76.エンシェント鍬・過剰精錬
「特別有給ですか、それは休めるのですね?」
「そうなの、ネメシスさん。なんと三日間も休めちゃうのです! 行くしかないですよね、冒険へ」
いつもの事ながら、受付嬢の制服のままジェネシスを出る。それから、わたしはネメシスさんを誘ってみた。もちろん、返事は――
「いいですよ。グレイスとなら何処へ行っても楽しいですし」
そんな笑顔で言われて、きゅんと来た。
内心で嘗てない程喜んでいると……
(グレイス、なんて嬉しそうにしやがるんだ……反吐がでそうな幸福感だな。あの銀髪の覇王聖女がそんなに信頼できるのか)
(貴方には分からないでしょうね、ファイク。いいから大人しくしていなさい。どうせ貴方には不幸の味しか分からないのでしょう)
(幸せなんて理解しかねるよ。だが、最近の私は変でね……少しばかり、その幸福とか知りたくなってきていやがる。あぁ~鬱陶しい。実に不快だ)
とか言いながら消えた。
なんなのよ、もう。
「グレイス?」
「いえ、わたしの中のファイクが水を差して来たので」
「ああ……そういえば、居たのですね。そんなヤツは消滅させればいいでしょうに」
「いえ、これはわたしの責任ですから」
「グレイスは変なところで頑固ですからね、分かりました」
渋々と納得してネメシスは、アルムを迎えに行こうと提案した。
「そういえば、アルムは何処に?」
「鍛冶屋・アガパンサスですよ。メインウェポンである『鍬』の精錬をしに行ったようです」
◆
鍛冶屋へ向かい、アルムと合流した。
丁度、エクサニウムで武器の精錬を始めた所で、アルムは落ち着かない様子だった。失敗すれば、アイテムが消えてしまう場合があるから心配なんだろうなぁ……。
「アルム、迎えに来ましたよ」
「グレイスさん、来て下さったのですね」
「武器精錬はどうですか」
「ネメシスさんもありがとう。……今始めるところです」
緊張感を露わにしている。
これは尋常ではない。
店の奥にいるオジサンは豪快に笑う。
「大丈夫さ、アルム様はオラクル家の貴族。エクサダイトを使用する」
あれなら、ほぼ失敗はない。
「良かったですね、アルム!」
「う、うん。可能性はありそうですね」
ほっとしているけど、まだ気は抜けない。
精錬を見守る。
――すると。
『ガンガンガンガンガン……!!』
重い金属音が鳴り響いて、鍬は――破壊されなかった!
「やったです!!」
大喜びのアルム。わたしとネメシスも一緒になって抱きついて喜んだ。
「おめでとうございます、アルム!」
「運がいいですね、アルム!」
「ほら、出来たよ。『+8エンシェント鍬』だ。火力がかなり上がっている。これなら本人のレベル次第では、上級のモンスターもサクサク狩れるだろうな」
す、すご……!
+8の過剰武器だなんて、中々手に入らない。成功率が極端に低いし、ていうか、アルムそこまで過剰をしたのね。ギャンブラーだなあ。
★★★ ★★★ ★★★
【+8エンシェント鍬】
【部位】武器
【Effect】
最強の基本農具。
ATK50
攻撃速度 + 10
クリティカル + 30
精錬値が[7]以上の場合、ATK + 30。
以降、精錬値が[1]上がる度にATK + 30。
精錬値が[7]以上の場合、MATK + 30。
以降、精錬値が[1]上がる度にMATK + 30。
低確率で敵を[スタン]にする。
★★★ ★★★ ★★★
「嬉しい……です。オジサン、ありがとうございます」
「い、良いって事よ。オラクル家にはお世話になっているしな」
オジサンは照れていた。
やっぱりこのお店は優良店ね。
挨拶を済ませ、お店を出た。
強化された鍬を嬉しそうに頬ずりするアルムは、上機嫌だった。うん、これで冒険も楽しくなる。
「行きましょう、ネメシスさん、アルム」
「ええ、ダンジョンへ」
「鍬の性能が楽しみです……!」
二人共、気合は十分ね。
「では、わたくしが『テレポダイト』を出しますね。御存知かと思いますが、これを使えば、ダンジョン前まで転移できます。今回のは、かなり難易度の高い『ブラックオーク』の巣窟……『ジェットブラック』へ向かいます」
初めて行くダンジョンね。
レベリング効率も良いし、ドロップアイテムもレアが多いらしい。何事も挑戦。行ってみよう。
「レッツゴー!」
わたしは右腕を上げる。
ネメシスもアルムも上げた。
――さあ、行きましょう。




