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第25話 悪徳貴族と火竜の灰

「店主! その触手を一つくれ!」  俺は自信満々に店へと歩み寄った。今日一日、この街のすべてを俺の色に染め上げてやろうではないか!


 店主の親父は、目を丸くした後、人の良さそうな笑みを浮かべて紙袋に入れたそれを差し出してきた。

 「へい、毎度! ……触手なんて呼ぶ客は初めてだが、アリュール様の連れは面白い男だなぁ!」


「もう、ユウさんったら……。お店の人も困ってるじゃないですか」  アリュールが苦笑しながら袖を引くが、俺は止まらない。  手渡された黄金色の物体、俺の目には、深海で数多の船を沈めてきた魔獣の体の一部にしか見えないそれを、恐れることなく口へと運ぶ。


 (ふむ、表面には白い粉が吹いている……。これは間違いなく、獲物を麻痺させるための猛毒の結晶化だ。だが、この俺の『聖なる胃袋アイアン・ストマック』の前では、毒など極上のスパイスに過ぎん!)


 ガブリ。 俺は「クラーケンの触手」を力強く噛みちぎった。


(……! なんだ、この強烈な弾力は!? 噛み切ろうとする俺の顎を、ゴムのように押し返してくる! 死してなお、抵抗しようというのか!)  俺は必死に顎を動かす。すると、口の中に予想外の味が広がった。


(――甘い!?)


 猛毒だと思っていた白い粉が、舌の上で優しく溶け、濃厚で素朴な甘みへと変わっていく。噛めば噛むほどに溢れ出す、大地の滋味と太陽の恵みのような味わい。これは……毒が裏返り、極上の甘露と化しているのか!?


「……ふっ、なるほどな」

 俺は口元を拭い、ニヤリと笑った。

 「俺の体内に宿る浄化の光が、クラーケンの猛毒を一瞬にして無害化し、栄養素へと変換してしまったか……。我ながら、己の聖なる力が恐ろしいわ」


「美味しそうに食べてますね、その干し芋」

 アリュールが、クスクスと楽しそうにこちらを眺めている。  ふん、彼女には俺の体内で起きている高尚な聖戦は見えていないらしい。平和なことだ。


「店主! 今の戦いで小腹が空いた。持ち帰る様にもう二つくれ!」

 俺は店主に追加を注文する。店主は一瞬目を丸くしたが、すぐに商売人の顔に戻り、

 「へい! ちょうど午前中の残りの二つだ! 運がいいね旦那!」  と威勢よく返し、俺に紙袋を渡そうとした。


 その時だった。  横から伸びてきたぶよぶよとした手が、俺の目の前でその紙袋を乱暴に奪い取った。


「おい店主。その残り、私が買い取ろう」


 そこに立っていたのは、豪華だが趣味の悪い服を着込んだ、ふくよかな男だった。脂ぎった顔には、平民を見下す傲慢な色が張り付いている。後ろには護衛らしきゴロツキを二人従えていた。


「あ、あの、その商品はそちらのお客様が……」

 「黙れ。私はこの街の有力者、バロン・ホッグだぞ? 平民ごときが、そのような高価な珍味を食うなど生意気だ。私が有効活用してやる」


 アリュールがムッとして前に出ようとするが、俺はそれを手で制した。 (ふむ、見るからに三流の悪役貴族といったところか。アリュールは私服だから気づいていないようだし、彼女に手を汚させるまでもない。これは典型的な『貴族による洗礼イベント』だな。異世界転移してきた俺の度胸と知性を試しているわけか。面白い、受けて立とう!)


 俺は一歩前に出て、貴族と対峙する。

 「貴様のような下賤な舌に、この高貴な魔獣の味がわかるまい。豚に真珠、貴様にクラーケンだ」

 貴族が嘲るように言ってくる。 (ほう、挑発か。ならば、こちらは劇薬で返礼してやろう)


 俺は鞄をごそごそと漁り、日本から持参した赤い小瓶――『一味唐辛子』を取り出した。

 

 「ふん、味のわからぬ豚はどっちかな? 俺の故郷では、この『火竜のドラゴン・アッシュ』を振りかけて完食してこそ、真の美食家とされるのだ。貴公にその覚悟があるか?」

 俺は小瓶を振り、残っていた自分の干し芋を真っ赤に染め上げて見せた。


「なっ……なんだその赤い粉は……」

 「火竜の骨を砕き、その業火を封じ込めた魔法の粉末だ。口にすれば、内側から焼き尽くされるほどの灼熱を味わうことになる。……まあ、高貴な舌を持つ貴公なら、余裕だろう?」  俺が挑発的にニヤリと笑うと、プライドの高い貴族は顔を真っ赤にして食いついてきた。 「ぐぬぬ……! 余を愚弄するか! たかが粉ごとき、どうということはないわ! よこせ!」  貴族は俺の手から真っ赤な干し芋をひったくると、意地になってそれを一口で大きく頬張った。


 瞬間。貴族の動きが止まる。顔色が赤から紫へ、そして土気色へと高速で変化していく。


「ん……ぐ、ぐふっ!? ごふっ!! がはぁっ!!!」  次の瞬間、貴族は盛大にむせ返り、目を見開き、口から火を噴く勢いで絶叫した。 「か、からぁぁぁいい!! 熱い! 口が! 喉が焼けるぅぅぅ!! 水! 水を持てぇぇ!!」

 貴族はその場に転がり回り、涙と鼻水を流して悶絶し始めた。護衛たちも慌てふためいている。

 (日本のおみやげとしていくつかのものを入れておいてよかったな。)

「やれやれ、平凡な人間では火竜の試練に耐えられなかったか。修行が足りんな」

 俺が涼しい顔でそう呟くと、周囲で見ていた民衆から「わあっ!」と歓声が上がった。

 「すげえ! あの嫌なホッグ男爵をやり込めたぞ!」「あいつ、一体何者だ!?」


 転がり回る貴族を見て、アリュールが小声で俺に耳打ちした。

 「ユウさん……あれってただの香辛料ですよね? 少し量が多すぎたのでは……?」

 「ふん、加減はしたつもりだが、彼の魂の修行が足りなかったようだな」


 喝采を浴び、俺が優雅に手を振ろうとした、その時だ。

 「はーい、そこまで! 往来で何事ですか~?」

 群衆をかき分け、一人の若い兵士が軽い足取りで現れた。  少し短めの軍服を着崩し、小柄ながらも身軽そうな少女。テオと同じ部隊の紋章をつけている。  彼女は、転げ回る貴族と、涼しい顔の俺、そして苦笑するアリュールを交互に見て、瞬時に状況を察したようにニヤリと笑った。


「ありゃりゃ、随分と派手にやりましたねぇ。……あ、もしかして貴方が、テオ先輩が言ってた『噂の英雄様』っすか?」

 彼女は興味津々といった様子で、俺の顔を覗き込んできた。

少しづつですが話が進んできていますね。今後の展開で回収していくつもりなので、楽しみにして下さい。




ブックマークや評価が、何よりの執筆の力になっています。


次回もお楽しみに

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