最後の外食
秀星は、入隊前にホスト仲間の青沢流と食事をしていた。青沢は秀星の4歳上の男で1年程前に兵役から日本に戻って来ていた。兵役を終えてからイカロスでホストになった彼は、年齢こそ秀星よりも上だが、ホスト歴は秀星よりも短かった。秀星は、年上下関係無く業界の先輩として、敬意を持って接してくれる青沢に信を置いていて、ホストとしての全てを叩き込んでやったのであった。
そんな秀星の事を青沢はスターキング(星の王様)と呼び崇めていた。年功序列的な日本の伝統からすればおかしな関係かもしれないが、ホストの業界ではその様な古臭い伝統等、クソの役にも立たなかった。
「秀さんもそろそろ入隊っすよね?」
「ああ、そうだな。」
「多分自分が入隊した頃より厳しいっすよ?」
「そうなのか?俺はホストとしての事は何でも分かるが、その手の情報には疎くてな。軍の事で知っている事があれば教えて欲しい。勿論タダでとは言わん。何でも御馳走してやるよ。」
「はっきり言って昼夜逆転している我々ホストが軍人の生活になれるのはきつかったです。軍隊の生活を舐めない方がよろしいかと。」
「そう言うものなのか?」
「少なくとも今は有事で日本共和国建国以来初めての戦争です。気を付けないと死にますよ?」
「やけに詳しいな。」
「一応これでも共和国陸軍の上等情報兵ですから。」
「それって偉いの?」
「いえ、下っぱです。」
「共和国陸軍は一番厳しいです。一昔前は海軍が一番厳しかったのですが、兵器のハイテク化により、人が体を張らなくてもよくなりました。アナログなのは今や陸軍だけです。特に徴兵で集められる歩兵は最も死亡率が高く、歩兵科は片道切符と言われる位です。」
「俺、歩兵科に行くんだけどヤバイの?」
「死なない様に神様に祈るしかないっすね。」
秀星は、これから己に待ち受ける運命の過酷さを知るよしもなかった。そして、青沢との食事が最後の外食になるかもしれないと言う事も勿論知らなかった。今、大きな運命の渦が大きなうねりとなって秀星に襲いかかって来ていた。