72.転送担当の受付嬢さん
時間はお昼。
帝国・サンクチュアリをどう出発しようかで悩んでいた。
「ここからは徒歩は厳しいですよ」
困った顔でアルムがネメシスに言った。
「そうですねぇ、ワープ専門のギルドの受付嬢さんがいるといいのですが……おや」
ちょうど交代でやって来た『リヒト』さんが姿を現した。赤髪ショートヘアで、清楚な服装がよく似合う子。
リーベ先輩の後輩で、転送専門の受付嬢さんだった。彼女ならわたし達を簡単に飛ばしてくれる。
「お疲れ様です、リヒトさん。出勤早々で申し訳ないのですが……ワープをお願いできないですか?」
「お疲れ様です、グレイス先輩。ワープですね。ええ、いいですよ。どこへ行かれるのですか?」
「メテンプリコーシスでお願いね、これはチップ」
「いえ、先輩にはいつもお世話になっていますし、無料で大丈夫です。では、いきますよ~」
まさかの無料にして貰えた。
帰ったらご飯でも奢ってあげよう。
というわけで――
メテンプリコーシスへ!!
◆◇ ◆◇ ◆◇
数か月ぶりに見る風景は、懐かしくて少し昔の時代を思い出す。ワープの先は、かつて所属し、受付をしていた【リーンカーネーション】だった。
くるっと辺りを見渡すと――
「グレイス……」
ポカンとわたしを見つめるエイルさんの姿があった。今や雰囲気もフレイヤさんに近いものを感じる。あの優しい顔立ち、以前のような高圧的なプレッシャーは払拭されていた。
「エイルさん! お久しぶりです」
「お、おう……。まさか、こっちにワープしてくるとはな。なんだ、冒険に出るのか――って、ネメシスとアルムも来たのか」
わたしの背後にいる二人を見て、目を白黒させるエイルさん。突然の訪問だから、そりゃ驚くよね。
「どうもです、エイル」
「エイルお姉ちゃん、おひさ~」
二人とも挨拶を照れくさそうに交わす。会うの久しぶりだから、ちょっと緊張しているみたい。
「なるほど、噂のゴールドゾーンへ行く気だな。一応、忠告しておくが……かなり危険だぞ」
「覚悟の上です。それに挑戦するのは、わたし達だけではないですから」
「ああ、あの100名以上の冒険者か。先にリーカーネーションを出立していたな」
姿がないと思ったら。
装備とか消耗品アイテムは、予めサンクチュアリで整えているだろうし、そのまま現地へ向かったようだ。
「では、わたしたちも向かいます」
「分かった。その、なんだ……くれぐれも気をつけてな。お前が心配でね、グレイス」
「ありがとうございます。すっごく嬉しいですっ」
エイルさんは、淋しそうにして――抱きしめてくれた。……ああ、そっか。わたしずっと心配掛けていたんだ。
「……エイルさん、いつもごめんなさい」
「グレイス、わたしはお前を大切に思ってる。だから、無茶だけはするなよ。ネメシス、アルムもな」
「お任せを」
「うん、エイルお姉ちゃん」
◆◇ ◆◇ ◆◇
メテンプリコーシスを出て、もう一度、街の方へ振り返った。
「ここは変わらないですね。――また来ましょう、この故郷に」
風に靡く髪を押さえ、ネメシスとアルムと共に【世界樹・メテンソーマトーシス】を目指した。ここからは徒歩三十分だったかな。
「道中のモンスターに注意していきましょう」
「そうですね、ネメシスさん。アルム、準備いい?」
「うん。鍬もバッチリ」
そう笑って鍬を担ぐアルム。
相変わらずの貫禄にこちらも笑みが零れる。
「回復ポーションや状態異常回復ポーションなどアイテムの準備も万端だから、必要に応じて使用して下さいね」
アイテムの在庫も確認し、わたしは先陣を切った。