1 異世界転生したけどおいしい話ばかりじゃないよ
初投稿です。代表作を投稿する前に習作として一本書き上げてみました。わりとあっさり読み終えることができると思うので、短いエピソードですがよろしくお願いします。
やあ、僕の名前はエイ。半年前に異世界転生を果たした新人冒険者さ。
生前はさっぱり女性と縁がなかったけど、こっちの世界に来てからはモテまくりで困っちゃうぐらいさ。機会があったら是非君も異世界転生を試してみてくれよな!
えーと、これで100文字ぐらいか。先は遠いな。
神様の世界もいろいろと世知辛いらしい。
異世界転生するときに、転生レビューを1万文字書く条件で望み通りの世界に転生させてくれるという約束だったもので書き始めてみたけど、100分の1で終わってしまった。まあ冒頭だけきれいなことを書いておけばOKしてくれそうなちゃらんぽらんな神様だったからたぶんこの先は本当のことを書いても大丈夫だろう。
元の世界では顔はまあ平均かちょっと下ぐらいだった。趣味はよく言えばインドア、悪く言えばオタク。まあ異世界転生ものを読み漁るような男がオタクでないはずはないけど。
偏見かな?
それはおいといて、モテなかった最大の原因は身長。161センチしかなかったんだ。
死因はよくあるやつで、トラックに轢かれたから。
いや、よくあることじゃないな。たぶん僕ぐらいじゃないかな、自分のトラックに轢かれて死んだ転生者って。
他人と話さずに済む仕事ということでトラックドライバーを目指して大型免許を取得したんだ。で、20年ローン組んで10トントラックを買ったんだ。いやー、マイトラックを手に入れたときは本当にうれしかった。喜びのあまり、ちょっといいビールを買って帰ろうとコンビニに寄ったのがいけなかった。サイドブレーキを引き忘れて、ギアもパーキングに入れ忘れて降車したものだから、数歩歩いて振り返るとマイトラックがゆっくりとバックし始めてたんだ。慌てたものだから運転席に飛び乗ることも思いつかず、トラックの後ろに回って手で止めようとしたんだ。で、ぐちゃりんこ。
みんなも気を付けてほしい。サイドブレーキは大事、本当に大事。
で、だ。モテまくりで困っちゃうと書いたけど、これは本当。誰かと代わってほしいぐらい困ってる。
確かに望んだよ、美醜逆転世界に転生したいって。
でもさ、「高身長の男がモテる、ちっちゃくてかわいい女の子がモテる」世界が逆転した「低身長の男がモテる、おっきくてパワフルな女の子がモテる」世界に転生したいなんて望んでなかったよ!
今、僕の身長は転生前より少し低い159センチ。「160以上の男なんて人権ないわー」とのたまう踊り子の発言が賛同を得るような世界においてこの数字はモテモテラインをぎりぎり超えている。いや、下回っていると言った方が正しいのかな?どう思う?
まあ、それはいい。もともとチビだったから、チビ扱いされることには慣れてる。問題はもうひとつのほう。
ほら来た。
「エイ!お待たせ!」
「アリョーシャ、お帰り」
僕が今所属しているパーティ、「永遠の氷河」のリーダーのアリョーシャ・クラフチュク。北方民族の特徴を色濃く残した美人さん。この世界基準でもトップクラスの美女。大きな胸を支える真っ赤なビキニアーマーが自慢のハルバード使い。まさしくパーフェクトウーマン。でも、身長219センチ。
「お土産は約束通りツンドラベアーのお肉アルヨ」
「覚えててくれてありがとう、ホンファ」
大陸中央山脈の少数民族出身のシン・ホンファ。素手格闘術を若くして修めた黒髪の天才武闘家で、民族衣装であるサイドスリットワンピースを愛用している。元の世界ではチャイナドレスと呼ばれていたけど、チャイナという国がないこの世界ではそんな名称ではない。単身で破った道場は数知れずのパーフェクトウーマン。でも、身長211センチ。
「・・・先に、ギルド・・・行こ」
「そうだねペオリア」
南方諸島から漂流し、この大陸にたどりついた褐色の美女、ペオリア。南方諸島独自の理論に基づいて身に着けていた魔法に加え、この大陸で研究されていた魔法技術も習得したことで攻撃防御回復強化支援とあらゆる魔法を使いこなすパーフェクトウーマン。でも、身長203センチ。
「エイ、今日の宿は出発前と同じ?」
「うん」
「じゃあお肉も焼いてもらえるアルネ」
「大丈夫だと思うよ」
「・・・たくさん・・・食べる・・・から」
「みんなで食べようね」
ごらんの通り、美女3人に囲まれた生活。ちなみに僕が何をしているのかというと、「永遠の氷河」が万全の状態で行動できるように生活雑用全般をこなすこと。便利な家電製品がないこの世界では結構大変だけど、剣や魔法でモンスターと命のやり取りをする生活よりはずっと楽だ。正直、この生活は気に入っている。そう、生活には不満はないんだけど。
この目線。
男たちだけでなく女性からも、美女3人に囲まれた男に向けられる視線を感じる。
女性たちからは「顔はそこそこで身長も低いお得物件!・・・だけどあんな大きな女性たちに囲まれてたら手出しなんかできないわ」という視線。
男たちからは「うまくやりやがったなあいつ、俺もあのぐらい小さければな」という嫉妬の目線。
そう、大きな女と小さな男がモテるこの世界で、身長159センチの僕はモテてモテて困るのだ。繰り返すが、困るのだ。なぜなら、元の世界にいたときからずっとチッチャイコフスキー、つまり小さい女の子が好みだから。
美醜逆転の設定はお気に入りなので、練習で書こうと思ったときにすぐテーマが決まりました。自分の知る限りでは体型の美醜基準が逆転した作品は知りませんが、背の高い女性が好きだという方はそれなりにおられると思っております。
なお、エイの前世での死因は実体験が元になっています。本当に冗談でもなんでもなくサイドブレーキは大事ですよ。