相互テスト
「落石で生き埋めになったようね。とりあえず爆破すれば助けられるかしら?」
茜は慌てて杖を向けた。
「それだと巻き込む可能性があるよ。引っ張りだした方がいいんじゃないかな?」
翼がそう言って腕を掴んで引っ張ると、腕がすっぽり抜けた。
「…え?」
翼はわけが分からないという顔でとれた腕を見た。
「う、腕が取れた?!ヒールでくっついたりしないでしょうか?!」
望は慌てながら手をかざした。
「…ヒールじゃどうにもならないよ。これ機械みたいだし」
翼が言う通りその腕は金属製でコードが繋がっている。ブースターがついてるってことはロケットパンチとか出来そうだな。
「何これ?まさかダンジョンに封印された古代兵器とかじゃないわよね?」
茜は怪訝な顔で腕を見た。
「ないな。百歩譲ってFランクダンジョンなんかにそんな大それた物があるとして、こんな所で生き埋めになるわけないだろ。多分誰かが持ち込んだんだと思うぜ」
「後あるとしたら見つけた誰かが乗ってるとかですけど…。装着するにしても小さすぎですよね」
翼は腕を見ながら言った。
『…話はいいからそろそろ掘り出してくれない?さすがにこの体勢だと辛いんだけど』
おれたちが腕のことで盛り上がっていると岩の中から声が聞こえてきた。
「あ、悪い。サモン、ドリルモール」
おれは鼻にドリルがついたモグラを召喚した。
「デイグ。岩をどかせ」
デイグが岩をどかすと、二の腕の部分が見えてきた。
「取れたりしないよな。…ふん!」
おれは力を込めて引き抜いた。すると岩の中から女の形をしたロボットが現れた。
『ふう、助かったー。このまま動けなかったらどうしようかと思ったよ。ありがとね、ビーストキング』
掘り出されたロボが顔の横に触れると、マスクが外れて素顔があらわになった。
「その顔と髪型ってVツベラーの裏野みくるよね?装甲も衣装と似てるし」
茜はロボをじっと見ながら言った。
「ああ。あのよくゲーム配信してる…。でもさすがに本人じゃなくてそういうモデルもあるってだけじゃないかな?」
翼の言葉にロボはビクッと反応する。
『どうする、もう1人のみくる?話しちゃっていいものなの?』
ロボはインカムに向かって聞いた。
『問題ない。そもそもそのつもりでこれまで放置していたからな』
そんな声がロボの近くから聞こえてきた。声がする方を見るとドローンが浮かんでいた。
「あんたがこいつの操縦者か」
おれはわかりきったことを聞いてみた。
『いかにも。そして裏野みくるの魂にして、このリモート探索者兼リアルVツベラーとAIの開発者でもある』
操縦者は淡々と自分の肩書きを口にした。
「AIってことはこいつは自分で考えて喋ってるってことか?」
『そう。私の配信を元にして開発された自律学習型のAIだ。裏野みくるならこういう時どういう表情をして、どうリアクションするかをプログラムしてある』
操縦者は誇らしげに言った。
「配信を元にしてる割にはキャラ違わないか?」
「裏野みくるはゲーム中は第二人格に切り替わる設定で、ちょうどこんな話し方してるのよ。やっぱり素を出してたのね」
なるほど。第二人格が素だから第一人格だけAIに組み込んだってわけか。
「リモート探索者ってことは遠隔操作よね。わざわざAIとか必要ない気がするんだけど?」
茜は身も蓋もないことを聞いた。
『このリモート探索者は主に体が不自由な人がロボを操作してダンジョンを探索出来るようにする物だ。だからある程度サポートするためにAIが必要なのさ』
操縦者は茜に説明した。
「じゃあキャラや見た目がVツベラーをベースになってる理由は何?」
『Vツベラーとして探索出来るようにするためだよ。バーチャルの存在であるVツベラーにリアルな体を与えることで探索配信という新たなステージに押し上げるのが目的さ。AIのキャラがVツベラー準拠なのは実況の補助や、自分との掛け合いという要素をプラス出来るのが利点かな。一般人が好きなVツベラーと一緒に探索してる気分が味わえるというのもメリットの1つかもね』
操縦者は茜の質問に答えた。
「かなり画期的なシステムだね。実現したら面白いことになりそうだね」
翼は感心した顔をしながら言った。
『だろう。とはいえまだテストの段階だから単独では探索に不安があってね。そこで君たち『美姫と獣王』に提案があるんだが、このリアルVツベラー裏野みくると臨時パーティーを組んでみないか?もちろんいいデータが集まりそうだったら正式にパーティーを組んでもいい。タンク役を求めているなら悪い話じゃないだろう?』
操縦者は試すような口調で言った。
「明らかに配信見てるわね…。掘り出すことも計算通りな気がして腹が立つけど、タンク役のテストが出来るっていうのは悪い話じゃないわね。みんなはどう思う?」
茜はおれたちに聞いた。
「ボクに異論はないよ。ロボットと一緒に探索するのも面白そうだしね」
「私も賛成です。見た所頑丈そうですし」
翼と望も賛成した。
「いいぞ。テストするだけならタダだしな。で、お前はどうなんだ?」
おれはロボに聞いてみた。
『もちろんオッケーだよ。ここで会ったのも何かの縁だしね。みんなよろしくね!』
ロボはそう言って手を差し出してきた。
「ええ。よろしく」
茜がロボと握手した。こうして奇妙な臨時メンバーを加えた探索が始まった。
少し設定盛りすぎました。次は本格的な探索が始まります。




