠隠滅でもしたの?

やっぱりお前が犯人だったんだな。もう逃げられないって顔してるじゃん」

N.Y.トワイライトの挑発に、フィレモン灯の顔は真っ赤に染まった。

そしてこれです。

 

朝倉涼は話し終えると僕の前から離れた。

N.Y.トワイライトのせいすぎるな。

僕は遠くから争いを見ていた。

「あっ!」

フィレモン灯はN.Y.トワイライトを掴み、すぐそばにあった①の扉に叩きつけた。

「うわっ!」

扉は既にボロボロで、叩きつけられた衝撃で倒れ、崩れ落ちた。


ちなみに、①の扉は蓮水ピクトの部屋だ。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」

すると、中から二人の悲鳴が聞こえた。

僕と三人は急いで部屋を覗き込む。

そこには血だらけでうつ伏せに倒れた蓮水ピクトがいた。

彼の近くには血で大きな三角?が描かれ、囲まれていた。

僕は恐る恐る近づき、彼の体に触れたが、すでに手遅れだった。

慎重にうつ伏せの体を仰向きに変える。

胸には包丁のようなもので一突きされた傷跡があった。

「?」

彼の腕の下には血で何かが書かれていた。


  \ ◯

    \  \


 ダイイングメッセージか?

 僕はみんなに見えないように、体でダイイングメッセージを隠した。


「これは三角じゃなくてデルタだね」

 朝倉涼がそう言った。


「デルタ?」

「たぶんだけどね。蓮水はΔ(デルタ)の檻ってのを書いてたから」

 朝倉涼はデルタの形を手で示しながら説明してくれた。


「それじゃ、みんな外に出てね」

 詩羽は皆を外に押し出し、僕のところに歩み寄ってきた。

 そして僕を軽く弾き飛ばす。


「これは何?」

「ダイイングメッセージだろ」

「知ってる。誰を表しているんだろう?」

 詩羽は手帳を取り出し、メモを取り始めた。


 僕はそっと部屋を出た。

 あと解けていない謎は、第二の殺人と今のダイイングメッセージだ。

 まあ、第二の殺人はある程度わかっている。

 犯人はピアノ線で白石ゆうとの首を切り、壁には引っ張られて外れた木の破片が散乱していた。


 よし、あとは皆の話を聞こう。


「フィレモン灯さん、お話を聞きたいのですが」

 フィレモン灯は不機嫌そうに答えた。

「アリバイなんてあるわけねぇだろ……」

「違います。僕が聞きたいのは、仮名荘でオフ会をするって決めたのはいつ頃ですか?」


 フィレモン灯は頭を掻きながら答えた。

「オフ会が決まってから一ヶ月後くらいだよ」

「ありがとうございます」

 僕は礼を言って次に向かった。


「こんにちは、N.Y.トワイライトさん。聞きたいことがあります」

 N.Y.トワイライトは驚いた顔で応じた。

「おっ!こんにちは!何でも聞いて!」

「オフ会メンバーって、どんな感じで出会ったんですか?」

「あ?なんでそんなこと?まあいいけど……

 最初は桐生、白石、七瀬、蓮水の四人が気が合って グループを作った。

 そこにそれぞれが気に入った人を入れて、このグループができたんだ。

 ちなみに僕は4人目ー」


僕は礼を言い、次の人物のもとに向かった。


「どうも、雨裂ミドリさん。質問いいですか?」

雨裂ミドリは静かに頷いた。


「死んでしまった4人って、どんな印象でしたか?」

「皆、明るくて良い人だったよ。でも、ちょっとやりすぎな部分もあったけどね」


僕は深くお辞儀をして、次に向かった。


「あの、質問よろしいですか?朝倉涼さん」

朝倉涼は静かにグッドポーズをして応じる。

「オフ会メンバーで喧嘩したことはありますか?」

「さっき君も見ただろ?フィレモンとトワイライトはよく喧嘩してるよ。他はない」


あっ……一つ聞くのを忘れてた!

皆は食堂を出て行ってしまったので、残ったN.Y.トワイライトに聞く。

「桐生葵さんの死体が発見されたとき、一番扉側にいたのは誰ですか?」

「ん?ぼ……覚えてない」

そう言って、彼はそのまま去って行った。

ショックだ……。

最後の手がダイイングメッセージだ。

僕は血文字を紙に写し、じっくり見つめる。


  \ ◯

    \  \


三角は何を意味している?線は?丸は?

三角と言えば……山?……は!わかった!犯人はあの人だ!

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