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第26話 ちゃっかり後輩と肯定する英雄

 「ありゃりゃ、随分と派手にやりましたねぇ。……あ、もしかして貴方が、テオ先輩が言ってた『噂の英雄様』っすか?」

 彼女は興味津々といった様子で、俺の顔を覗き込んできた。

 (ふむ、この少し着崩した軍服に、小動物のような瞳……。そしてテオの名を出したな? 俺の噂を聞きつけて、居ても立っても居られず駆けつけた後輩兵士というわけか。俺のカリスマも罪なものよ)


 「いかにも。俺が噂の英雄、ユウだ。貴様の名は?」

 「私はルルって言いまーす! しっかし、あの男爵をこんな目に遭わせるなんて……あははっ、最高っすね!」

 ルルは倒れて悶絶している貴族を指差し、お腹を抱えて楽しそうに笑った。 「これ、普通なら衛兵として連行しなきゃいけない案件なんですけどぉ……」

 彼女は意味深に言葉を切り、上目遣いで俺を見てくる。

 「今回は特別に、私が『男爵が勝手に転んで、頭を打って勝手に気絶した』って報告書に書いといてあげますよ」


 「ほう、俺を庇うというのか? 奇特な奴め」

 「その代わり! 今度、英雄としての権力を使って、普通の家じゃ出ないような美味しいご飯、奢ってくださいね? 『貸し』ですよ、英雄様!」

 そう言ってルルが俺にウインクをした、その時だ。


「おーい! ルルーッ! ここにいたのかー!」

 人混みをかき分けて、息を切らしたテオが走ってきた。

 「げっ、テオ先輩」

 ルルが露骨に嫌そうな顔をする。


 「まったく、見回りの途中でどこ行ったかと思えば……って、あれ? ユウじゃん! アリュール様も!」

 テオは俺たちに気づくと、驚いた顔をして、すぐに姿勢を正した。

 「奇遇だな、テオよ。ちょうど今、貴様の後輩と契約を交わしていたところだ」

 「契約? ……あー、またこいつ、何か変なこと言ってた? ごめんなーユウ、こいつが迷惑かけて……」

 テオは申し訳なさそうに頭を下げると、ルルの首根っこをガシッと掴んだ。


 「ほら、行くぞルル! 隊長が探してたぞ!」

 「えー! いやですー! せっかく英雄様と仲良くなれたのにー!」

 「いいから仕事に戻るぞー」


 「あ、ユウさーん! ご飯の約束、忘れないでくださいねー!」

 ルルはテオにズルズルと引きずられながらも、しっかりと俺に手を振ってアピールしてきた。

 「……まったく、お騒がせしました! また部屋でな、ユウ!」

 テオは苦労人らしいため息をつきながら、ルルを連れて雑踏の向こうへと消えていった。


(……ふっ、賑やかな奴らだ。だが、あのテオが先輩風を吹かせているとはな。俺のルームメイトとして、少しは威厳が出てきたようじゃないか)


 嵐が過ぎ去ったような静けさが戻る。

 「ふふっ、あの二人いいコンビですね」

 アリュールが微笑ましそうに言った。

 「そうだな。……さて、邪魔者も消えたことだ。少し城下町を歩いてから城へ戻るとするか」

 空を見上げると、日は既に傾き、空が美しい茜色に染まり始めていた。俺たちは並んで、夕暮れの街を歩き出した。



 「すみません、ユウさん。私の立場がありながら、貴族の方への対応を任せてしまって……」

 先程のことで落ち度を感じているのか、アリュールの美しい顔には少し雲がかかっている。

 「そう案ずるな。俺ももう、このニヴェアの国民の一人だからな。それに、異世界に来た英雄として、困った人や問題事は華麗に解決していくのが仕事クエストというものだ」


 「……それに最近、私は……特攻隊長として皆に頼られていますが、時々怖くなるのです。私の中にある力が、普通の人とは違う気がして……。戦っている時、自分が自分でなくなるような……」

 アリュールは足を止め、自分の震える手をじっと見つめていた。その姿は、戦場の勇ましさとは程遠い、ただの一人の少女のように見えた。


(ほう、自分の才能が強大すぎて制御できない不安か。クリエイターや天才特有の悩みだな!俺も自分の溢れ出る才能が怖くなる時がある。その気持ち、痛いほど分かるぞ!)


 「気にするなアリュール。力が強大であればあるほど、孤独を感じるのは必然だ。器が悲鳴を上げているに過ぎん」

 俺は彼女の肩に手を置き、力強く告げた。

 「だが、お前のその力は、俺という主を守るために存在している。俺がお前の力を肯定してやる。だから、お前は安心してその力を振るえばいい! 暴走したとて、この俺が止めてやるさ」


 俺の言葉を聞いた瞬間、アリュールはハッとして顔を上げた。夕日に照らされたその瞳が、潤んだように揺れている。

 「そう……ですね。その言葉を聞いて、少し安心しました。私、ユウさんに出会えて本当によかったです……」

 アリュールは深々とお辞儀をした。その頬が夕日のせいだけでなく、ほんのりと赤らんでいるように見えたのは気のせいだろうか。


「そう畏まるな。俺も十分に楽しめたし、街のことも知れた。それにしてもニヴェアの市はいつも今日くらい混んでいるのか? 活気があるのは良いことだ」


「それはよかったです! いつもは今日ほど混んではいないのですが、近々建国祭が開かれるようで、街の人も力が入っているみたいです。ユウさんも予定が空いていたら祭りに行ってみるのをお勧めしますよ。たくさんのお店が出て、すごい盛り上がりますから」


「ほう、祭りか! それは面白そうだな。この俺が参加すれば、祭りの伝説の一つや二つ、増えるかもしれんな」


 そんな軽口を叩きながらの帰り道、路地の端で数人の人がうずくまっているのを見かけた。顔色は悪く、苦しそうに咳き込んでいる。


(ん? 昼間から酒盛りか? 酔いつぶれて道端で寝るとは、ニヴェアの民も陽気なものだ。平和ボケしていなければ良いがな)


 俺はただの酔っ払いだと解釈し、気にも留めなかった。隣のアリュールが、少し心配そうに振り返っていたことにも気づかずに。

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