初陣前夜
装備の確認だけは誰よりも入念にやっていた。これは、秀星の性格が大いに影響していたのかも知れない。死にたくない人間と生きたいと思う願望が強い人間は装備の確認を、これでもかと言う程にやると言う。秀星の場合は後者だろう。死にたくないと思う願望と生きたいと思う願望は同質のものだからだ。死への逃避と生への執着。
捉え方の問題であり、本質的には生きたいのだ。明日死ぬかもしれないと切迫した環境に身を置くと、中々眠れないものである。戦場での経験が全く無い元ホストや元漁師や元瀬戸物屋は考える事が全く同じで、トイレに行くと言って夜風にあたっていた。勿論、ばれたら雷が落ちるのは確実だが、最前線の部隊にあっては、夜風にあたるくらいの事は多目に見られていた。
「やっぱ緊張しますね。志真さんも背尾も眠れない口か?」
「まぁ、そうだな。俺の場合は興奮して眠れない口だがな。」
「秀星程の男でも固まるなら俺はどうすりゃ良いんだよ(笑)。」
「別に俺なんて大した事無いっすよ。このゼロワンにはもっと強い奴がゴロゴロいるんですよ?戦場で結果出すのはそいつらですよ。」
「同期最強の貴様らしくない御言葉だな?まぁ、無理もないか。」
「訓練通りやれば大丈夫さ。間違いなくミッションクリアさ。」
「明日死ぬかもしれないけど二人は大丈夫なんすか?」
「俺はいつ死んでも構わないがな。」
「死んじまったら、その時はその時だって思いますね。」
「そうやって、簡単に割り切れる所が、凄いなぁ。俺なんて未練だらけですよ?やりたい事が沢山ありますから。」
「秀星程の実力があって死んじまったら、諦めもつくだろう。」
「戦場ってのは運もあるからな。地獄の沙汰も運次第って訳か。」
「そう言う事です。秀さんが思うよりも運命のルーレットを回している女神様は、気まぐれなんですよ。きっと。」
秀星は迷いを絶ち切る事が充分出来ずに、初陣を迎える事になった。勿論こんな所で死ぬ気は更々ない。




