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第8話 王の懇願と英雄の経歴

 やっと真の物語が始まると思い、俺は勇んで立ち上がった。

 

「国王陛下が、優様とアリュール様をお呼びでございます。先日からの話し合いについて、結論が出たと申しておりました」

 

 そう衛兵が続ける。

 (む……事件ではなかったか。てっきり、俺の超絶的な力を見込んで、緊急の魔獣討伐依頼でも来たのかと思ったのだがな。まあいい、国王が直々に俺を呼び出すとは、それだけ俺の存在が重要視されている証拠だろう!)


 「ずいぶん早かったですね。一体どのような結論が出たのでしょう……。ではユウさん、参りましょうか」


 アリュールが少し訝しげな表情を浮かべつつも、俺にそう呼びかける。

 

「うむ、そうだな。国王がこの俺に何を期待しているのか、とくと聞いてやろうではないか」

 

 そう言って俺とアリュールが立ち上がると、それまでラファルと何やら小声で話していたイシュタルが、ぱたぱたと駆け寄ってきて、大きな瞳を輝かせて声を張り上げた。

「私もユウに付いて行きたい!お父様のお話、聞きたい!」

 

「こら、イシュタル。イシュタルはまだ幼いのだから、このような得体の知れない男にそう簡単に懐いてはいけないと、いつも言っているでしょ」

 

 ラファルが、心底呆れたような、そして少しばかり棘のある声でイシュタルを窘めるのを横目に、俺はイシュタルに向かって鷹揚に頷いてみせた。

 

「ふむ、よかろう。イシュタル皇女も、未来のニヴェアを担う者として、国の重要な話し合いに同席するのは良い経験になるだろう。俺が特別に許可する!」

 

 そう言い、勝ち誇ったようにラファルへドヤ顔を向けてやる。ラファルは、こめかみをピクピクさせながらも、忌々しげに顔を背けた。(ふん、青二才め)

 

「ではラファル様、お昼ご飯、大変ご馳走様でした。とても美味しかったです。」

 

 アリュールが丁寧に礼を述べていたとき、さっきの魔法が気になったので、隠れてポーションのようなものを1つ持って帰ることにした。

 

 そして俺たち三人はラファルの研究室を後にした。

 

 再び、あの荘厳な謁見の間に通された。玉座には先程と同じく国王が座しているが、その表情はどこか期待と不安が入り混じったような、複雑な色を浮かべているように俺には見えた。

 

「さて、王よ。俺の処遇について、どのような結論が出たのか、とくと聞かせてもらおうではないか」

 

 俺が先手必勝とばかりに問いかけると、国王は一度小さく咳払いをしてから口を開いた。

「うむ、優殿。単刀直入に言おう。そなたの処遇だが……現在、我が国ニヴェアは、ザルガンディアとの長年の紛争に加え、国内にもいくつかの問題を抱えておる。それを、ユウ殿の持つというその不思議な力で、助けてはもらえまいかと考えておるのだ」

 

 そう言って、王は深々と頭を下げんばかりの勢いで俺に懇願してきた。

 (ほう、ついに俺の真の力を見抜いたか。そして、一国の王がこの俺に頭を下げるとはな!よかろう、その心意気や良し!)

 

「あぁ、いいだろう。この俺様が、その大いなる力を貸してやらんこともない。それで、具体的に俺に何を望むのだ?」

 

 俺が鷹揚にそう答えると、王はパッと顔を輝かせ、身を乗り出してきた。

「おお、真か!感謝するぞ、優殿!して、差し支えなければ、優殿は具体的にどのようなことができるのか、教えてはいただけぬだろうか?我々も、そなたの力を最大限に活かせるよう、万全の準備を整えたいのでな」

 

 そう真剣な眼差しで問われる。

 

「愚問だな、国王よ。この俺にできないことなど存在しないと言っておこう。元いた国、日本ではな、数々の魔獣を討伐し、その名を轟かせていた。古代遺跡の封印を解き、国を滅ぼしかねない厄災を未然に防いだことも一度や二度ではない。その功績から、国の最高機関からも一目置かれる存在だったのだ。1つの国を救うくらい、この俺にとっては朝飯前のウォーミングアップに過ぎんわ!」

 

 そう自信満々に、そして一部の真実を交えて答えてやる。

 王は俺のあまりに壮大な経歴に、さすがに少し疑いの目を向けているようだが、俺の言葉に嘘はない。

 日本ではあの忌まわしき『血の契約者』ども……闇夜に潜み、無辜の民の生き血を啜る、微小にして無慈悲な吸血の刺客。奴の名は「血哭けつこくスティグマ」! 無音の軌跡を描き、柔肌に刻むは紅の呪印。奴が血を啜るその瞬間、世界は一瞬にして赤に染まるのだ!俺はそのスティグマの群れを、この両手に握った聖なる香木(蚊取り線香)と浄化の秘薬(殺虫スプレー)で、一夜にして数百は討伐しているからな。あの戦いは熾烈を極めた……。


 そんなことを考えていると、

「……もしや、本当にそれほどの力を……?ふむ...日本という国はまことに興味深い。魔獣や最高機関といったものが存在するとは、それなりに"力"のある国なのであろうな。その日本という国でユウ殿のような方が持つその力はどのように……そう、どのように行使され、どのように管理されておるのかな?あるいは優殿の"力"に対抗しうる"力"というのは存在するのだろうか?」

 と、日本について問いを投げかけてくる。


 (ふっ、ようやくこの俺の偉大さを理解し始めたか。この王を完全に心酔させてしまったか)

 

「しょうがない、今回は特別に我が日本の力について特別に教えてやろう!日本にはな……」

 

 そう我が日本の凄さを語ろうとした時だった。

 俺の隣でちょこんとアリュールの膝に座っていたイシュタルが、突然小さな呻き声をあげた。

「うぅ……あた、まが……ズキズキン、する……」

 

 そう言うと、彼女は小さな両手でこめかみを強く押さえ、苦しそうに顔を歪め始めた。

 その顔色はみるみるうちに青白くなり、額には脂汗が滲んでいる。

 

「大丈夫ですか、イシュタル様っ!」

 

 アリュールが悲鳴に近い声を上げ、すぐにイシュタルの小さな体を抱き寄せる。

 その声には、普段の冷静沈着な彼女からは想像もできないほどの動揺が滲んでいた。


 俺も何事かとイシュタルの傍へ駆け寄る。イシュタルはぜえぜえと荒い息を繰り返し、焦点の定まらない瞳で虚空を見つめている。

 (これはただ事ではないぞ。もしや、これは敵軍が放った強力な呪詛の類か!?あるいは、魔王軍に伝わるという精神攻撃の秘術か!?イシュタル皇女、案ずるな、この俺が必ずその呪いを打ち破ってみせる!)


 俺とアリュールがイシュタルの様子を心配そうに見守っていると、謁見の間の扉が勢いよく開け放たれ、一人の衛兵が血相を変えて部屋に飛び込んできた。

 その額からは汗が流れ落ち、鎧はところどころ泥に汚れている。

 

「申し上げます!緊急事態発生!第二王子シルヴァン殿下が、国境地帯の監視砦にてザルガンディアの襲撃を受け、現在、敵の主力部隊に完全に包囲されております!砦の陥落は、もはや時間の問題かと!」

 

 ほーう、面白くなってきたじゃないか!

 ついにこの俺の、真の英雄譚が幕を開ける時が来たようだな!

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― 新着の感想 ―
話が動き出すのがちと遅いですね。 一般に長編小説は1万字以内に主人公のキャラ立てと、目的提示と最初の一歩を書くのが基本と言われてます。
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