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第20話 勝利の代償

 バタンッ!

 

 謁見の間の扉が、まるで蹴破られるかのように勢いよく開かれた。そこに立っていたのは、鎧に血と泥をベットリと付着させ、疲れ果てた表情のアリュールと、ハイラ隊長をはじめとする数名の兵士たちだった。

(アリュール!無事だったのか!)

 

 俺は、心の中で安堵の声を上げた。彼女が無事であったことに、俺自身が驚くほど安堵していることに気づいた。

 

 アリュールは、部屋の中央にいる俺たちに気づくと、一瞬だけその強張った顔を輝かせ、ふらつく足でこちらへ駆け寄ってくる。

 

「シルヴァン様!ユウさん!ご無事で……!本当によかったです……!」

 その声には、心の底からの安堵が滲んでいた。

 

「うむ、アリュール。少し遅かったではないか。見ての通り、シルヴァン王子はこの俺が完璧に守り抜いておいてやったぞ」

 

 アリュールはその俺の言葉に、力なく、しかしどこか慈しむような微笑みを浮かべると、王の方へ向き直った。

 

「陛下、ご報告申し上げます。敵部隊の撃退には成功しましたが、我々の部隊も……多くの者が、二度とこの城の土を踏むことは叶わなくなりました」

 

 アリュールは、唇を強く噛み締めながら、そう報告する。

 その一言で、謁見の間の空気は一変し、凱旋の喜びが、ずしりと重い哀悼のそれに変わったのを肌で感じた。

 

(俺は……英雄として、この戦いに貢献したはずだ。だというのに、救えなかった命が、こんなにも多くあったというのか……)

 

 横を見ると、シルヴァンも静かに目を伏せ、その美しい手を固く、固く握りしめていた。

 

「……そうか。残念なことだ……。やはり、ザルガンディアの連中は許しがたい蛮族よ……。しかし、皆、本当によく戦ってくれた。今日は、ただ体を休めてくれ」

 

 王が、兵たちにそう労いの言葉をかけると、何人かの兵士は仲間と肩を組み、あるいは一人静かに涙を拭いながら、それぞれの持ち場へと歩いていった。その背中は、勝利の喜びよりも、仲間を失った悲しみに満ちていた。

 

「……父上、アリュールさん。報告は感謝する。だがその前に、僕はこの男に言わねばならぬことがある!」

 

 ラファルが再び声を荒げながら間に入ってくる。ラファルが続けようとした瞬間、王がそれを手で制した。

 

「ラファル、黙りなさい。その話は後だ。帰還した者たちを労うのと、情報を聞くのが先だ。」

 

 その言葉にラファルは気を落として、帰ってしまった。

「そういえば優殿。先程から気になっていたのだが、そこの少年は何者なのだ?」

 

 王が指差した方向には、俺が戦場で捕まえたザルガンディアの少年が、アヤメに腕を引かれておとなしく立っていた。

(あ、いかん。すっかり忘れていた)

 

「ふむ。あの少年にはな、戦場で俺の力の一端を見せつけてやったのだ。すると、俺の英雄としての動きがあまりにも美しすぎたみたいでな。その神々しさに魂を抜かれ、惚けて失神してしまったのだ」

 

「なるほどな。それで優殿は、その少年を捕虜にしようと?」

 

「そうだ。魔王軍の情報を聞き出そうとしたのだが、困ったことに、ずっと『悪魔、悪魔』と叫んでいてな、全く話にならんかった」

 

 王は、俺のその言葉に、ピクリと眉を動かしたように見えた。その表情には一瞬だけ驚きの色が浮かんだが、すぐにいつもの落ち着きを取り戻した。

 

「……悪魔、か。そうか。わかった。この城の地下には牢屋がある。そこに運び、目が覚めたら改めて情報を聞き出すとしよう」

 

「その情報聴取、俺も立ち会ってもいいか?魔王軍であるザルガンディアとやらについて、詳しく知りたくてな」

 

「それはならんな」

 

 王は、きっぱりとした口調で俺の申し出を断った。

 

「シルヴァンを救ったユウ殿の頼みとはいえ、捕虜の尋問は国家の機密事項だ。部外者であるそなたを立ち会わせるわけにはいかん。……ザルガンディアについては、アリュールが詳しいはずだ。後で彼女から詳しく聞くといい」

 

(ふん、俺を部外者扱いか。だが、まあいい。王がそう言うのであれば、何か考えがあるのだろう。あるいは、俺のオーラが強すぎて、捕虜が恐怖のあまり死んでしまうのを恐れているのかもしれんな!)

 

 そう言って、王は周りの兵に少年を連れて行くよう指示し、少年は地下牢へと連れて行かれてしまった。

 

「それと、優殿。ニヴェアを、そして我が息子を救ってくれた礼に、そなたに褒美を渡したいと思う」

(ほう、褒美だと!?ついに来たか!城か?金か?それとも俺が王に!?)


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