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婚約破棄

婚約破棄されたら、魔王に誘拐されました。ちょっとタイミング考えてください!

作者: 名録史郎

「今をもってセリーヌ貴様との婚約を破棄させてもらうっ!」


 わたくしの婚約者であったはずの第一王子アレクフォンにそう宣言されました。

 今回のパーティーは、大々的に世ににわたくしたちの婚約を知らしめる場であったはずです。


 わたくしは、彼の隣からよろよろとあとずさります。


「そんなっ! どうしてですか」


 私が王子にそういううちに、わたくしがいたポジションに別の女性が出てきました。


「私は、貴様より、愛すべき人物に出会ったのだ」


 ピンクブロンドの艶やかな髪に翡翠色の瞳の子爵令嬢リリアン。

 ああ、なんたるかわいらしさ。今までなんの苦労もしてこなかったような出で立ちです。


 それに対する私は、黒髪。

 艶やかでいつも綺麗にまとめ上げてはいるものの、華やかさはありません。


 しかも、会場には、こんなにも人がいるのに、王子を非難するような声は上がってきません。

 いつもは冷ややかな目で睨んでくる他の令嬢たちが、クスクスと笑っています。


「っ」


 知らなかったのは、自分ばかリ。

 子爵令嬢リリアンは、私がいじめていたなどと好き放題、悪評をばらまき始めました。

 多分、わたくしが何を言ったところで、王家の後ろ盾がある彼女の言葉が真実になるのでしょう。


 わたくしは、涙を流しながら、よろよろと城のテラスに飛び出しました。


 誰一人として、わたくしの後を追いかけてくるような人物はいません。

 今まで、世話をしてくれていた侍女たちも、見向きもしてくれませんでした。


「国全体から、見捨てられたのね……」


 父の稼業がうまくいっていないことは、わかっていました。

 父は、人が良く、正直言えば、世渡りがあまり得意ではありませんでした。

 中央での地位もなくなり、爵位も形式ばかりで、辺境に左遷されています。


 トカゲのしっぽ切り。

 もうわたくしは、国母にはふさわしくない。

 きっとそういうことなのでしょう。


「それにしても、あんまりです」


 こんなに恥をかかせるみたいな婚約破棄。

 これが国の上に立つ人間のやることなのでしょうか。

 二人っきりで、ひっそり婚約破棄したいと話をしてくれれば、受け入れましたのに、


 こんなにも、王子のことを思い、王妃教育を頑張っていたのに。

 子供の頃に婚約してからというもの、人生すべてを王子のために捧げてきました。

 すべては無駄でした。

 こんなことになるのであれば、もっと別のことを勉強したりしましたのに。


 これから、どう生きて行けば……。


 お先真っ暗です。


「というか、本当に真っ暗なような」


 空は曇天に覆われて、風は吹き荒れ、雷まで聞こえてきます。

 まるで、私の心を表しているかのようです。


「パーティーが始まる前は、あんなに晴れていましたのに?」


 わたくしが疑問に思った、その時です。


「はっはっは」


 豪快な笑い声が、辺りに響き渡りました。

 ただ驚いているのは、わたくしだけ。

 城の中までは聞こえていないようです。


「えっ? なに?」

 

 おどろいて、辺りを見渡すと、空に、頭に角を生やした人物が、マントをはためかして浮かんでいます。


 私に向かって、急降下してくると、腰を抱きすくめられました。  


「はっはっは。この国の美しき姫はいただいた!」


 私は、そんな言葉を聞きながら、魔法による強制的な眠りに落ちていくのでした。


◇ ◇ ◇


「うーん、ここは?」


 気がつくと、わたくしは、見知らぬ場所にいました。


 壁も真っ黒、外も真っ黒、全部真っ黒。

 暗黒の力に満ち溢れているように感じました。


 気品ある、大きなベッドに私は寝かされていました。


 起き上がると、目の前には、私を誘拐した頭に角を生やした人物が優雅に椅子に座っていました。


「よく来たな、ここは魔王城だ!」


 魔王……城?


 あまりの驚きの連続と、魔王城という言葉から、私はおぼろげですが、前世の記憶を思い出しました。

 そして、ここがどういう世界であるかを。


 ここは、ゲームの世界。


 剣と魔法のファンタジーゲーム『ダークネスクエスト』

 魔王によって暗黒に覆われる世界を救う男の子に大人気の冒険RPG。


 うん?


 そっちかぁーい。

 乙女ゲームじゃないんかーい。

 剣と魔法のRPGかい。


 婚約破棄とか、完全女の子ゲームのイベント発生させておいて、乙女ゲームじゃないとかどんな詐欺?


 前世の幼い頃、私がというより、弟が毎日楽しそうにやっていたのを隣で見ていました。


 なんでやねーん。

 普通ゲームに転生するなら主人公でしょう。

 ファンタジーゲームRPGなら男の子。

 なんで私は、そんなゲームのヒロインに転生して?


 元の人格が混ざったことで、心の口調もおかしな感じになっていました。


 とりあえず、落ち着きましょう。


 あんまりよくはないけれど、この世界がゲームの世界っぽいことは、いいことにしましょう。


 ゲームの内容通りなら、魔王は誘拐した姫に危害は加えることはしないはずです。


 それよりも、わたくしが誘拐されたタイミングが劇的に悪い。


 ゲームは、冒頭で、王子の愛するお姫様が魔王に誘拐され、王子が姫を救出するため旅に出るところから物語が始まります。


 私が誘拐された時、護衛の一人もついていませんでした。

 きっと誰も私が誘拐されたことに気付いていないことでしょう。


 王子に愛されている姫が誘拐されて王子が魔王討伐の旅に出て物語が始まるのに、何一つ愛されていないので、私が失恋して失踪した感じになってるぅうううう。


 王子の『姫必ずお救いします!』みたいな殊勝な言葉は一切ありませんでした。

 それどころか、あの薄情な王子、絶対助けに来てくれないんだけど、どうするの。


 うなだれていると、魔王がいいました。


「くっくっく、あまりの悲しさに言葉もないようだな」


 魔王は、優しく目の前のソファーに座るようにうながします。

 パチンと、指を鳴らすと、執事服を着た人物が、可愛らしいティーカップに紅茶を注いでくれます。


 あ、おいしい。


 雰囲気はダークですが、ここは牢屋などでもなく、どうみても客室です。


 まるでわたくしのために用意してくれたような?


 紅茶を持ってきてくれた執事もビシッとしていて、対応も城の執事より洗礼されています。

 おめめはみっつありますが。


「どうだ魔族は怖かろう?」


 魔王がワタクシに問うてきます。


 ゲームで見慣れていたので、全然怖くありません。

 むしろなつかしさすら感じます。


「見目麗しき姫は、我が手に落ちた」


 見目麗しき!?

 そんなこと、王子に一度も言われたことありません。


「この世界一の愛くるしさ。さぞ王子も悲しんでいるだろう」


 愛くるしい!? 世界一ですって!?

 そんな評価受けたことありません。


「魔王にさらわれ、嘆き悲しむ姿も、まるで宝石。見ているだけでも飽きないな」


 まるで宝石!

 見ているだけでも飽きない!


「細部まで行き届いた気品あふれる、佇まいはもはや女神といったところか」


 女神にまでたとえられる!?

 どんな褒め殺しなの!!??


「いや、その、わたくしは、それほどまでは」


「ふむ。声も清らかな泉のように澄みきっているな。耳が心地良い」


 声すらも、ほめちぎられる。


 魔王は、私の手を取りました。


「きめ細やかな肌だ。しかも、密かに努力しているのだろう。指先にあるまめは心をこめて裁縫をしていると見える」


 あの王子は、全くこれっぽっちも気づいてくれなかったのに、そんなところまで気づくなんて!!!


「そんな姫が、我が手にあるだけでなんたる幸せ」


 もはや、存在自体までを肯定してくれるなんて!!!!


 手を顎に当て、私の顔を自分に向けます。


 間近で魔王の顔をよく見ます。

 

 彼の眼差しは、深淵のような深みを持ち。

 力強さを感じつつも、すらりとしたプロポーション。

 まさに理想的な美しさ。


 なにより、王子など、目ではないほどの王者の風格と包み込むような優しさ。

 

 イ・ケ・メ・ン!


 女の子にも人気が出るように工夫されていたゲームなので、魔王のデザインもいいです。


 これは、最高なのでは?


「あぁあん」


 おかしな声が、わたくしの口からこぼれました。

 たまりません。

 

 婚約破棄された、悲しさなど、なにもかも吹き飛びました。


 し・あ・わ・せ!


「どうだ? 我と結婚するか?」


「はい。喜んで!」


 冗談のように言われた言葉に私は全力で乗っかりました。


「そうだろう。そうだろう。こんな恐ろしい我となど、結婚する人間など、いるわけ……ん? 今、はいと言わなかったか?」


「はい。わたくしはあなた様と結婚します」


「なに!? なんだと!? 想定外だぞ。我は人間を滅ぼそうとしている魔王だぞ」


「あなた様と結婚するためなら、人間だって滅ぼします」


 国全体に、見捨てられました。

 私だって、国を見捨てる所存です。

 ゲームのころのマップと、この世界のマップを照らし合わせると、辺境に飛ばされた私の実家は、魔王領に隣接しています。

 家族だけはうまいこと助けられそうです。


「なんだって!? お前の最愛の王子だって殺すんだぞ」


「はい。もちろんです。あの王子だけは息の根を止めましょう! 絶対にです」


「お前の愛はどこにあると言うのだ」


「もちろんあなた様にすべて捧げます!」


 わたくしの言葉を聞き、衝撃を受けた魔王様はのけぞりました。


「お前の夜空に広がる星のように美しい黒髪は、魔王の妻にふさわしいと思っていたところだ」


 この人、さらに褒めてくるのですが!


「好きです! 大好きです。魔王様!」


 私の言葉を聞き、魔王様は、私の腰を優しく引き寄せました。


「全魔王軍につぐ。人間界への進軍は取りやめだ!」


「それでは、いかがしますか魔王様」


「今すぐ、盛大な結婚式の準備を行うのだ!」


 そして、魔王とわたくしの結婚式は、魔族たちに囲まれ盛大に取り行われ、

 私は魔王妃として、この世に君臨しました。


 人間界?

 うまいこと、実家の領地だけは、魔王領に取り込んでいただきました。

 あとは、どうなったのかなんてわたくしは知りません。


 だってわたくしは、魔王様と愛を育むのに忙しかったのですから。


 わたくしは、魔王様の子供をたくさん産んで、末永く幸せに暮らしました。

 めでたしめでたしですよね?


 




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