修学旅行1日目(ホテル)
ホテルに着いた。場所はルビ〇京都堀川。大通りから前の細い道に入る時、直角カーブがあり、バスがスレスレで曲がりきると歓声が上がった。バスを降り、ロビーに集まる。ここでもいろいろな注意事項を先生が話した。他のお客さんもいるから騒がないこと。時間はしっかり守ること。男女で階が違うから間違えないこと。汗かいてシャワー浴びたかったら、部屋にある風呂を使っていい、けど夕食までには出てくること。一通り終わり、カメラを先生に返却した。そして、予めホテルに送っておいた大きな荷物を受け取る。松本を探し、一緒に部屋に入った。大きさはビジネスホテルの二人部屋くらい。大きいわけではなく、小さすぎることもない。ちょうどいい感じの部屋だった。松本は荷物を置くと既に奇麗にされているベッドにダイブした。相当テンションが高い。夕食まで少し時間があるのでこれからの予定を確認した。夕食をとったら、確か相国寺で座禅体験をして、ホテルに戻り、お風呂に入ったら、係ごとに集まりなんかの確認をする。そして寝る。お風呂の時間がすごく短いので予め準備しておくことにした。とは言え、他の4人班に比べれば2倍の時間があるので余裕と言えば余裕。言い忘れていたが、このホテルに大浴場は無く、部屋にあるユニットバスを使う。松本はユニットバスを使い慣れているらしく、説明してくれた。
そんなこんなで夕食の時間になった。夕食の場所に行くと長いテーブルが横に並べられ、それが何列もある。そして前後左右の間隔がとても広い。自分の席に着き、料理を見る。ご飯にサラダと鍋物。そしてグラスに入ったオレンジジュース。ホテルの方が鍋の火をつけて回る。鍋がぐつぐついい始めた時、夕食の司会担当の人が右の方でマイクをもって話し始めた。なんか色々話した後に「手を合わせてください。いただきます。」……沈黙。それもそのはず、喋ってはいけない。これもまたコロナのせい。喉が渇いていたのでオレンジジュースを飲んだ。そう、飲んでしまった。火が消えかけるくらいのタイミングでホテルの方が鍋の蓋を外してくれた。中身には大きな牛肉が二、三枚と野菜と白滝が入っていた。すき焼きだ。取り皿に取り、食べる。味までは覚えていないが、美味しかったんだと思う。ご飯はお代わり自由だったが、一杯でいっぱいだった。
夕食が終わり、一旦部屋に戻った。座禅体験に行くときに必要なものは何もない。時間になり、ロビーに行った。相国寺までもバスで行く。ホテルの前に止められたバスに乗り、自分の席に座った。全員揃い、バスは出発した。5分くらいでバスは停車した。駐車場が無いせいか路上に駐車した。急いで降り、建物まで歩いて向かう。境内は照明が一部にしかなく、とても暗い。さらに明日が新月なので月も出ていない。そのため夜空の星が奇麗に見えた。桜野と磯川さんがこっちに来た。「月がきれいだね。」と言うと、「月なんか出てないよ~」と桜野に笑われた。しばらく歩くと建物に着いた。着いてすぐ、トイレに行った。昼のこととオレンジジュースで死にそうだった。座禅は一時間だが、もしかしたらヤバいかもしれない。トイレから戻ってくると既にほとんどの人が座っていた。空いている所に適当に座る。様子としては、畳の部屋に座布団が並べられている。それだけ。薄暗く、前の人の表情が分かるか分からないか、それくらいだった。お寺の人が話し始めた。昔の人が座禅を何日もやったとか、そんなような話だったと思う。話が終わり、座禅の説明に入った。座布団の上にあぐらをかいて座る。おへその前あたりで人差し指と親指でだ円を作るように手を組む。あとは背筋を伸ばして目を閉じるか閉じないかくらいに開ける。何も考えてはいけないという。もし寝たりなんかしたりしたら持ってる木の板でぶったたくらしい。早速やってみましょうということで始まった。時間は15分だったと思う。言われたとおりにしていた。お寺の人は生徒の間をまわり、姿勢が崩れている人を正したり、寝ている人の肩だったたか頭かをパンパンとたたいていた。その間、今日のことを考えていた。何も考えないのは、無理だった。関西の電車を初めて見たこと、奈良公園が意外と奇麗でないこと、今日だけでトイレに何回行ったのか…考えてはいけないことを考えてしまった。また行きたくなった。でもまだ始まってから30分も経っていない。さすがにここを抜けて行くのは無理がある。我慢するしかなかった。座禅第一弾が終わった。少し休憩ということだったが、その間もお寺の人は話していた。だめだ、抜けられない。そうこうしているうちに第二弾が始まった。15分間、できるだけ違うことを考ええた。なんとかなり、第二弾も終わった。しかし、話は終わらなかった。まだ時間が少しあるからと昔話を始めた。それが長かった。話は頭に入ってくることは無く、早く終われ早く終われ、それだけを願った。いつ出てきてもおかしくない、そんな状態だった。ようやく話が終わった。時間を何分かオーバーしていた。僕は即トイレに行った。同じような人が複数いて、みんなオレンジジュースがだめだったんだろう、そう思った。
バスに戻る途中、後ろから「青柳くーん」と桜野が走ってきた。「暗いんだから走ったら危ないよ。」と言ったが、「こっち向いて~」の声にかき消された。カメラマンがそこにいた。桜野は僕の右腕と自分の腕を組んできた。そしてカメラに向かってピース。僕も慌てて左手でピースサインを作り、桜野に合わせて腰をかがめる。「3、2、1、はーいオッケーでーす」カメラマンに頭を下げ、桜野に「どうしたの?」と聞いた。「何が~?」と嬉しそうに答える。その時の桜野の表情は本当に嬉しそうだった。抱きしめたくなるような、そんな可愛さ。バスまで一緒に歩いた。座禅で誰が叩かれたとか、学年主任が叩かれてたとか、そんなことを話した。バスに乗り、ホテルに戻った。
部屋に入ると松本はまだ帰っていないようだった。お風呂のタオルと着替えを準備してシャワーを浴びた。シャンプーの泡立ちが悪く、大量に使った。体も洗い、泡をすべて流す。浴槽の中で体を拭いてから出る。ここからは部屋着でいいので部屋着に着替えた。お風呂場から出ると既に松本は部屋にいた。松本も入れ替わりでお風呂に入った。係会まで時間があるので今日のことを振り返った。桜野、どうしたんだろう。それしかなかった。いつもに比べて、というかなんか可愛かった。いつもの感じがどこにもなかった。気のせいだと思いたいが、どう考えても気のせいじゃない。修学旅行だから、そうすることにした。松本が出てきた。それでもまだ時間は余る。少しの間、松本と今日のこと、明日のことを話した。相変わらず松本はテンションが高く、ベッドで飛び跳ねたり、ぐるぐるしたり、よく分かんなかった。
係会の時間になり、松本も自分の係会の行われる場所に行った。
記録係は大きな部屋で、他のいくつかの係も同じ部屋だった。内容は乾電池式のカメラは袋に予備が入ってるから、電池が切れたらそれを使う、壊れたら黙ってないで申し出る、前日に集まった時と同じようなことを言われた。
次に室長会を違う場所で行った。部屋に帰ったらまず検温をさせる、備品は丁寧に使う、夜はしっかり寝る、女子が男子の階、男子が女子の階に行かない、違う班の部屋にはいかない、明日の朝はちゃんと起きる、かなり多かったが、全て当たり前のことでもあった。
一通り終わり、部屋に戻ると松本は既に帰っていた。先に終わるだろうと思い、鍵を預けておいて正解だった。まずは検温、ということで体温計で検温した。ピーピーと鳴り、数字を見て記入シートに記入する。37.2℃。さすがにおかしいと思い、再度測りなおす。37.3℃。37度を超えている。小学校5,6年生、中学校1年生で行った修学旅行でも同じことがあった。修学旅行に行くと必ずと言っていいほど熱が上がる。虚偽報告するわけにもいかないし、何より松本が「コロナコロナー!」と騒ぎ、先生に言いに行ったので どうしようもなかった。担任の先生が来て再度測りなおしたが、やはり37度を超えていた。「修学旅行に行くと毎回こうなんです。」と言ったが、「いやいや」と言われ保健の先生のところに行くことになった。保健の先生は女性なので女子の階に行くことになる。仕方がない。下の階に下り、エレベーターホールのベンチで先生を待った。先生が来ると脈を確認され、「熱測って」と体温計を渡された。今日で4回目。37度を超えている。「ちょっと待ってて、」と先生は一度部屋に帰った。さっきまでいた担任の先生も、いつの間にかいなくなっていた。何人か女子が通り、「どうしたの?」と声を掛けてくれたが、熱があったと言うと「そうなんだ」とそのままどこかへ行ってしまう。そんな中で桜野も来た。制服姿しか見たことがなかったので、私服姿はなんだか新鮮だった。いつもなら嬉しくも何ともないが、今日だけは嬉しかった。「青柳君、どうしたの?女子部屋覗きに来たとか?」こんな時に何言ってんだか。「そうじゃなくて、ちょっと熱があって…」と答えると「大丈夫?」と隣に座ってきた。「脈見せて」と僕の手を取る。しかし、脈の場所が分からないらしく、いろんなところを押してくる。そんなことしてたら脈上がっちゃうわ。僕は保健委員なので脈の測り方は知っている。「ここだよここ」と教えると「ホントだ!めっちゃドキドキしてるじゃん!」と面白そうだった。絶対脈なんか計ってないのに。そんなことをしていると保健の先生が帰ってきた。「青柳君、一回保健室で寝てようか。」と言われ、これは人生で2回目。熱は出ても寝かされたのは小6の時だけだった。保健室、とは言っても保健の先生の部屋というだけ。布団が二枚並べられ、薬などの入った箱が置いてある。「適当に寝ておいて」と言うと先生はどこかへ行ってしまった。気分的には熱っぽくないし、まあ、言われた通り寝ておくか。寝ようと思い、部屋に入ろうとしたら「青柳君?」と声を掛けられた。桜野だ。「ついてきたの?」と聞くと「だって心配じゃん。」と全く心配してなさそうに言った。「私も熱あれば一緒に寝れるのかなぁ。」なんて言っている。構わず布団に入ると「私も入る。」と言って入ってきた。「怒られるよ?」「大丈夫じゃん?」「大丈夫ではないでしょ。」「私も熱あればいいでしょ?」「そういう問題じゃないから。」「じゃあ、どういう問題?」「普通に考えてアウトだから。」「私にとっては普通だけど?」もう無理だ。どうにもならなかった。桜野は「でもね、」と続けた。「おかしいな、とは思ったの。バスを途中で抜けたり、奈良公園でもそうだったし、さっきの座禅でもそうだったでしょ?」そっちのおかしいか。今の体調とトイレは関係ない、はず。「心配してくれてたのは嬉しいんだけど、布団に入ってくることにはならないでしょ。」「え~嫌だった?私のこと好きじゃないの?」嫌ではない。好きだなんてどこで聞いたんだ?こう言ってくる女子は好きじゃない。でも今はなんか違う気がする。許せる。普段、こんなに積極的じゃない性格だから、そのせいだろうか。何も答えないでいると桜野も何も喋らなくなった。「ごめんね」桜野は小さな声で言った。「こんなことされたら迷惑だよね。私も修学旅行でテンション上がりすぎたのかな。もう帰るね。」そう言って布団から出ようとした。僕はその手を掴んだ。「へっ?」と桜野が声を出す。「もうちょっとこっち来て。脈測りたいから。」そう言って布団に引き戻す。桜野の脈は明らかに速かった。「桜野さん、脈めっちゃ速いよ。」そう言い、桜野の顔を見る。赤い。「熱あるんじゃない?ちょっと見せて。」とおでこに手を当てる。汗までかいていたが、熱さは感じなかった。「今測れば37度超えるかもね。」と笑うと桜野は小さく頷いた。実際に測ってみると36.9℃だった。もう一度測るが結果は変わらず。「先生に見つかったらいけないから、私帰るね。」そう言って僕を上から抱き締めた。正確には乗った、かもしれない。長い髪の毛が僕の顔にかかる。ホテルのシャンプーやコンディショナーとは違う、いい香りがマスク越しでも分かった。。
桜野が帰った後、しばらくして先生が帰ってきた。再び熱を測ると36.7度まで下がっていた。「熱も下がったし、体調も良さそうだから、もう部屋に戻っていいよ。」そう言われたので「ありがとうございました。」と言って部屋を出て、自分の部屋に戻った。「ごめんね、遅くなって。」そう言うが、松本はテレビを見ていて気付かない。後ろから「わっ」と脅かすと「わーコロナコロナ」と逃げられた。「もう熱下がったから多分大丈夫。」そう言うと「なーんだ」といつもの松本に戻った。時刻は10時手前。明日も早いので寝る準備をした。
布団に入ると思い出してしまう。さっきは桜野が隣にいた。不思議な感じだった。明日は今日と違い、班行動になる。桜野が何かしてくるかも、でも他の班員がいるのにそれは無いか。すごい色々考えてしまった。でも今日は本当に疲れたんだと思う。すぐに寝てしまった。
こうして長く、短い一日目は終わった。
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