聖女として召喚されたけど……
「おぉ、成功、成功だ!!」
突然足元から強い光が立ち昇ったかと思ったら、周囲で複数人の男の騒ぐ声が耳に入ってくる。光が収まり、目が慣れて来れば、そこは全く見覚えのない空間だった。
これは、アレだろうか。かの有名な異世界召喚というやつだろうか。と言うことは、ボクは勇者とか神の使徒とか呼ばれて戦いに……
「ようこそおいでくださいました、聖女様」
…………ん?
聖女様?
「おぉ、なんと見目麗しい……」
「艶やかな濡羽色の御髪、紅玉のように輝く瞳……」
「このお方はまさに、神の使わして下さった聖女様に違いない!」
こんな声が方々から聞こえてくる。ち、ちょっと待って欲しい。とりあえず誰か説明を……
その時、正面にあった大きな扉が開き、1人の男が入ってくる。少し枝毛だった長い緋色の髪を靡かせながら、切長の赤みがかった茶の瞳がボクを見つめてくる。
「おぉ、リゼル王! 聖女召喚の儀、成功いたしましたぞ!」
ずっとボクの周囲で騒いでいた男どもの中でも、最年長に見える老人が、その入ってきた男、リゼルに報告? をする。
「ご苦労、ジム老」
……リゼル、ジム。
危うく吹きかけたがなんとか耐えた。だがそのせいだろう、どうやらボクの表情は険しいものになっていたようだ。
「そう不安がらずとも良い。我らは貴殿に危害を加えるつもりはない、安心したまえ」
「りょっ」
「りょ?」
量産機のくせに偉そうな……と言いそうになってなんとか思いとどまったボクを誰か褒めてほしい。
「……あぁ、自己紹介がまだであったな。我はリゼル=ナハム=エレクトロという。ここエレクトロ王国の第12代の王である」
「ん゛ん゛っ」
「……?」
名前がまんますぎる。これは夢か。そうか夢か。そうでもなければこんな偶然あってたまるか。
「それと、これは我の息子のネモだ」
そう言われて、リゼルの背後にいる少年に気が付く。
……髪色とか目元とかは割とリゼルに似ているのだが、どうしてだろうか、彼はボクをみて頬を赤らめている。
…………え、何その『とても可愛らしい少女を見てしまって一瞬で一目惚れしてしまった小学生男子』みたいな表情は。やめて? ボクにその気はないから。
「はっ! 初めまして、ネモ=ディアス=エレクトロでしゅっ!」
噛んだ。しかも名前よ。やっぱ混ざりまくってるやん。
「して、貴殿の名はなんという?」
息子の挨拶もそこそこにして、リゼルが名前を問うてくる。仕方ない、名乗るか……
「……小鳥遊 楓。一応、楓が名前、です…………それと」
……おそらく、ここにいる全員がしているだろう誤解は、今この時点で解いておく。
「……ボクは、男です」
「「「「「「…………は?」」」」」」
そう、ボクは女装男子だ。
◆◇◆◇◆◇
「……んで、続きは?」
「ないけど?」
「は?」
都会とも田舎とも絶妙に言い切れないような地域の、小さなコーヒーチェーン店に屯する、2人の女子。
……しかし、彼女らの声はまるで男のように低い。
「なんで続きないんだよ、絶妙に気になるじゃねぇか」
「仕方ないでしょ、ここで目が覚めたんだから」
「んだよ、結局夢オチか」
「まーアレだね、明晰夢ってやつだね」
ズズズ……っと、ストローで飲み物をすする音が少し響く。絶妙に人通りのない通りに面するこの店は、今日も閑古鳥が鳴く。
「つまんねぇの……んで、この後どうするよ、カエデ」
「そ〜だね〜……またどっかのゲーセン行って、DQNでも釣る?」
「お、いいねぇ〜それ。その案いただき」
女装男子たちはまた、哀れな男どもを絶望の淵に陥れる。