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22/22

第22話 1日の終わり

「ニヴェア王よ!このテオという男を、俺のルームメイトとして選出しようと思う!よろしいだろうか」

 

 俺がそう堂々と宣言すると、王は一瞬、意外だというように顔を顰めたが、すぐにいつもの笑みに戻った。

 

(ふん、俺が側近を選ぶというのに、少し不満そうな顔をしたな。王が推薦したカイとかいう衛兵の方が、家柄でも良いというのか?だが、俺の周りに侍る者は、俺自身が決める!)

 

「テオか……。ふむ、先の戦いでは、なかなか良い働きをしていたようだしな……。よかろう!優殿と、そのテオという兵士のための特別な部屋を用意させよう」

 

 王は、何かを諦めたかのように、しかし快く承認してくれた。


 ******

 

 その後、俺とテオは一人の侍女に案内され、城の2階、来賓や王族が使うのであろう一際豪華な区画にある部屋へとたどり着いた。

 

(ホテルに泊まる時のような、この独特のワクワク感……悪くないな)

 俺の気持ちが高ぶっているのがわかる。隣を歩くテオも、隠しきれない興奮で目をきょろきょろとさせ、そわそわしているようだった。


 「こちらが、お二方のお部屋でございます」

 

 侍女にそう言われ、重厚な扉を開けてみると、そこには部屋というより、もはや体育館と見紛うほどの広大な空間が広がっていた。

 中の広間リビングと思われる場所を歩くと、俺の足音がふかふかと柔らかい絨毯に吸い込まれて消える。空間があまりにも広大で、音が生まれてはすぐに静寂に溶けていくのだ。アーチ状の巨大な窓の傍らに立てば、先ほど俺が見た「天空城」のようなニヴェアの街並みが一望でき、壁に飾られた絵画や調度品の数々も、この部屋の格の高さを物語っていた。ここは、神話に語られる神々が住まう部屋と言われても、俺は信じただろう。

 

(ふむ、素晴らしい。英雄たる俺を迎えるにふさわしい、まさにロイヤルスイートではないか!)

 

 それにしても、どうしてこの部屋はここまで塵1つなく綺麗なのだろうか。掃除が行き届いているというレベルではない。もはや、長年誰も使った形跡すらないような、完璧なまでの静謐さが漂っている……。

 

(そうか、この部屋は、来るべき救世主である俺のために、遥か昔から準備されていた聖域なのだな!)

 

 横にいるテオも、天井を見上げながら、

「す、すげー……!本当に、俺みたいな一兵士がこんな部屋に住んでいいのかよ……!」

 

 と、大きな声をあげては、慌てて口を押さえている。

 

 俺とテオは、子供のようにはしゃぎながら、部屋にあるものを色々と見て回った。そんなことをしていると、気づけばもう窓の外は暗くなり始めていたので寝ることにし、2人で今日の出来事を振り返っていた。

 

「本当にありがとな、ユウ!あんたのおかげで、こんなすげえ部屋に住めるなんてさ。いつか、俺の妹たちもこんな部屋に住ませてやりたいな〜」

 

 テオが、天井を見上げながら、しみじみと俺に話しかけてくる。

 

「テオは妹がいるのか?」

 

「二人な。最近はずっと家に帰ってないから、顔も見てないけど、元気にやってると良いんだけどな。俺の両親は、もうガキの頃にあの世に行っちまっててな。俺が、あいつらのためにも、しっかり稼いでやらねえとな」

 

 テオはそう言って、ぐっと拳を握りしめ、気合を入れている。

 

(ほう、妹のために戦うか。良い心がけだ。俺の従者として、申し分ない動機だな)

 

「ユウには兄弟とかいねえのか?」

 

「俺……か?俺は、兄がいた“らしい”んだがな。もう昔のことはよく覚えてなくて、よくわからん。おそらく、この世にはもういないだろう。両親と一緒に、何か大きな事件に巻き込まれて亡くなったらしくてな」

 

「じゃあ、俺と少し環境が似てんのか……。そういえば、ユウは本当に珍しい格好してるけど、改めて聞くけど、どこの国から来たんだ?」

 

「日本という国から来た」

 

「へー、ニッポン!遠いとこか?俺はずっとニヴェアにいるから、そういうの、なんか羨ましいな。なあ、そのニッポンとやらについて、少し教えてくれよ!」

 

「フッ……テオ、貴様、我が祖国『日本』について知りたいと言ったな?いいだろう、我が友となるお前に免じて、今宵は特別に、この俺が世界の真実の一端、この日本という国の真の姿を語ってやろう!」

 

 俺は立ち上がり、外に広がる夜景を背に、壮大なプレゼンテーションを開始した。

 

「いいか、この国は、四方を深淵の海流によって閉ざされた、神代の時代から続く世界最後の聖域なのだ!

 四季という名の四柱の古き神々が、今なおその覇権を争い、春には生命を芽吹かせ、夏には灼熱を、秋には哀愁を、そして冬には静かなる死を、この大地に刻み込んでいる!

 見よ、かの摩天楼が天を衝く帝都『東京』を!

 夜には無数の魂のネオンが川となり、人の欲望と希望を喰らって輝く。その地を疾走するは、時空を歪めるほどの速度で走る鋼の神龍!人々はそれを『新幹線』と呼ぶが、その正体は、失われた古代文明の超技術の残滓に他ならないのだ!

 そして、『自動販売機』という名の神託機もある。あれは、硬貨という名の供物を捧げることで、封印された霊薬ジュースを授ける最新の契約機だ。冷たい霊薬もあれば、熱い霊薬もある。どちらを授かるかは、契約者の運命次第よ!

 さらに、『漫画』『アニメ』と呼ばれる、人の情熱そのものを紙や映像に封じ込めた、恐るべき魔導書グリモワールもあってな。あれは、一度読めば最後、人の魂を掴んで離さないという。今度、お前にもその一端を見せてやろう。

 そして忘れてはならないのは、この国に伝わる三位一体の神聖文字だ!

 万物の理を刻む神々の象形文字『漢字』!

 感情を旋律に変える精霊の流線文字『ひらがな』!

 そして、異界の言葉を降ろすための刃のごとき表音文字『カタカナ』!

 この3つを自在に操る者のみが、真の言霊使い(ワード・マスター)となることを許されるのだ!

 フフ……フハハハハ!

 まだ分からぬか、テオよ!この日本こそ、古の神々と超科学が同居し、静寂の秩序と混沌の情熱がせめぎ合う、世界で最も刺激的な矛盾に満ちた、来るべき最終決戦ラグナロクの地なのだよ!」

 

 俺は、自分の完璧なプレゼンに酔いしれ、満足げにテオの反応を楽しみにし、彼の方へ目を向けた。すると、彼は俺のベッドに寄りかかったまま、すーすーと穏やかな寝息を立ててしまっていた。

 

(……俺の、これほどまでに壮大で、慈愛に満ちた説明の最中に眠るなど、なんという無礼な奴だ。……まあ、今日は激しい戦いがあったからな。疲れていたのだろう。よし、今回は許すことにしよう)

 

 そして俺も、自分のベッドに潜り込み、眠りにつこうとしたところ、ふと、壁に飾られていた一枚の絵が目に入った。

 

(あれは……どこかで見たことがあるような気がする……。確か、フランスとかいう国の、有名な画家が描いたとか、日本の美術館で噂になっていたような……。なんでこの異世界に?まあ、この異世界にも、似たような絵を描く才能のある画家がいるのだろう)

 

 そう思い、俺はニヴェアでの波乱万丈な一日目の終わりを告げる、深い眠りへと落ちていった。

フッ…第一部完結だ。

我が英雄譚の序章を、最後まで読めたことを光栄に思うがいい!


何?第一部が短いだと? 当たり前だ。

これから始まる我が伝説は、貴様らが想像するよりも遥かに壮大で、劇的なのだからな。これは、そのほんのプロローグに過ぎん!


王国が隠す闇?俺の過去の謎?

ふん、そんなものは、この俺が歩む輝かしい道のりの、些細なスパイスでしかない。第二部では、俺の神の英雄たる所以を、貴様らの魂に直接刻み込んでやろう。


この物語の続きを読める幸運に感謝し、評価を押して、我が偉業を称えるがいい!

貴様らの賞賛が、俺の物語をさらに輝かせる糧となるのだ!


では、第二幕で再び会おうぞ、我が物語の目撃者たちよ!




訳:ここまで読んでくださりありがとうございます!ここで約20話、ニヴェア編の1部完結です!

第一部にしては短いと感じられた方もいらっしゃるかもしれませんが、まだまだ話は続いていくのでこれからの展開に期待して待っていてください!

ここまで面白かった、続きを読みたいという方は、モチベーション維持のため、評価や感想を頂けると幸いです。


理瑠


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― 新着の感想 ―
Xの企画で参りました。 第一部の終わりまで拝読いたしました。 うん……ここまで中二病全開の主人公は珍しいですね。 恐ろしいまでに周囲に嚙み合っておらず、そして外していることを自覚しない。 アリュール…
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