77.オークダンジョン『ジェットブラック』
ブラックオークの生息地・ジェットブラックへ向かった。テレポダイトで飛べば、一瞬でダンジョン前。
「黒い森……ちょっと不気味ですね……」
薄暗く、空もあまり見えない森の中。緑というより黒い木々が広がっていて、なんだか落ち着かない。しかも、背筋が凍るような感覚さえもある。
「グレイス、落ち着かないのですね。手を握って差し上げましょうか?」
ネメシスから提案され、わたしは頷いた。
「……ネメシスさん、あたたかいです……」
「でしょう。あら……」
アルムが羨ましそうに指を咥えていた。まさかそんな風に観察されるだなんて……う~ん、これは、放っておけない。
「アルムは、わたしの手を握っていいですよ」
「あ、ありがとう……ございます」
照れくさそうにわたしの手を握るアルムの手は小さくて、子供のようだった。なんだか、母性を擽られちゃうなあ。
「って、これだとちょっと歩き辛いですね。戦闘にも不向きですし」
「そうですね、グレイス。じゃあ、ちょっと落ち着いたら行きましょうか」
アルムも「賛成です」と頷き、ダンジョン前で暫く手を握り合った。
◆◇ ◆◇ ◆◇
落ち着いたところで、ダンジョン内へ。
前衛は、アルムが鍬の切れ味を試したいと要望があった為、先頭を任せている。わたしは補助でネメシスは支援補助というポジションとなった。
「危なくなったら直ぐ交代してね、アルム」
「了解です、グレイスさん」
少し心配になるけれど、すぐに杞憂に終わった。
「アルム、前!」
「ええ、ブラックオークを複数体、確認。排除します……!」
鍬を構えるアルムは、付与師としてのエンチャントスキルも欠かさず付与し、状態異常を与えられるようにした。多分、麻痺とか毒が加わっている。
「――――ていやぁッ!!」
力いっぱい振りかぶる。
アルムの渾身の一撃がオークに命中し、クリティカルダメージを与えていた。そこからの流れるような連撃。ヒットする度にクリティカルダメージばかりが蓄積され、ブラックオークを倒した。
「おぉ、あの全身真っ黒のオークを倒すとは……やりますね、アルム」
ネメシスは、ブラックオークの強さを理解しているようで、感心していた。へぇ、師匠は驚くくらいだ、相当な強さなんだ。
これなら今回は、前衛をアルムに任せきりでもいいかもしれない。けれど、油断はできない。ボスモンスターも生息するようだし、念には念を。
(グレイス、ちょっといいか)
こんな時にカオスからの囁き。
(……)
(少しだけ話がある)
(……なによ)
(そう不貞腐れるなって。我々は共犯者の筈だぜ?)
(いつ、わたしと貴方が共犯者になったのよ。ふざけないで……あくまで共存よ。貴方とはそういう関係なの)
(……果たしてそうかな)
でも、このタイミングで現れたのは、ちょっと気になる。だから、わたしはファイクに訊ねた。
(話してみなさい)
(うむ。このジェットブラックだがな……キラー集団がいると聞いた事がある。これは、私が人間として活動していた時に耳にした噂だ)
(そういえば、マニアック騎士団だったわね、貴方)
(そうだ。その時代だ。だから、このジェットブラックの奥地には気を付けろ……あのブラックオークを飼ってるヤツがいるはずだ)
本当かなぁ……あんまり信じられないのだけど、けれど、注意しておくに越したことはなさそうだ。
(分かった。頭の片隅にでも置いておく)
(ふん、素直じゃないねえ。まあいい、ピンチになったら言ってくれ。共闘関係だからな、私もお前を失いたくはない……助け合おうじゃないか)
……ふぅん。
「「グレイス?」」
「あ、いえ……行きましょう」
ネメシスとアルムから顔を覗かれていた。わたしは慌てて誤魔化す。ファイクと話していただなんて言えないし。
「奥には気を付けて下さい。受付嬢の仕事中に知ったんですけど、人間を襲うキラー集団がいると噂があるようです」
という事にしておいた。
「本当ですか!? それは初耳ですね……」
神妙な顔で森の奥を睨むネメシス。
かなり警戒している。
「キラーって、人間を襲う殺人集団の事ですよね。……うぅ」
さすがのアルムも顔が引き攣る。
そうね、なるべく人間とは戦いたくないし。
「慎重に行きましょう。アルム、後退しますね、取りこぼしの処理をお願いします」
「了解です。あと回復ポーション渡しておきますね」
ポーションを受け取り、わたしは前へ。
さて、ブラックオークが三十体って所かな。これを倒して……ん、あの奥、人間の気配がする……いる。殺気を放った男たちが――。