ドラムロールのビートにのって、オレは缶コーヒーの中で営業スキルを武器に戦う 007
自転車の荷台に乗せた背後の莎等は、先程から自分に対して、問い掛けを繰り返している。
正直、勘弁して欲しい。
返答するとさらに体力を削られるのだ。
そこのところわかって欲しい。
阿蘭はそうは思った。
「ねえ、自動車、完全に見失っているんだけど」
背中で何かしらの雰囲気の変化を感じたかと思った直後、莎等は険のある言い方をし出した。
「ねえ、どうするつもり?」
元の世界でも、営業マンとして、毎朝の朝礼で目標という名のノルマを自ら掲げさせられ、プレッシャーを強いられる生活をしているのに、こんな異世界にとばされてまで圧を掛けられるなんて。
この世界では自分は超人になれる。
そう思っていたが、どうやらこの世界で覚醒した技能は有限のものらしい。
実際に偶然に発動させた脚力の増強の技能は、今や見る影もない。
「『足で稼ぐ』という技能は、営業マンの基本中の基本技能だから、永続的に効果がありそうなものだけどな」
やはりこの異世界の規則を自分はまだまだ理解できていないと阿蘭は思った。
「ねえ、どうするつもりって尋ねているんですけど?」
ああ、これは仕入れ先に発注した商品が50個としたつもりが、50K(5万)個だったときに、上司に激づめされたときの、あの精神的苦痛の再来だと阿蘭は思った。
身分不相応な行動を起こした結果だ。
困っている人をこの世界でなら、自分の力で助けることができると思った。
しかし、元の世界でたいした成績も出せない営業マンは、別の世界に転生したとて、自分以外のものにはなれないのだと思った。
「いつも、いつも人をバカにしやがって」
考えが飛躍し過ぎる、と上司から度々指摘されてきたが、今も阿蘭は極端な考え方しかできなかった。
「考えならあるさ」
阿蘭は体裁を整えた。
「振り落とされないようにしっかりつかまって」
阿蘭の指示に反応して、莎等は身体を自転車に固定した。
阿蘭はブレーキレバーを両手で強く握り、自転車を急停止させた。
「何のつもり?」
莎等はすばやく自転車から下りると警戒するように言った。
阿蘭も自転車から降りた。
莎等が追っていた自動車の跡を追い、町から郊外の方まで相応の距離を走った。
往来を走る自動車もだいぶ見かけなくなった。
辺りはかなり暗くなっている。
遠くの方から自動車がこちらに走ってくる音が聞こえた。
阿蘭はその音に耳を澄ませながら、やがてゆっくりと莎等の方に振り返り、そして、笑った。




