78.ブラックオーク無限リポップ
黒い森の更に奥地。
そこからヒシヒシと感じる殺気は、こちらの首筋に見えない刃を向けているようだった。これほど邪悪な気配は初めてかもしれない。
「とにかく、まずはあの厄介なブラックオークを排除します。アルム、わたしが前へ出ます」
わたしはアルムと交代し、前衛ポジションへ。直ぐに『紅蓮のバンテージ』を装備した拳を構え、突撃。覇王爆炎拳を繰り出して、炎の拳を敵の胸部へ打ち込んでいく。そのひとつひとつが破壊的なダメージを持ち、ブラックオークを一撃で粉砕してしまった。
「――あれぇ……思ったよりたいした事がないですね」
いや、そうではなかった。
アルムの付与だ。
彼女の火力増幅エンチャントのおかげで、火力が増し、一撃で倒せるダメージに到達しているらしい。更に、ネメシスのグロリアスブレッシングとアジリティの支援スキルによる全ステータス補正。これも与えるダメージに大きく寄与している。
二人の支援補助がなければ、わたしはモンスターを圧倒手出来なかった。本当に二人には感謝しかない。
この火力ならブラックオークは脅威ではないかも。あの黒い斧にさえ気を付けていれば、問題はなさそうね。
「グレイス、大変です!」
オークを倒していると、背後からネメシスの叫び声。これは尋常ではない。
「どうしたのですか!?」
「後ろからもブラックオークです。こちらは、わたくしが処理しますから、グレイスは前をお願いします」
「分かりました!」
なんと後方からも約三十体ほどのブラックオークが沸いて出てきたらしい。こんなに多く出現するだなんて聞いていない……。経験値やドロップアイテムこそ美味しいけれど、こんなに大変だったなんて。
「――――ていやぁッ!!」
必死に火属性の覇王爆炎拳を殴り込んでいく。数が多いため、ブラックアックスが掠めてくる時もあって、わたしはヒヤッとする。……あっぶなぁ、もう少し回避が遅かったのなら、左腕を持ってかれていた。
「……ネメシスさん、ここのオーク……次から次へと沸いて出てくるんですが……!」
「グレイス、その情報は受付嬢の仕事ではなかったのですか?」
「ないですね。やっぱり現場へ出向かないと分からない事もあるんですね。学びました。といっても、今はこれを何とかしないと」
ブラックオークは群れを成してまた現れた。しつこい……しかも中々減らないし、こちらの体力の方がもたない。アルムも鍬で応戦してくれているけど、それでもまだ――。
「……あ」
しまった。
回復ポーションを切らしてしまった。
「こちらも回復アイテムがなくなりました……」
焦るアルムは、わたしと背中を合わせる。
「……まずいですね、ネメシスさんがグロリアスヒールを扱えますが……魔力が持ちません。自然回復だって、追い付かないはず……」
状況は悪くなる一方だ。
となると、ここを脱出するしかない。
わたしは適格な判断を下し、みんなに指示を出した。
「みんな、ここを抜けます。ネメシスさん、援護を」
「素晴らしい選択です、グレイス。分かりました、一撃を放つので、その間に」
ダッと走り出すネメシスは、奥義を繰り出す。
『――――――覇王天翔拳ッ!!!』
わたしよりも遥にレベルの高いスキルが炸裂し、ブラックオークを散らす。この隙を狙って、わたし達は森の奥へ――。
……この先に人間が?




