09.覇王聖女
何故か突然、囲まれた。
男の人たちがわたしを激しい剣幕で睨む。
「うそ……」
これって……まさか、かなりピンチなのでは?
さっき死亡した騎士たちと同じ身なり。つまり騎士の仲間? ギルドの人? 多分、そうかも。彼らはわたしに寄ってきて――
「ギルド受付嬢のグレイスさんじゃないか!」「おぉ。こんな荒野にいるとか、すげぇなァ」「ソロで冒険してんの?」「武器もなしにかっけぇ~」「前衛職なのか」「レベルいくつなの~?」
「へ?」
ガヤガヤと質問された。
な、なんだ~……。
てっきり襲われるのかと思った。
「あ、あのわたしはソロでして……」
「お~、そうなんだ。ウチね、この近辺では有名な『マニアック騎士団』ってギルドだから加入しないかい~? ソロは限界があるしさ~」
またナンパかぁ。
悪い気はしないけれど、わたしはやっぱりソロがいいかな。今のところは限界を感じないし、冒険も楽しい。まあでも確かに、癒術師くらいは居て欲しいかなって思う。回復ポーションを買うお金が追い付かなくなってきているし。
それに……さっきの事もあるし。
そんな気分にもなれなかった。
「お誘いは嬉しいですが……。今のところギルドの所属を考えていないので……ごめんなさい」
「そんなこと言わずさ! ほら、試しとかでもいいしさ。試用期間ってことで……どうかな」
やや苦笑いの騎士は食い下がる。
う~ん、困ったなぁ。
……うん、ここは素直に謝ろう。
「本当にごめんなさい。わたし、帰らなきゃ……」
その時だった。
騎士たち全員の表情が一気に変わり……
「……そうか。じゃあ、お前を襲うしかねぇよな」「ギルドの受付嬢なら『キラー』くらい知っているだろう」「フフフ……人間狩りのことだ」「剥いてやっちまおうぜぇ」
――うそ。
そんな……誰か助け――いるわけない。
こんな果ての、しかも過疎地である荒野フィールドに他の冒険者なんて……わたし、絶体絶命のピンチ。戦うにしても人数が多すぎる。
……逃げよう。
踵を返すが、
「お~っと! 逃がさねえよ!」
ガタイの良い緑髪の騎士に道を塞がれた。前も後ろも騎士が……八方塞がり! 逃げられない。
やだ……わたし、こんなところで…。
男たちは不気味に笑い、そして……一斉に襲い掛かってきた。
「や、やめ……」
その時だった。
『ドゴォォォォォォオオ…………!!』
「「「「「うぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」」」」」
などと凄まじい音がして、複数の騎士を吹き飛ばしてしまった。……え、なに!? 突風? いや、違う。嵐とかでもないし、魔法?
「……これは」
魔法なんかではなかった。
空を華麗に舞い、くるくると回転し着地する銀髪の少女。
なんて洗練された素敵な動き。
まるで蝶々。
「って……あなた、ネメシスさん!?」
「~~~ふぅ。こんにちは、グレイス」
今の攻撃は……ネメシスだったようだ。
嘘でしょ、あんな動きできるの……いくらなんでも人間離れしすぎでしょ。
「えっと……どうして」
「かなりのピンチと見受け、助けに参上しました」
「え、ええ……助かりました。その、ネメシスさんはいったい……」
「申し遅れました。わたくしは『覇王聖女』です。友であるエイルから話を聞き、貴女の動向をずっと遠くから見守っていましたよ。いかがでしたか、グローブの使い心地」
ウィンクするネメシス。
その手には、わたしと同じグローブが…………あ。そっか、この手袋はネメシスが投げ落としてくれたんだ。
「ありがとう。ネメシスさんだったのですね」
「ええ、まずは冒険の楽しさを純粋に知ってもらう為でした。それから、大量のゾンビの擦り付けもわざとです。あなたの心の強さをテストしたのです」
そうか、それであんな。
あ……また男たちが立ち上がる!
会話している間にも、騎士たちは頭を抱えながら向かってきた。
まずい、ネメシスさん気づいていない!