罪悪感
秀星は志真岡と背尾と共に、与えられた自由時間を思い想いに過ごしていた。酒もタバコも自由だったが、そんなものはこの戦場では何の気晴らしにもならなかった。何故なら命の駆け引き以上に刺激的なものはないからである。TVや新聞で書かれている事にも大した動揺は無かった。かといって小説を読む気にもなれ無かった。と、すると恋人に連絡をし、雑談に華を咲かせるのが余暇の過ごし方になっていた。
「月収で500万円稼いでいたのが本当嘘みたいだぜ。」
「売れっ子ホストともなると、ギョウサン稼ぐんやな。」
「水商売ってそんなに稼げるんすか?」
「背尾ちゃんの夢を壊すようだけど、並みのホストはサラリーマンやった方が良いよ。」
「やっぱ秀星君は特別か…。」
「ホストってのはさ、イケメンで嘘つきじゃなきゃダメなんだ。」
「つまり、ホストクラブと言う所はイケメンが女性に夢を見させる場所って事?」
「そう言う事。夢見せて笑顔で月500万円。ボロい商売だろ?」
「そう言う所は金持ちの女性が行く所だろ?」
「志真さん、そんなの当たり前じゃないすか?」
3人の中では、どうやら序列があったらしい。歳が同じ秀星と背尾は同格の様だが、2歳歳上の志真岡はその上にいた。この様に軍隊とひとくくりに言っても、網の目の様な細かい序列が軍隊にはあった。
「こう言っちゃあ何ですがね、ホストクラブに来る様な女性は所詮売れ残りっすよ。」
「口が辛いな。秀星君それかなりひどいよ?」
「ホストやってて、罪悪感とか無かったんすか?」
「そんなものあったらホストなんてやってらんねーよ。」
「まぁ、世の中には虎穴に飛び込む勇気のある人はいますからね。」
「どういう意味すか?」
「物好きが多いって事だよ。」
「共和国陸軍一等陸兵の給与3年分を2ヶ月で稼ぎ出すんだから、本当嘘みたいです。」
「金の事だけ考えていると、肉体的にも精神的にもキツイのに、月収ダダ下がりなんてやってられないかもしれないけど、徴兵は日本共和国国民の義務だからな。何人たりとも従わなくてはならない。」