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4 まあ、楽しくやっていけてるから別にいいかな

浴場入り口で別れて、僕は男湯に入る。

この世界の男性の男性身長事情はまだ説明してなかったかな?背が低いほどモテるのは確かなんだけど、平均的な男女の身長は元の世界と変わらない。

群を抜いて小さい僕は子供と間違われるか、そうでなければ「こいつモテるんだろうな畜生」という目で見られる。

女湯の方からざわめきが聞こえてきて、男どもがそちらを振り返る。もちろん壁の向こうのことが見えるはずもないが、それでも本能なんだろうな。ざわめきの原因は美女3人組が入ってきたからだと思うよ。あの3人が脱ぐと本当に目立つからな。いやまあ服着てても目立つけど。

この浴場ではマッサージのサービスもあるけど今日は頼まない。今は一番体調が整っている状態。

なので服を脱ぐとそのまま浴室に向かい、マナー通りに掛け湯して浸かる。かなり熱いんだけど、そういえば元の世界では銭湯なんて入ったことなかったな。こんなもんなんだろうか。

「あれ?あんたさっきラシタラ男爵のご令嬢と話してなかったか?」

隣にいた男性に話しかけられた。

「あ、はい。僕です」

「すごい美人と接点があるんだな。どうやって知り合ったんだ?」

「以前やった仕事を評価されまして」

僕の仕事ではない。永遠の氷河の仕事だ。国王の甥でもある公爵家の依頼をこなした3人が報酬を受け取る際、メンバー全員で来てほしいと言われて王宮に出向いた。何の仕事だったかな?竜退治とかそこまで大げさなものではなかったはずだけど忘れてしまった。なにせこの世界に転生した直後のことだったから、公爵と侯爵のどっちが上だっけレベルの混乱中の出来事だ。まあそれはともかく、そういうわけで王宮で王様やら公爵様やらから讃えられている場にラシタラ男爵一家もおられたそうだ。爵位は低いが何せ世界でも指折りの美人を擁する貴族家ということで、いろいろな場所に呼ばれる声がかかるのだそうだ。あの時もたぶん仕事の報酬のひとつとしてこの美人と結婚を云々の流れになるはずだったのだろう。ところが、いざ呼び出してみると中心人物はそこそこの美女3人で、絶世の美女と結婚できる権利が報酬になるはずもない。その後ろにいる裏方要員(僕)も見た目はおよろしいけど仕事に貢献していないのであれば報酬を与えることもできずというわけで、その場では何事もなかった。しかし肝心の絶世の美女本人がその裏方要員を見定めてしまい、それ以来つきまと・・・いや、何かと気にかけるようになった。ざっくり説明するとこんな感じだが、これをさらに要約するとこうなる。

「僕は何もやってないんですけど、仲間の付き合いでお会いした時に縁ができたんです」

「そうか、そりゃ羨ましいな」

「ですが本当に何もやっていないのでお受けすることもできないんですよ。知り合い以上の関係になるきっかけがないんです」

「うーん・・・難しいな、なんせ貴族様だしな」

「ええ」

きっかけ。このまま無いといいな。


湯から上がって、服を着て外に出る。ちょうどスーイちゃんが出てきたところだったので手をあげて挨拶する。

「えっぶ!」

ばちゃん!コロコロ・・・・とスーイちゃんが取り落とした入浴セットが転がっていく。手をあげただけで声もかけてないんだけど。

スーイちゃんはそのまま入浴セットも拾わずに走り去り、ちょっと行ったところで引き返してきた。落としたものを急いで拾い集めてまた走り去る。これ・・・地味に傷つく。もしかしたら本当に僕が嫌いだからこういう反応してるわけじゃないよね?「クラスで一番のブス女子が学校で一番のイケメン男子に話しかけられた時の反応」というより、「クラスで一番の美少女が学校で一番キモイ男子に話しかけられた時の反応」に近い気がする。

やばい。もしかしてと思ったら本気で悲しくなってきた。考えてみたらスーイちゃんの好みのタイプが世間一般と同じだという保証はないし、第一僕の中身はチッチャイコフスキーだ。この世界の価値観でなければ事案でしかない。

「あ、エイ。待たせたな」

「湯冷めしてないアルか?」

「・・・おなかすいた・・・帰って・・・食事」

3人が出てきた。うーん・・・この3人は本当に僕によくしてくれるんだよな。

「じゃあ、宿に戻ろうか」

「おう」


宿では、ご主人がたくさんの料理を用意して待っていてくれた。あと数品の盛り付けですべて終わるという。出来上がった料理を4人で手分けして部屋に運んでいく。最後に残った皿はご主人が持ってきてくれた。

「思った以上に手間をかけてくれたようだな」

アリョーシャの言う通り、これはいくら長逗留で材料持ち込みだからってタダで作ってもらえるレベルの料理ではない。引き払うときには少し料金に上乗せして支払おう。

「さあエイ、真ん中に座るアル」

「・・・主役・・・」

「え?」

待って、今日は3人の無事の帰還を祝っての食事会じゃなかったの?

「おとといで、エイが永遠の氷河に加入してからちょうど1年だ」

「まさか覚えてなかったアルか?」

「出発前に・・・言ったはず・・・」

全然覚えてなかった。確かに今回の仕事に出発する前に、いつもより豪華な料理を用意するよう言われていたのは覚えているけどその理由までは聞いてない・・・いや、僕が忘れたんだろうな。

「ちゃんとホンファが説明したんだろ?」

「ペオリアが自分で言うって言ってたアル」

「・・・お前は黙ってろって・・・アリョーシャが・・・」

どうやら本当に言い忘れだった!

「「「「・・・」」」」

気まずい。

「じゃあ、その。これからもよろしく」

ちょっと強引だけど、無理やりに食事会を始めてみた。

「よろしくな」

「よろしくアル」

「よろしく・・・」

こうしていつも通りだけどちょっと特別な食事会は始まった。


さて、冒頭で書いたとおり、これは僕の異世界転生レビューだ。1万文字の義務はついさっき達成したから神様との約束は守れたはず。どのへんでクリアしたか気になる人は数えてみてほしい。本当についさっきだから。

誰かと代わってほしいぐらい困ってるって書いたけど、こうして書き上げてみると案外そうでもない。恋愛対象の女の子がいないぐらいでこの生活をやめたいなんて言って反省している。このあとの3日間はたぶんいつものようにみんなと交互に過ごして、そのあとはまたいつものように難易度の高い依頼を受けて戦いに行く。その間に僕はいつものようにみんなが帰ってきた後快適に過ごせるように準備しておく。帰ってきたらいつものように過ごすのだろう。やっぱりこの生活は人に代わってもらいたくはないかな。

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