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ドラムロールのビートにのって、オレは缶コーヒーの中で営業スキルを武器に戦う 007

作者: kiichi
掲載日:2023/01/10

自転車の荷台に乗せた背後の莎等は、先程から自分に対して、問い掛けを繰り返している。

 正直、勘弁して欲しい。

 返答するとさらに体力を削られるのだ。

 そこのところわかって欲しい。

 阿蘭はそうは思った。

 「ねえ、自動車、完全に見失っているんだけど」

 背中で何かしらの雰囲気の変化を感じたかと思った直後、莎等は険のある言い方をし出した。

 「ねえ、どうするつもり?」

 元の世界でも、営業マンとして、毎朝の朝礼で目標という名のノルマを自ら掲げさせられ、プレッシャーを強いられる生活をしているのに、こんな異世界にとばされてまで圧を掛けられるなんて。

 この世界では自分は超人になれる。

 そう思っていたが、どうやらこの世界で覚醒した技能スキルは有限のものらしい。

 実際に偶然に発動させた脚力の増強の技能スキルは、今や見る影もない。

 「『足で稼ぐ』という技能スキルは、営業マンの基本中の基本技能スキルだから、永続的に効果がありそうなものだけどな」

 やはりこの異世界の規則ルールを自分はまだまだ理解できていないと阿蘭は思った。

 「ねえ、どうするつもりって尋ねているんですけど?」

 ああ、これは仕入れ先に発注した商品が50個としたつもりが、50K(5万)個だったときに、上司に激づめされたときの、あの精神的苦痛トラウマの再来だと阿蘭は思った。

 身分不相応な行動を起こした結果だ。

 困っている人をこの世界でなら、自分の力で助けることができると思った。

 しかし、元の世界でたいした成績も出せない営業マンは、別の世界に転生したとて、自分以外のものにはなれないのだと思った。

 「いつも、いつも人をバカにしやがって」

 考えが飛躍し過ぎる、と上司から度々指摘されてきたが、今も阿蘭は極端な考え方しかできなかった。

 「考えならあるさ」

 阿蘭は体裁を整えた。

 「振り落とされないようにしっかりつかまって」

 阿蘭の指示に反応して、莎等は身体を自転車に固定した。

 阿蘭はブレーキレバーを両手で強く握り、自転車を急停止させた。

 「何のつもり?」

 莎等はすばやく自転車から下りると警戒するように言った。

 阿蘭も自転車から降りた。

 莎等が追っていた自動車の跡を追い、町から郊外の方まで相応の距離を走った。

 往来を走る自動車もだいぶ見かけなくなった。

 辺りはかなり暗くなっている。

 遠くの方から自動車がこちらに走ってくる音が聞こえた。

 阿蘭はその音に耳を澄ませながら、やがてゆっくりと莎等の方に振り返り、そして、笑った。

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