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第四章 心音の鎖


 白石ゆうとの死から時間が流れ、降り出した雨の中で昼空は気づけば夜の深さを帯びていた。

 七瀬つかさ以外の皆は夜ご飯を机に並べ食べ始めた。

「オフ会っていつから決まってたの」

 詩羽は静かに尋ねた。

 N.Y.トワイライトは「うーん」と考え込んだ末に言った。

「一年前くらいじゃね」

「そんな前から?」

「あぁ桐生が最初に言ったんだよ」

 朝倉涼は少し寂しそうに言った。

「僕たちを呼ぼうって提案したのも桐生さん?」

 皆は顔を合わせ、そろって首をひねった。

「誰だっけな?桐生ではなかった気がするけど」

「ん〜確か?あれ違うかな〜」

「そんな昔のこと覚えてませんよ」

 雨裂ミドリの言葉に、皆は頷き、話題は自然と締められた。


 そして、夜ご飯を済ませると、各自その場を後にした。

 僕も部屋に帰ろうとしたとき、詩羽が声を上げた。

「黒田!ちょっと来て」

 その声に促され、僕は詩羽について行った。

「なに――」

「白石ゆうとの事件現場調べるよ!!」

 言葉を遮り足早に事件現場に向かった。


 僕はさっき見たはずの白石ゆうとの悲惨な姿にまた息を呑んだ。

「ナイフにしては細すぎるよね、この傷」

 詩羽は白石ゆうとの首を指さしながら言った。

「確かにね、糸のようなもの」

「ピアノ線ね!」

 詩羽は笑顔で僕のおでこにぐりぐりと指を押しつけた。


 僕は詩羽の手を振り払い、壁を見た。

 僕が殴ったら大きな穴があきそうなくらい弱い壁だった。

「あ?」

 指が通るくらいの穴を見つけた。穴があいたのは最近みたいだ。

 僕は白石ゆうとの体を少し動かした。

 その瞬間、微かな違和感が目に入った。

「……ん?」

 白石の体の真下、床に細長い木の破片が落ちていた。

 ただの破片じゃない。

 よく見ると、表面に小さな金属片――ホッチキスの針みたいな細い金属が一つだけ曲がって刺さっている。

 まるで、何かを強引に留めていた“跡”のようだ。


 僕は破片を指でつまみ上げ、壁に目を向けた。

 壁の一箇所に、指が入るくらいの新しい穴が空いている。

 穴の縁は不自然に裂け、壁材が横方向に引きちぎられたように剥がれていた。

「これ……殴ったとかじゃない。引っ張られたんだ」

 思わず呟く。

 高さは僕の肩より少し上。人がぶつかってできる高さじゃない。

 

 まるで――


細い何かが壁に固定されていて、それを強く横へ“引いた瞬間”に外れた。

 そんな印象だった。

「なにがあった!報告せよ〜!」

 唐突に背後から詩羽の弾んだ声が飛んできた。

「壁に穴が空いてる。しかもこれ、外れ方が変だ。

 木片には……なんか金属の跡みたいなのもある」

「へぇ〜いいね、黒田!最高!」

 詩羽は僕の肩を叩きながら、妙に楽しそうに破片を覗き込むと、


「よし、おやすみ!」

 と言って、なぜか満足げに走り去って行った。

「……え?」

 僕は置き去りにされたまま、その木片を見つめた。

 意味はわからない。でも胸のざわつきが収まらなかった。

 この破片はただのゴミじゃない。

ここで、何か“仕掛け”が使われた――そんな匂いがした。

 

 その後僕は部屋に戻って、シャワーを浴びて、少し本を読んで寝た。

 山荘だからか雨の音がとてもうるさく聞こえた。


 朝僕が目を覚ました音は、誰かが慌てている声だった。

「早く降ろせ!!」

 詩羽の声だ。

 ただならぬ緊迫に、僕の背筋は電気を流されたみたいに跳ねた。

 気づけば体が勝手に走り出している。


 そこは部屋番号⑥――七瀬つかさの部屋。

 扉の前には人だかりができ、誰もが青ざめた顔で中を覗き込んでいた。

「どいて!」

 僕は人の肩を押しのけて部屋の中を見た。

 その瞬間、世界の空気が止まった。


 七瀬つかさが――天井から吊られていた。


 足先が床に触れるか触れないかのわずかな距離で、白い指先が震えたような形で固まり、首に食い込んだ縄だけが部屋の中央で不気味に揺れている。

「あ……ああ……!」


 七瀬を支えようと腕を伸ばしているのは

 N.Y.トワイライトと朝倉涼だった。

 二人の表情はすでに泣きそうだ。

「持って! 落とすな、落とすな……!」


 二人は肩を掴んで体を持ち上げようとする。

 しかし、その瞬間に分かった。


――もう、遅い。


 触れた七瀬の体は冷たく、硬く、

 まるで人ではなく“人の形をした何か”のようだった。

 肌の下から血の気がすべて抜け落ちている。

「つかさ……」


 誰の声だったのか、分からない。

 部屋中で小さな嗚咽が弾け、呼吸が乱れ、

 だが、七瀬だけは静かだった。

 揺れているのは、首に食い込んだ縄だけ。


 その静けさが、何より恐ろしかった。

 

「おいこれ」

 フィレモン灯は机の上に置かれていた一枚の紙をつまみ上げ、皆に向けて広げた。

 その紙には「ごめんなさい私のせいです」と書かれていた。

「遺書?」

「そうなのかもね。食堂に集まろ」

 皆は詩羽について食堂に行った。


 皆は食堂の席に座った

「自殺なの?」

 最初に口を開いたのは雨裂ミドリだった。

「うん……たぶんね」

 詩羽は答えたものの、その表情はどこか上の空だ。

「多分じゃなくて絶対そうだろ、だってあいつ様子おかしかったし」

 フィレモン灯が椅子をきしまえながら立ち上がり、皆を見渡しながら言った。

 その言葉に、皆は「そうだね」と言っていたが詩羽は下を向いて考え事をしているようだ。

 自殺ではないと思っているのだろうか?

 そう言う僕も自殺で終わらせるのは納得いかない。

 理由は一つ遺書の文字だ。

 定規で引いたみたいに、異常なほど真っすぐだった。

 七瀬つかさは昨日酷く取り乱していた。

 定規を引いて遺書を書くぐらい落ち着いていたなら自殺なんてしないんじゃないのか。


「雨裂ミドリ!!!!オメェ昨日どこで寝た!!」

 静かだった食堂を切り裂いたのは、詩羽の急な怒号だった。

「え?」

 雨裂ミドリは急な出来事に口を開けて固まった。

「早く答えろよ!お前は七瀬つかさと同じ部屋じゃないのか?」

「混乱してたでしょ〜七瀬は〜鍵かけてこもってたの〜俺の部屋に入った〜俺は白石の部屋に!」

 雨裂ミドリの代わりに答えたのは蓮水ピクトだった。

 ということは昨日は蓮水ピクトが③、雨裂ミドリは①の部屋にいたわけか。

「はぁん」

 詩羽は短く息を漏らすと、詩羽座り手帳に何かを書き始めた。


「黒田朔之介!!!来てー!!!」

 と言い詩羽は走り去った。

 僕は戸惑いながらも慌てて詩羽を追いかけたが食堂を出たらすでに詩羽の姿はなかった。

 あいつはなんなんだ?

 まぁ多分七瀬つかさの④の部屋だろう。

 

「おう!来たね」

 おいていったくせに元気に僕の方を叩いた。

「自殺だと思う?」

僕が問うと、詩羽は振り返りざまに言い切った。

「なわけないじゃん。他殺だよ」

そう言うと、詩羽は七瀬つかさの遺体に近づき、首元を指さした。

「見て。首の痕、上向きに引かれてる。これは……身長が高い人が上から吊ったみたいな跡だよね」

 

「七瀬つかさってかなり背高いよな?それより高いのは……トワイライトさんくらいじゃないか?」


「いや、そうとも限らないよ」

 詩羽は部屋を見回し、ベッドや椅子を指差した。

「これに乗れば、誰でもつかさより高い位置に立てる。つまり“背の高さ”は決め手にはならない」

 部屋をくまなく探したが、それ以上怪しい痕跡は出てこなかった。

僕たちは仕方なく食堂へ戻ることにした。


「……ほんと何もないなぁ。犯人、誰なんだろ?」

詩羽はため息を吐いた後、急に顔を上げた。

「もう最終手段やるしかない」


 そう言い捨てると、また走り出してしまった。


 僕はゆっくりと食堂へ向かって歩いていた。

 もう少しで扉に手が届く、というところで――

 中から争う声が聞こえた。


 胸が跳ね、僕は全力で駆け込んだ。

「違うのか?」


 食堂では、詩羽がフィレモン灯を壁に押しつけていた。

「何の証拠があって言ってんだよ!? アリバイなんてみんな無ぇだろ!!」

 僕は慌てて詩羽をフィレモン灯から引き離した。


「何してんだよ!」

「お前ら、この中に犯人がいるんだぞ!」

「詩羽!!」


 もう限界だった。

 僕は詩羽の腕を掴み、半ば引きずるようにして外へ連れ出した。

 雨に濡れないよう庇の下で立ち止まる。

「何してんの? バカなの?」

 言い捨てた僕に、詩羽はなぜか笑顔で返した。

「これで犯人を暴くんだよ」

「はぁ? お前……! これでもっと酷い方向に行ったらどうするんだよ!」

「知るかよ。悪を見つけるためなら何でもする。

 正義って、そういうもんだろ?」

 そう言い残して、詩羽は荘の中へ戻っていった。

 

 庇には、僕の胸騒ぎと、激しく降り続ける雨の音だけが残った。

 

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