81.死廻文書 - メメントモリ -
フォーサイト様と別れ、わたしはお仕事へ。
玄関前まで行くと、声を掛けられた。
「おや、グレイス。その受付嬢の制服姿……これから出勤ですか」
「ネメシスさん。ええ、わたしはこれからジェネシスへ向かいます。今日も頑張らなきゃ……」
「浮かない顔をしていますね」
やっぱり、顔に出てしまっていた。
となると話しておいた方が良さそうね。
「実は……三人の転生勇者の事で」
「以前に仰られていた情報ですね。ええ、わたくしもあの後、気になって色々調べたのですが……ひとつ分かった事がありました。
それは、その三人の勇者達が『覇王』の資格を持つらしいという事です」
「は、覇王の!?」
「ええ……実はエイルに頼み込んで、元上層部の禁書庫を探って貰ったんです。すると、出てきたんですよ……三人の転生勇者に関する『死廻文書』が――」
上層部の禁書庫!?
そんなのがあったのね。
「死廻文書……?」
「あの元上層部は三人の転生勇者を恐れていたようです。何故かは分かりませんけれどね」
ファイクと一緒の理由のはず。
元上層部も『ザンキ』だったから。
「その話が本当なら大変です」
「そうですね。世界は滅ぼされるかもしれません。でも、こっちには、わたくしとグレイスがいますから。もちろん、アルムもね」
ネメシスが寄って来て、わたしの手を取る。あたたかい……。それと、あのオッドアイの瞳で見つめられると、不思議な気持ちになる。
「元気をありがとう。そろそろ遅刻しちゃうので、行ってきますね」
「わたくしも後で追います。頑張って」
会釈して、わたしは外へ――。
◆
「グレイスちゃん、おはよー」
「おはようございます。リーベ先輩」
「お疲れ様です、グレイスさん」
「ええ、リヒトさん」
と、ジェネシスに到着したわたしは慌しくに挨拶を交わしていく。執務室に向かい、上司であるフレイヤさんにも挨拶を。
「――失礼します」
「おぉ、グレイス。休みはどうだった」
「お陰様でリフレッシュできました。特別有給ありがとうございました」
わたしは頭を下げてお礼を述べた。
「そんな畏まらないでいい。顔をお上げ、グレイス。それより、こっちへ」
「……?」
「おいで、グレイス」
椅子に座るグレイスさんは手を広げる。
そ、そういう事。
「お願いします……」
「ああ」
フレイヤさんに抱かれて、頭を撫でられる。
「久しぶりだからね。普段はアルムにもこうしてやるんだが、グレイスも同じように可愛いのさ。それと、優秀な受付嬢は特に可愛がってあげなくちゃね」
なんだかイケナイ世界に入りそうだけど、これはあくまでフレイヤさんの愛情表現。スキンシップだった。悪い気もしないし、こう認めてくれるのは、すっごく嬉しかった。
「あの、フレイヤさん……もしかしたら、エイルさんから聞いているかもですが……三人の転生勇者の件です」
「それか。ああ、聞いたよ。姉妹で隠し事は無しにているんでね、すまないね」
「いえ、どのみちこれは重要な案件ですから。その三人の転生勇者がいよいよ出現するようです。多分、明日にでも……。フレイヤさん、帝国は……世界はどうなってしまうんでしょう?」
「なにも変わらないさ。我等には『聖域』がある。どんな者であろうとも、帝国の聖域だけは破壊できない。それは皇帝陛下のお墨付きでね」
アルシュくんの。
そういえば、最近、仕事とか冒険でまともに逢えていない。……向こうからも会いに来る頻度は減って来ていた。
……いえ、今はそれはいい。
「聖域が守ってくれるんですよね?」
「確実だ。今まではザンキを守る為のものだったが、本来は違う。どんな外敵からも身を守れる力があるんだ。だからきっと安全だ。力が発動すれば、大魔法であろうともビクともしない」
そうなんだ。
帝国を信じるしかなさそうね。
「分かりました。様子を見ます」
「今はそれしかない。とにかく、そろそろ受付嬢の仕事へ戻るんだ。お前をもっと甘やかしたいが……私も仕事が山積していてね。また今度な」
「嬉しいです。ありがとうございました、フレイヤさん」
フレイヤさんから離れ、わたしは執務室を出た。
「――――はぁ……」
深呼吸して緊張を解していれば、
「グレイスさん」
「……ひっ!!」
「あ、あの?」
び、びっくりした……。
「あ、リヒトさん。わたしに何か用?」
「ええ、大至急です。……グレイスさんの受付に並んでいる方が沢山いるんです。対応をお願いできませんか?」
よ~く見ると冒険者がたくさん並んでいた。多分、百人くらい……。うん、頑張ろう。今はギルドの受付仕事を頑張らなきゃ!
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