ユニークモンスター
「グハハ。今ノハナカナカ効イタゼ。少シハ骨ガアルヤツガイルヨウダナ」
おれが蹴り飛ばした赤ゴブリンは笑いながら起き上がった。
「ゴブリンが喋った?!何なのよあいつ…」
茜はドン引きしながら赤ゴブリンを見た。
「まさかユニークとかいうやつか?Fランクダンジョンだぞここ」
「ユニーク…。特殊な個体ってこと?」
茜は震える手で杖を構えながら聞いてきた。
「ああ。通常のモンスターより知能が高く、強さも段違いらしい。おれも初めて見るな」
「なるほど。だからこんなに重傷なんですね…」
望は懸命に回復魔法をかけながら言った。ヤバい敵に出くわしたってのに動きが早いな。
「ハッ。人間ガ決メタ分類ナンカ知ルカ。オレハ生マレ持ッタ破壊衝動ノママ戦イヲ楽シムダケダ」
赤ゴブリンはそう言ってニヤリと笑った。
「…闇みくる。イレギュラーコードUでギルドに通報頼む。リスナーのみんなも通報しといてくれ」
おれは画面越しの闇みくるとリスナーに頼んだ。
『通報するのはいいが…。君たちはどうするつもりだ?私としては怪我人を置いてパーティーのみんなと逃げるのが合理的だと思うが』
闇みくるが言っていることは間違ってはいない。ユニークモンスターはおれたちにとって未知の恐怖。安全を考えると逃げた方がいいのは確かだ。
「…ダメです。傷付いている人を見捨てて逃げるなんてこと私には出来ません」
望はそう言った後顔を伏せた。
「なのに私にはオールヒールもエリアヒールも使えません。この人たちが死なないように命を繋ぎ止めることしか出来ません。唯一の取り柄の回復すらまともに出来ない…。無力なんです」
そう言って震える望の目から雫がポタポタ落ちた。
「…ハア。どうやらおれが相手になるしかないようだな。まあ配信してる時点で傷付いてるパーティーを見捨てて逃げる選択肢なんてないわけだが」
『全て映像に残っちゃってるもんねー。ギルドのルール的なことは知らないけど、リスナーを裏切ると信用を失うことはよくわかるよ』
みくるはわけ知り顔でうなずいた。すごい性能だな。
「そういうことだ。みくるに闇みくる。パーティーの防御と援護を頼む。茜は狙えるタイミングがあれば撹乱してくれ。隙を作れば有利になるかもしれないしな」
『『了解』』
「出来るかはわからないけど…。やれたらやってみるわ」
みくると茜は力強くうなずいた。
「翼は他のモンスターの襲撃に備えてくれ。特にリーダーのコボルトが赤ゴブリンにやられた時は警戒してくれ。群れスカウトが解除されるとおれに従う理由はなくなるしな」
おれは翼に指示を出した。
「そんな!ぼ、ボクだって戦えます!」
翼は足を震わせながらおれをにらみつけた。
「悪いがはっきり言って足手まといだ。それにコードUが出たから討伐するために高ランク探索者が向かってきてる。わざわざ身の丈に合わない敵と戦って命を捨てる必要はない」
おれは翼を諭した。
「で、でも」
まだ食い下がる翼の肩を茜が軽く叩いた。
「翼。赤ゴブリンは無理でも今の翼ならあの頃と違うわ。もう速いだけのド素人じゃない。でしょ?」
茜の言葉に翼はハッとしたような顔をした。
「だからお願い。私たちを守って。今の翼なら出来るはずよ」
茜はそう言って翼の手を取った。
「…わかった。みんなはボクが守るよ!」
翼はそう力強く宣言した。
「茶番ハ終ワッタカ?誰デモイイカラサッサトヤロウゼ。スグミンナミナゴロシニシテヤルヨ」
赤ゴブリンはそう言ってこん棒をなめた。
「はっ。お前なんか増援が来る前に片付けてやるよ」
おれはそう言いながら手に装備した爪を構えた。
「グハハハ。ミンチニシテヤルヨ。薄汚イケダモノガ」
「こっちこそソースにやるよ。トマトゴブリン」
そう宣戦布告してから、おれはゴブリンに突っ込んだ。
なかなかセリフ回しがうまくいきませんね。
次から戦闘に入ります。




