表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/81

74.受付嬢リヒトの悩み

 ――最近、リヒトさんの人気が凄い。


 彼女の受付には列が絶えなかった。転送専門だから仕方ないのだけど、明らかに短期間で戻って来る冒険者もいた。


「……凄い冒険者の数ね」


 確かにリヒトさんは、おっとりで可愛いし、笑顔のサービスも欠かさないからファンになってしまう男性も多いのかも。



 なるほど、笑顔ね。

 わたしもあの天使のようなスマイルが出来るよう見習いたい。



「人気ですね、あの子」

「リヒトさんね。あの受付嬢は只者じゃないよ~。まずの愛嬌ね、とても貴族の子とは思えないよ。求められれば握手もしちゃうし、アイドル的な存在になりつつあるよ」



 隣にいる青髪のリーベ先輩の聞く所によれば、リヒトさんは帝国・サンクチュアリの出身で、貴族のお嬢様らしい。子供の頃から受付嬢の仕事に憧れていたようで、最近になってこのジェネシスに入社したとか。



「わたしも負けてられないなぁ」

「なに言ってるの~、グレイスちゃんはもっと人気あるし、いつも男性からデートのお誘い来てるじゃない~。その度に断っているのは、どこの誰かな~」


「ひゃっ! せ、せんぱい……どこ触ってるんですかぁ」

「どこって、お腹だよ~。ほらさ、グレイスちゃんのお腹って、きゅって締まっているから、つい触りたくなっちゃうんだよね~」



 なんだかイヤらしい手つきで触られて、わたしは逃げる。



「…………先輩」

「ごめんごめん! お詫びに今日は上がっていいからさ~」

「えっ……でも」



「冒険、出たいんでしょ」



「そうですけど……いえ、今日はお言葉に甘えるわけにはいきません。わたしも受付嬢として頑張らなきゃなんです」



「へぇ、珍しく焦ってるね、グレイスちゃん」

「うっ……」



 そう、わたしはちょっと焦っていた。

 あのリヒトさんに追い抜かれないか心配で。同僚である以上、ライバルでもある。負けられない。



「じゃあ、リヒトと交代してくる~」



 と、先輩は交代しに行ってしまった。

 代わりにリヒトさんがこちらへ。



「お疲れ様、リヒトさん」

「お疲れ様です、グレイスさん。……あの、その、少しお話いいですか」



「うん?」



 休憩室へ入って、対面する。

 沈黙が続いて、わたしから話を振ろうと思ったその時、リヒトさんの方から口を開いた。


「あの……私はグレイスさんを尊敬しているんです!」


「え」


「嫌な女と思われたくなくて……その、私はグレイスさんに憧れてギルドの受付嬢になったんです。だから、私にとってグレイスさんがナンバー1で、特別なんです。今のこの状況がお気に召さないのであれば、私……受付嬢を辞める覚悟です」



 いきなりの告白に驚く。



「そんな、わたしなんて……。ううん、そんな理由で辞めないで下さい。わたしもリヒトさんにはお世話になっていますし。ほら、この前に転送してくれたでしょう。

 それにね、わたしも負けたくないって思えたし、ここで脱落されると、わたしが困るのですよ」



「グレイスさん……嬉しいです! 私も精一杯がんばります」



 良かった、辞められなくて。競え合えるライバルがいるって素敵な事だからね。



「じゃあ、わたしはお仕事に戻りますね」

「あ……まって」

「うん?」


「もうひとつ……聞いて貰っても良いですか」


「いいですよ」


 再び席について、わたしは対面した。



「実は……最近、度々転送をご利用になるお客様がいるんですが」

「そうでしょうね、リヒトさんはアイドル的な人気を博していますから」


「その、あるお客様なんですが……ずっとご利用になられるんです」


「うん」


「ずっとずっとですよ!? 一日中なんです。私、冒険者さんに頑張って欲しいから、握手とか笑顔とかサービスもするんですけど、その男の人……ずっとで」



 シュンと落ち込んで青ざめるリヒトさんは、気色悪そうにしていた。確かに一日中張り付かれるとか、ゾッする。わたしにもそういう人いたけど、ネメシスかアルムが処理しちゃうからなー。



 一方、彼女はそういう味方もいない。



「ストーカーっぽい感じなんだ」

「……はい。最近、お手紙とかも渡されて……書いてある内容も、好きだとかばかり綴られていて気持ち悪いんです……」



 ついにリヒトさんは泣き出しちゃった。

 あー…、こりゃ深刻ね。



(わははは、こりゃ美味な感情だ! 極上、極上!)


(趣味が悪いですよ、ファイク!! 女の子に対し、無礼です。サイテーです! 消えていなさい)



 急に出て来たカオスに対し、わたしは普段は出さないような感情で叱責(しっせき)した。



(お~っと、怖い怖い。グレイス、この私も、聖女(おまえ)のその感情には負ける……オーケー、私は大人しくしていよう)



 消える気配。

 ……まったく、ファイクは一度しつける必要がありそうね。



 それより、悩み相談まであるとは……う~ん、そうね、このままじゃリヒトさんが可哀想だし、解決してあげよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ