覚悟を決めろ
「おいおい、ものものしいぞ結衣?だが、この赤い封筒は何だ?」
俺は恐る恐るその封筒を開いた。
「笹尾秀星殿。貴方は日本共和国陸軍第3歩兵師団への入隊が決まりました。これは法律にのっとった国民の義務であり、この命令に背く事は犯罪です。○月X日迄に準備し入隊する様に。」
「俺が入隊?共和国陸軍に?」
俺は目の前の景色が暗くなった。恋人の井山結衣は死なないでねと念を押して来たが、大米帝国との戦争が始まるこの時期の召集は、タイミングとしては最悪であった。
その次の日はオフであったが、俺が高校を卒業してから今日までの2年間で築き上げて来たイカロスでの仕事は一時停止となる事をオーナーに告げた。するとオーナーはこう言った。
「秀が抜けるのは辛いが、何とかやって行く。それよりも、こんな時期に召集が来るとはお前も災難だったな。よりによって、世界最強の大米帝国との戦争だもんな。まぁ、生きてたらいつでも戻って来い。No.1の席は空けておいてやる。死ぬなよ‼」
「ありがとうございます。絶対生きて戻ります。」
そうだ。酒も飲めない18歳の俺をNo.1に育ててくれたのは、オーナーのお陰だ。たかだか2~3年間の兵役位どうって事はないさ。
入隊前の身辺整理には手こずったが、結衣の手助けもあり、覚悟を決めて入隊前の健康診断や身体検査もきちんと出席し、召集に応じた。俺はもう日本共和国陸軍の一等陸兵なのである。
ちなみに一等陸兵の下の二等陸兵は陸軍士官学校学生がつけ、その下の三等陸兵は陸軍幼年学校学生が身に付ける階級であり、一等陸兵は、事実上の最下級の捨て駒である。だが、俺とて今は死ねない理由がある。結衣を残しては絶対に死ねない。せっかく稼いだ億越えの貯金も使っていない。どうせ赤紙兵士なんて、死んだって共和国の奴等は何とも想わないだろう。だったら一生懸命やるのは馬鹿だ。適当にやって適当に流す位が丁度良い。
俺は世渡りの上手い奴だと言う事は、自分が良く分かっている。共和国陸軍だろうが大米帝国だろうが何のそのである。