80.三人の転生勇者
「……ふぅ、お風呂最高~」
オークダンジョン・ジェットブラックを後にし、帝国サンクチュアリのオラクル家へ帰還。アイテムの精算は後日となり解散となった。
わたしはそのまま自室へ。
お風呂に入った。
「今日はリヒトさんの問題を解決したり、アルムの武器のレベルが上がったり……オークダンジョンのジェットブラックで黒髪の少年に出逢ったり……色々あったなあ」
中でも気になったのがブラックオークロードを自称する、あの黒髪の少年。事情があるとはいえ、ひとりあんな場所で暮らしているだなんて……。
それに彼はこう言っていた。
『三人の転生勇者』が動き出すって――。
三人の転生勇者?
ファイクに訊こうとしても反応がない。
感じるのは微かな恐れ……そういうこと。
つまり『三人の転生勇者』に恐れをなしてビクビクしているのね。だから、わたしの影に隠れて……。
「……情けない」
そうつぶやくと、ファイクから反応があった。
(……最近、容赦がないなお前は)
(ファイク。あなた、三人の転生勇者に恐れをなしているのね)
(当たり前だ。その為にお前と契約したのだ……。まずヤツ等が狙うのは、この私に違いないのだ)
(なぜ分かるの)
(神託にあるのさ。ほら、このオラクル家の坊ちゃん……えーっと、ほら、あのインペリアルガーディアンの)
(フォーサイト様?)
(そう! ソイツだ。私は偶然にもヤツの神託を耳にしたのさ。あの坊ちゃんによれば、聖域が消滅すると『転生』が消えてなくなるらしいってな。それはつまり、混沌にも直結する問題だ)
……どういう事?
転生が消えてなくなる……?
というか、ファイクはどうしてそんな神託を耳にしているの。おかしい。……あ、もしかして!
(ファイク、あなた……無断でフォーサイト様の影に入ったわね)
(……いいじゃねぇか。情報収集は基本だぜ?)
(もう二度とやらないで頂戴。次、誰かの影に入ったら、あなたを消滅させるわ)
(それは止めとけって。唯一の混沌である私が消え去ったその瞬間……『転生』に重大な影響を与えるぞ。簡単に言えば、蘇生アイテムが使えなくなるし、これから出現するであろう新規冒険者も現れなくなるのだ。そうなれば、お前の受付嬢の仕事にも支障がでるかもな)
なによそれ……。
人間の心を奪う存在の混沌が、その実、転生に貢献していたって? 信じられない……。あんな酷い事をしておいて。
(とにかく、あと一週間以内に三人の転生勇者は召喚されるのよね)
(そうらしいな。正確な日時・場所までは分らんがな。グレイス、これからどうするつもりだ? 悠長にギルドの受付嬢の仕事をしていていいのか)
(わたしはジェネシスに所属するギルドの受付嬢よ。辞めるという選択肢はないわ。それに、まだ三人の転生勇者の情報も少ない……。今のところは脅威とも感じないし、そう感じているのはあなただけよ。様子見ね)
そう言い放つと、ファイクが揺れた。
(……そ、そうか。いざという時は頼んだぞ、覇王聖女様)
ふぅん、やっぱり怖いんだ。
◆◇ ◆◇ ◆◇
お風呂を出ると、扉をノックされた。
「グレイス、俺だ。フォーサイトだ」
「フォーサイト様……! すぐ出ます」
珍しい。フォーサイト様がわたしの部屋を訪ねて来られるなんて……これは一大事かも。そのまま扉へ向かい、開けたのだけど――。
「グ、グレイス……」
なぜかフォーサイト様はわたしの身体をジロジロ見て…………あ。
「きゃぁッ!?」
直ぐに扉を閉めて部屋に戻った。
忘れてたー…!
お風呂から上がったばかりで下着姿だった。いつもそのまま寝ちゃうから……変なクセがついてしまっていた。うっかりしていたなあ……恥ずかしい。
寝間着に着替え、再び扉へ。
「……グレイス、ごめんね」
「いえ、フォーサイト様は悪くないんです。わたしが疲れていたから……そう、疲れていたんです。どうぞ、中へ」
「あ、ああ……」
中へお通しすると、フォーサイト様は明らかに落ち着かない様子だった。それにしても、普段着姿のフォーサイト様もカッコいい。
「どうぞ、ソファへ」
わたしの部屋にはソファがあった。六人は余裕の大きなもの。そこへ座って戴いた。わたしも少し距離を取って腰を下ろす。
「ありがとう。それで話なんだが……」
「ええ」
「覇王聖女である君には伝えておきたくてね。ネメシス様にはもう既に伝えたけど……」
「何をです?」
「神託だよ。実は一週間前に俺に神託が下った。それを聖女様に伝えるのが俺の役目でね。だから、グレイスにも聞いて欲しいんだ」
ま、まさか……。
「それって……」
「明日、三人の転生勇者という三人組が強制召喚される。彼らは帝国サンクチュアリの近辺に出現すると予測されているが、直ぐに行動を起こし、四つの国『ゴスペル』、『レリジェン』、『クローチェ』、『ソサエティ』を襲うだろう。そこにある聖域を破壊する為だ。それから、この帝国へ向かって来る。この国には【窮極絶対の鉄壁】があるからな」
「は、破壊!?」
「ああ、彼らは全ての聖域を破壊して、世界を救うつもりでいるらしい。何故かは分からないが、そういう絶対的で崇高な目的で動くそうだ。
聖域がなくなればバランスが大きく崩れ、転生システムが大きく破損する。でも、聖域を破壊しただけでは転生を断ち切れないんだ。それが何故かは俺にも分からなくてね……頭を抱えている所さ」
も、もしかして……それが『混沌』だとでも言うの?
ファイクも似たような事を言っていた。
それが真実なら、わたしが……狙われる!?
「フォーサイト様、あのう……」
わたしは彼に全てを話した。
すると、フォーサイト様は驚かれ、恐怖さえしていた。
「……なんて事だ、グレイス。君は……」
◆◇◆◇◆
――翌朝、三人の転生勇者が召喚され、彼らはたった三日で『ゴスペル』、『レリジェン』、『クローチェ』、『ソサエティ』の聖域を破壊した。