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第一章 ログイン

手紙をもらったのは7月の始めだった。

 差出人は「桐生葵」とだけ記され、本文は簡潔にこう書いてあった。

 『――SakuLoomのミステリ作家たちの小さな集まりを企画しました。

 貴方は大きな事件を解決したことがあると聞きました。経験談をぜひ聞かせてください。

 開催場所:仮名荘 7月20日 午後三時集合 4泊5日予定』


 僕は首を傾げた。

 作家でも評論家でもない。けれど少し前とある事件に巻き込まれちょっといやけっこう事件を解決したがどこの記事にも黒田朔之介の文字はなかった。

 何処で自分の名前を知ったのか?もしかして事件?桐生……聞いたことがあるような?危ないかもしれないが「経験談を聞かせてほしい」と言う言葉に僕は少し興奮した。

 だから僕は行くことにした。

 自分の物語が、誰かの創作に変わるのは悪くない。


 20日僕は4泊5日分の着替えをリュックに詰め込み山を登っていた。

 山奥の道を抜けると、古びた長い吊り橋が見えた。

 仮名荘へ渡る唯一の道だという。

 木板はところどころ歪み、鉄のワイヤーが錆びついている。下を覗けば霧に包まれた谷、落ちれば確実に助からない。

 背筋が寒くなる。ゆらゆら左右に揺れる橋を慎重に渡る。

 この橋の存在自体が、この"集まり"を隔絶した世界に変えているようだ。

 (この橋が壊れたら、もう戻れないな)

 何気なくそう思った。


 橋を渡ると、木立に囲まれた山荘が現れた。

 外壁は少し色褪せているが、手入れはされているようだ。

「仮名荘」と書かれた木札が入口に掛かってる。

 

 玄関を開けると、木の床がかすかに軋んだ。

 ひんやりとした空気の中に、森の匂いが混ざってる。

 食堂に行くとすでに何人か集まっていた。

 入口で止まっていると髪が長い女性が話しかけてくれた。

「こんにちは。貴方は黒田朔之介さんですね。座ってください。」

 と言いながら僕を席に案内してくれた。

 

 席に座ったら髪が長い女性が手を2回叩いた、ざわざわしてた食堂は一瞬で静かになった。

「みんな来たところで自己紹介をしましょう。私の名前は桐生葵。まぁペンネームだけどね。現実味のあるトリックや王道構成を好んでます。」

 ペンネーム?みんなSakuLoomのペンネームで本名は教えないみたいだ。

「そうだと思ったよ。君は一番に来て皆を案内してたからね」

 白髪交じりの髪の男がそう言い立った。

「次は私が白石ゆうとです。視点切り替えを使った小説を書いてます。よろしくお願いします」

「先生か!」「確かに先生ぽいな」

 白石ゆうとこの中で一番年齢が高いだろう、そして先生と呼ばれているだけあって穏やかな声で場が和む。

「はーい次あたしね、七瀬つかさです!心理的な駆け引きを書くのが得意です。緊張してても人を笑わせたいタイプです!」

 ポニーテールの女性は元気に手を挙げ元気に挨拶をした。その無邪気さに皆の表情はわずかにほころばせた。

「じゃあ……朝倉涼です。短編中心で投稿してますよろしくです。」

 パーマ頭を掻きながらペコリと頭を下げ挨拶をした。

「次は自分ですね。雨裂ミドリです。日常の中の違和感を書くのが得意です。よろしくお願いします。」

 ショートヘアの女の子は静かだけど芯がある声でで自己紹介をした。

「どうも〜蓮水ピクトです〜図形や配置を使ったトリックを書いてます〜よろしくね〜」

 少し髪が長い男はニコニコしていてペンをくるくる回しながら自己紹介をした。

「俺はフィレモン灯……よろしく」

 金髪の男が不機嫌そうに挨拶をした。

「ほんと?」「嘘だろ」「冗談じゃね?」

 名前を名乗った瞬間皆はフィレモン灯に疑いの目を向けていた。

「なんだよ」

「いやだって君が書いてる小説の内容は寓話・神話・論理を絡めた寓話的ミステリーじゃんぽくないって感じ〜」

 蓮水ピクトがそう言うと皆は頷いた。

「は?俺は――」

「あれじゃない、よくある本物を殺してそして本物になりきって殺人を起こすって」

 自己紹介をまだしてないフィレモン灯の隣にいた男がヘラヘラしながら言った。

「なんだって?!!もういっぺん言ってみろやボケ!!」

 ボコッ

 フィレモン灯はその男にパンチをお見舞いした。

 もう一発行こうと転がった男に近づこうとしたら

「ちょっと落ち着きなさい」「落ち着いて、ね?」

 白石ゆうとと桐生葵がフィレモン灯を止めた。

 するとフィレモン灯はすぐに席に座った。

「ジョークじゃん!そんなんだとモテないぞ!」

「はぁ?てめぇ?もういっぺん――」

「やめろ、N.Y.トワイライト」

 喧嘩第二回戦を止めたのは朝倉涼だった

「あれ?僕名前言ったけな?まぁいいやN.Y.トワイライトです。都市の夜と、人の闇を書くことが多いですー」

 N.Y.トワイライトはヘラヘラしながら挨拶をした。

「てめぇのほうがぽくない――」

「じゃあ次はそこの二人のどっちか」

 N.Y.トワイライトの隣は僕だ、だから順番的には僕だが本名を名乗っていいのだろうか?自分だけ本名はちょっといや。

 そんなことを考えていると隣に座っていた古いロングコートを来た女の人が立った。

「うちの名前は天音詩羽でーす。体験談聞きたいって言われてきました。うちのおじいちゃんは超有名の最高探偵なんですよ!」

 よかった自分と同じく体験談聞かれる人だ。

 僕は安心して自己紹介をしようと思ったら七瀬つかさに止められた。

「最高探偵って?最悪探偵でしょ!」

 すると天音はバンッと机を叩き少し怒鳴っているような感じで言った。

「私のおじいちゃんは正しいことをしただけだ」

 その力強い言葉にその場は凍りついた。

 最悪探偵それは「真実が正義」と信じて疑わない探偵だ。真実を暴くために他人の人生をめちゃくちゃすることもあった。

「……とりあえず、ご飯にしよっか!ほらここ自分たちで作らないといけないから協力!」

 桐生葵は手を2回叩いてキッチンに向かった。

 その後に続いて皆キッチンに言った。

 

 僕の自己紹介は?でも今言ったところで後の祭りだ。

 肩を落としながら僕はキッチンに向かった。


 皆はエプロンに着替えていて作る準備をしていた。

「まいったなぁ私料理できないんだよ」

 白石ゆうとが頭を掻きむしりだから言った。

「きたねぇおっさんここで髪むしるな」

「どいてくれませんか?」「そこ邪魔」「これ何?食えんの?」「何してんの?」「何作る?おいしいやつにしよう」

 ほぼ世紀末、キッチンは結構広いが何故か一箇所に集まっている。

 

 僕はそっとキッチンを出た。

 食堂には詩羽がポツンと座っていた。

「君は料理しないの?」

「できないんだよあっちに行っても迷惑だと思って。君は?」

「いや……ちょっと世紀末で」

「?」

「てかそのコート熱くないの?もう7月終わるよ?」

 そう質問すると、詩羽はよくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに答えた。

「お気に入りなんだ!おじいちゃんが探偵してた時に来てたんだって!」

「へー」

「てか君の名前は自己紹介できてなかったよね」

「黒田朔之介だ」

「黒田……く、ろ、だ、なんか聞いたことがあるような」

「黒田なんてその辺にいるよ」

「いや探偵にいた気が……」

「そんな話どうでもいいよ君のおじいちゃんの話ししてよ」

 すると詩羽は目を輝かせ喋り始めた。

「はぁー聞きたい?いいよ!おじいちゃんはとっても優しいんだ!うちが小さい頃パパとママが事故で亡くなっちゃったのそれでねおじいちゃんが引き取ってくれたんだ!優しいよねでもねうちを引き取ったせいで探偵辞めちゃったんだ」

「へー護ってくれたんだね」

「はぁーたしかにー」

 この子とは、後に話す機会が増えそうだ


 夜が近づき、窓の外は赤から青へと染まり変わる。

 誰もが期待とわずかな不安を胸にした。

 この夜の静けさの中で、すべてが始まろうとしていた。


吊り橋の向こうに閉ざされたこの場所で。

二度とログアウトできなくなる、最初の一歩を踏み出したことに、まだ誰も気づいていなかった。

 


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