卒業式(前日)
月日は流れ、今日は卒業式当日。
それまでの出来事を簡単にまとめておく。
修学旅行が終わってから、桜野はいつも通りに戻った。話しかけてくる頻度は以前に比べ増えたが、それは勉強についての質問ばかり。数学の少人数で同じクラスになったので、その時がほとんどだった。
クリスマスやお正月も特にどこかへ行くことは無かった。
一月に合唱コンクールがあった。去年はコロナでできなかったが、今年は市内にあるホールで行った。冬休み前からクラスで練習を始め、見事金賞を取ることができた。発表は当日ではなく、週明けのリモート朝礼だったので、盛り上がりはいまいちだったが。
そして受験。僕は一月中に推薦で第一志望の学校に受かった。桜野の結果は知らない。本人から聞くことはなかったし、誰かから聞くこともなかった。
そんな感じで修学旅行が終わってからあっという間に卒業式前日になった。今日、中学校最後の成績表が配られる。受験で必要なのは二学期までなのであまり重要ではないが、それでも気になる。そして配られるものはもう一つ、卒業アルバム。この3年間の思い出の全てがここに入っていると言っても過言ではない。楽しかったことはこれを見れば大体思い出せる。
成績は二学期と変わらずだった。良くもなく悪くもないといったところ。どうせなら一つでも上げたかったが、終わったことを悔やんでも仕方がない。
そして最後の授業(総合的な学習の時間)で卒業アルバムが配られた。ページをめくるとクラスのみんなの証明写真があったり、先生方の証明写真があったり、入学式の写真があったり…イベントのほとんどの写真は載っていた。もちろん、修学旅行の写真もあった。でも自分たちで撮った写真をもらうことも、見ることもできなかった。本当の思い出はあのカメラに詰まっている。いや、僕たちの心の中にあるのかもしてない。でもそれはいずれは薄れ、消えてゆく。データとして、物として残しておきたかった。今更そんなこと言ってもどうしようもない。以前写真をもらえないか聞いたが、だめと即答された。
みんなは友達と写真を見ていろいろ話している。僕は一人、静かに眺めていた。楽しかったことだけが切り取られたアルバム。辛かった思い出はどこにもない。アルバムの最後には空白のページがあった。最後の授業が終わるとみんな友達とそのページに書き合っていた。他のクラスからも来たり、逆に他のクラスに行く人もいた。僕は書いてもらうことはなかったが、クラスの女子や部活の仲間に「書いて」と言われたので書いた。特に思い出のない人には てきとうな、ありきたりなことを書いた。本当に大切な人には手紙を書いて渡してあるので、特にこだわって書くこともなかった。桜野は、来なかった。僕から行くこともなかった。桜野を見ると女子がたくさん集まっていた。その中に男子も数人。あんな風に行ければ、行きたくても行けない。先生が「そろそろ時間も時間だから帰ってください。明日の朝、時間があればそこで書いてもいいから。」と言ってみんなを帰らせ始めた。僕もそれに従って帰ろうと思ったが、廊下がものすごく混んでいたので、少しだけ残ることにした。教室は一気に空き、残っているのはほんの数人になった。桜野の姿ももうなかった。廊下が空き始めたのでリュックにアルバムを入れ、廊下に出た。階段に向かうと桜野が磯川さんと一緒に立っていた。「青柳君、これ、書いてくれない?」と控えめに言われた。やっぱりこの感じが桜野には合っている。修学旅行の時がおかしかった。今の桜野が一番好きだった。アルバムとペンを受け取り、メッセージを書く。『修学旅行、すごく楽しかったです。またどこかで会いましょう 青柳』もっと書きたいことはあっても、スペース的にこれが限界だった。桜野に返すと「青柳君はいいの?」と聞かれた。まだ誰からも書かれていない。桜野には書いてもらいたかったが、あえて書かないでおいてもらった。「奈保にも書いてー」と磯川さんに言われた。「さっき書かなかったっけ?」と聞くと「ホントだ、書いてある」と言った。僕が書いた人数は10人ちょっと。だから覚えている。磯川さんは多分僕の5倍近く書いて、書かれたはず。忘れるのは当然だった。
階段を下り、昇降口に向かう。この動作も何百回とやってきたが、もうあと数回できるかどうか。当たり前だった日々が明日で終わる。昇降口を出て校門をくぐる。学校の前の桜並木は満開とまではいかないが、奇麗に咲いている。明日の天気は雨。気温も低く、せっかく咲いた桜ももう散ってしまうかもしれない。でもきっと晴れる、そう信じていれば本当に晴れるかもしれないから。
学校の方を振り返って見た。昇降口に桜野たちがいるのが見える。「茉依、今までありがとう。いつか、またいつか…ね。」明日会えるのに、そうつぶやいた。
今回もお読みいただきありがとうございます。
もう少しで終わりにしますが、最後までよろしくお願いします。




