遺書
作戦前夜に遺書をしたためる兵士も少なくはない。それはいつ死しても良い様にと言う心情から来る行動である。眠れない兵士が夜な夜な起きて愛する人間の為に一筆計上する。その文章は驚くほど洗練されている。秀星も恋人である井山結衣宛に遺書を用意していた。
「結衣へ。今俺は、作戦直前の基地内部から筆をとっている。もしかすると、この文章を結衣が読んでいる頃には、俺が内地に無事戻れたか、死んだ時かその2つに1つしかない。勿論、生き残る為に最善を尽くす。俺が例え死んだとしても、結衣には幸せになる権利がある。どうか、俺が死んだ時は、幸せになる努力を怠らないで欲しい。俺は、縁あって共和国陸軍最難関のKKSの兵士になった。結衣もその位の存在は知っているだろう。これから行われ様としている作戦はそんな共和国陸軍の限界に挑戦するようなものである。成功するか失敗するかはやってみなければ分からない。五分五分と言う様な成功確立だろうか。まぁ、成功して欲しいのは山々であるが…。もう俺が共和国陸軍に召集されて半年が経過しようとしている。任期は4年だから、あと3年6ヶ月もこんな最前線で生き残らねばならないと思うと、切なくなる。他にも書きたい、伝えたい事は沢山あるが、これだけは言っておく。俺は自分の為じゃなく、共和国の為、愛する結衣の為、家族の為に戦っているのだと。明日明日の自分の命の保証すらここにはない。それでも希望と勇気を持って任務を遂行するまでだ。この手紙を結衣と笑って振り返れる日の為に。絶対に生きて戻る。秀星より」
この様な遺書をあらかじめ共和国軍の広報班宛に送る。そこから宛先の人間に渡るまでは約1~2週間はかかる。ただこうした遺書の類いは混乱を生まない為に死んでから送られるケースも少なくはない。もし生きて前線から帰って来た時は、こう言われる。
「生きてて良かったな。この遺書を捨てるも、家族に渡すも良し。好きにしな。」
と言われる。その言葉を聞く為に生き残るのかも知れない。しかし、油断大敵。そんな事が出来る兵士は稀である。それほど日本共和国と大米帝国との戦争は苛烈であった。




