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75.特別有給

「――――というわけなの」



 わたしは、ジェネシスの外で待機していたネメシスに相談した。



「ストーカー被害、ですか」

「そうなんです。リヒトさん、このままじゃ可哀想で……何とかしてあげたいのです。ネメシスさん、手伝って戴けませんか?」


「それは構いませんよ。アルムがオラクル家の用事でいないので、退屈だったところです。といいますか、わたくしもナンパ多くて困っていたところでして」



 そう。ネメシスは聖女。美しい銀髪と青桃オッドアイが特徴的。こんな宝石みたいな存在が外を歩いていれば、誰だって声を掛けたくなる。



「では、お願いしますね」

「いいですよ。わたくしは外を見張っていれば良いのですね?」

「そうです。もしその男性が逃げた場合は、捕らえて下さい」


「了解です」



 ◆◇ ◆◇ ◆◇



 再びリヒトさんの交代がやって来て、転送の受付に列が出来た。彼女から教えてもらった男性も並んでいた。



「彼の名は確か――」



 ゲシクト。

 盗賊(シーフ)職で、あんまり良い噂はないらしい。



 そろそろリヒトさんと対面する頃合いだ。もし、手紙を渡したり何か不穏な動きを見せたら、すぐに捉える。



 ギルドの対応マニュアル第7条第1項『ギルドの受付嬢に対するセクハラ防止措置』に則り、彼を捕らえ――出禁にする。



「フレイヤさんにも承諾を得たし、後は油断した所を……次ね」



 いよいよゲシクトがリヒトさんの所へ。

 動向を注視していく。



 リヒトさんの顔が曇りながらも、プロとしての意識を保ち笑顔で対応する。さすがね……本当に凄い子。




 そして、その瞬間(とき)が訪れた。




 ゲシクトが手紙をなんと三枚も取り出し、リヒトさんに無理やり渡そうとしていた。……はい、アウト。



 ていうか……三枚も。


 気持ち悪っ……。



 さすがのわたしも引いた。



(ダハハハハハ……グレイス、その負の感情はおもしれぇ!!)


(黙りなさい、ファイク)


(……ハイ)



 カオスは無視して、わたしは現場を押さえた。



「そこ、ギルドの受付嬢に対するセクハラ行為で、貴方を出禁にします」


「……は、はぁ!? 俺が? なんで!?」



「なんでじゃありません! リヒトさん、大丈夫ですか」

「……はい、ありがとうございます。グレイスさん」



 もう精神的にボロボロなのだろう、リヒトさんに覇気はなかった。彼女の肩を支え、わたしはゲシクトの差し出した手紙を確認。



 内容は……




『好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き』×3枚……でした。





「…………これはヒドイ」




 これは、リヒトさんも病むわけね……。



「ク、クソ!! 捕まってなるものか!!」



 ゲシクトが外へ逃げ出す。

 早くも出入口へ到達するけど、そこにはネメシスが待機していた。良かった、協力を仰いでおいて。



「そこの盗賊。覚悟しなさい」

「げっ……聖女のネメシス! この前はよくもフってくれたな!」


「しつこい男は嫌いですし、『好き』しか書いてない手紙も気持ち悪いです。それに、ギルドの受付嬢を泣かせるような盗賊は、このジェネシスに立ち入る資格はありません」



 あー…ネメシスさんも被害者だったんだ。だから、ナンパに困っていたと……。



「う、うるせぇ! 好きになった女に好きって言って何が悪い!」



「限度ってものがあるでしょう。一度ならず五度、六度……それ以上ですよ。うんざりもしますし、本当にキモイです」



「くっ……! キモイキモイって何度も言いやがって! 死ねよ!!」



 ナイフを取り出すゲシクトは、ネメシスに襲い掛かる――けれど、彼女はヒョイっと軽やかに回避。掌底を打ちつけた。




「――――――がぁっ!」




 ゴロゴロ転がっていく男。

 わたしの目の前に転がってきた。



「……確保です」


「……くぅ、うあぁぁぁあぁあぁ……」



 ゲシクトは衛兵に突き出して、ジェネシスへの立ち入りも出禁とした。これでもう二度と彼が現れる事はないだろう。



 それから直ぐに――



「グレイスさん、本当に助かりました。このお礼はなんと言っていいやら……」

「いいのですよ、リヒトさん。同じギルドの受付嬢として、これからも頑張っていきましょう」



「はい……グレイスさん」



 ようやく元気を取り戻すリヒトさん。

 これで安心してお仕事に集中できる。



「グレイス、よくやったな」

「あ、フレイヤさん」

「私は会議でみんなの面倒を見てやれなかった……上司として失格だ。すまない」



「謝らないで下さい。フレイヤさんは今は多忙の身ですから、顔を出せないのは重々承知しております」


「本来なら、私が解決すべき問題だった。それをグレイスにやって貰ってしまって、本当に申し訳ない。代わりに特別有給を進呈しよう」



「!? と、特別有給!!」



 聞いた事がある。

 上司フレイヤさんの考案した『報酬』……つまり、ボーナスだ。特別有給は、なんと三日間(・・・)も休めてしまう貴重な有給だ。



「構わんだろう、リヒト」

「ええ。グレイス先輩のおかげで私は救われましたから、その分、私が頑張ります!」



 わぁ……わぁ! わぁ!


 心の中で飛び跳ねた、わたし!



(楽しそうだな、グレイス)


(今だけは許してあげます、ファイク!)


(つまらん……)



 やさぐれるファイクは、気配を消した。

 ホント、負の感情しか興味ないのね。




「リヒトさん、お言葉に甘えさせて戴きますね……」

「グレイスさんの為なら全然へっちゃらですっ」



 嬉しいなあ。

 頑張って解決した甲斐(かい)があった。



「それじゃ、私は執務室に戻るよ。グレイス、都合の良い日が決まったら教えてくれ」



 そう言って、フレイヤさんは背を向けて行った。



 これで久しぶりに冒険が出来る……!



 最近の地味にあった残業からも解放されるー!!

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