第2話 異世界転移、まさかの皇女に拾われました!?
ああ、見よ!この眼前に広がる光景を!
どこまでも続く青い空に、輝く太陽。
そして、地球上のどこにもない、神秘的な色彩を放つエメラルドグリーンの海!
鼻腔をくすぐるのは、どこか甘く、そして未知の生命の息吹を感じさせる独特な潮の香りだ。
そして何より、さして日本では見たことないくらい美しい女性が、まるで海の精霊かのように佇んでいる!
ここは間違いなく異世界だ!
そう俺は確信した。 俺という選ばれし存在が、ついに召喚されたのだと。
身体を起こし、砂の感触を確かめていると、小さな女の子が、俺の足をツンツンと突っついている。
推定年齢10歳ほどだろうか。
まさか異世界転生直後から、こんな可愛い妹キャラが与えられるとは、神も分かっているな!
その無邪気な瞳が、俺の新たな冒険の始まりを祝福しているかのようだ。
「ダメですよ、イシュタル様!知らない人をいきなり突いては!あの……大丈夫ですか?」
そう横の女性は、心配そうに、しかし俺に見とれているかのように話しかけてきた。
(ふむ、いきなり見知らぬ人間に、しかもこんな魅力的な俺に話しかけるなんて……まさか、俺のカリスマ性に一瞬で心奪われてしまったのか!? 異世界に来てもモテるなんて、さすがだな俺は! むしろ、この美しい女性こそが、俺の異世界での最初の伴侶となる存在か!? この圧倒的なモテオーラは、異世界でも健在ということか!)
それにしてもだ。異世界の言葉が、俺には完璧に理解できる。
普通、異世界に召喚されたら、まずは言語の壁にぶち当たるものだろう? これはさすがにチートが過ぎるのではないか?
いや、待て。これは俺様の地頭の良さ、つまりは前世で培った圧倒的な語学能力が、この異世界でも自動的に適応されたに過ぎない。
俺ほどの天才になれば、それくらい当然のことだ! ふん、凡人どもには理解できまい。
「ああ、大丈夫だ。問題ない。ところでここはどこだ?」
俺があえて少し偉そうに尋ねると、その美しき女性は、安堵したように表情を緩めた。
「それはよかったです。ここはニヴェアという国です。あなたはどこから来たのですか?」
ニヴェアか。聞いたことのない名だ。やはり異世界だ。
「俺は日本という国から、この世界を救うべく神に招かれてここへ来たのだ!」
俺の力強い言葉に、女性は「???」と疑問符を浮かべたような顔で、首を傾げた。
「他の国から波に流されてきたということですか? どうしましょう、変なことを言っているし、まずは国王様に報告した方が良いのかしら……」
(まさか!これは彼女が俺の力を試しているのか!? いや、そうに違いない。異世界の住人からすれば、俺の存在はあまりにも規格外なのだろう。 目の前の美しき女性は、そんなことをブツブツと呟いている。おそらく、俺の異世界での身分や、この世界での役割について、内心で色々と検討しているのだろう。 その視線からは、戸惑いの中に、微かな期待のようなものも見て取れた。)
横の小さい女の子――イシュタルと呼ぶららしい。(こいつはやはり妹的立ち位置か。悪くないな。しかも、この年齢で既に高貴な気品を漂わせている)
――が、俺の足元に近づいて話しかけてきた。
年の頃は十歳にも満たないくらいだろうか。
ところでこの少女をどこかで見たような...?おそらく気のせいだろう。(だが、この胸の奥で微かに感じる既視感は、一体何なのだろうか……?)
(この感覚……これはもしや、前世の記憶というやつか?俺とこの少女は、前世で結ばれる運命にあった恋人同士だったとか……?いや、それにしては歳が離れすぎているな。ならば、俺がかつて救ったどこかの国の王女の面影を、この少女に重ねているのかもしれん。ふん、俺ほどの英雄ともなれば、救った王女の数など星の数ほどいるからな!)
「ねえーおじさん。これ、なあに?」
そう言って、イシュタルが指差しているのは、俺の手にまだ身につけていた腕時計だ。
やはり、偉大なものは身につけるものから風格を出さねばならない。 そう思い、わざわざ普段は使わない超高級ブランドの腕時計を持ってきたのだが、無念にも海に当たった衝撃で液晶が割れ、針もぐにゃりと曲がってしまったようだ。
異世界に連れて行くなら、事前にデリケートな精密機器の扱い方について、神に一言言っておいてもらいたかったものだ。
「これはトケイと言ってな。この世界では失われた古代文明の遺産だ。これを使えば、伝説の竜『ドラゴン』を呼び出すことだってできるんだ。しかし、残念ながらこの時空転移の衝撃で壊れてしまったようでな。 見せたかったのだが。」
俺の言葉に、イシュタルは目をこれでもかとばかりに輝かせていた。やはり子供は素直でいい。俺の言葉を疑うことなく、純粋に受け止めてくれる。
アリュールも、俺の言葉に目を丸くし、普段の落ち着き払った態度からは想像もできないような、素っ頓狂な驚きの声を上げた。
「ドラゴンって、あのドラゴンですか!えー、すごいです!本でしか見たことない生き物を呼べるなんて!」
(ふむ。この女性はドラゴンが実在しないと思っているのか?それとも、この世界にはドラゴンが存在しないのか?まあ、ドラゴンがいない異世界もあるだろう。細かい設定は神に任せるとして、俺がとやかく気にするべきではないな。凡人の思考に付き合うだけ時間の無駄だ。)
「もしかしたらこの国を助けてくれるのかも……」
(ん?今、彼女はそう言ったか?「この国を助ける」と。 さっきから心の声、というか願望がだだ漏れなのだが、これもまた異世界の神秘なのか? いや、当然だ。この俺が召喚されたからには、この世界の危機を救うのは必然。この女性は、俺という英雄の登場を直感したに違いない。)
「ワハハハハ!これはまさしく異世界転生っぽい展開になってきたじゃないか! さすが俺を召喚した世界だ!期待を裏切らない!」
俺がそう考えていると、女性の後ろから、メガネのようなものをかけた三十代ほどの知的そうで怪しげな男性がゆっくりと歩いてきた。
(この少女を狙う不届き者がいるのだろうか。さて俺の出番だな!)
「アリュール様、お久しぶりです。皇女様がお見えになったので来てみたのですが、そちらの珍しい服を着ている男性はどちら様ですか?」
この少女は皇女だと!?