65.レイドボス
アルムの目の前にレイドボスが……。
このままじゃ、彼女が……!
でも、この距離じゃ間に合わない……。いや、間に合わせなきゃいけないの。大切な仲間を死なせたりはしない。
「――ネメシスさん! 貴女をアルムの所へ飛ばします。アルムの救助を!!」
「なるほど!! それなら間に合うかも! 構いませんから、わたしの背中に『ディバインナックル』を打ちつけて下さい」
それしかない。
『ディバインナックル――――!!』
出来る限りダメージは与えないよう、ネメシスの背中にスキルを打ちつけた。すると、衝撃で飛んでいく。
「たぁぁぁぁあああッ!!!」
更に加速し、一気にタイラントデーモンの間合いに入った。ダークストライクがアルムに直撃する瞬間、ネメシスは見事にアルムを抱きかかえて救出した。
「……ほっ」
安堵して、わたしはヤツを睨んだ。
「よくもアルムを狙ったわね!!」
怒りが湧き出て拳に力が入る。
紅蓮のバンテージを握り締め、わたしは吶喊する。
「あぁぁぁああああああ――――ッ!!!」
わたしの所為で、アルムが死ぬところだった。あの攻略ギルドに騙されたとはいえ、この部屋に入ってしまった。
それで二人を失ったら、わたしは……一生、後悔する。
だから!
『――――覇王爆炎拳!!!』
デーモンの後頭部に与え、巨体を地面に叩き落とした。凄まじい火力が圧殺していき、敵の身体は沈み込む。
そのまま、わたしは全部吐き出した。
『覇王激流拳!!
覇王天翔拳!!
覇王岩礁拳!!』
更に、ネメシスも飛んで来て一緒に奥義スキルを。
『覇王爆炎拳!!
覇王激流拳!!
覇王天翔拳!!
覇王岩礁拳!!』
更に更に、アルムも火力増幅エンチャントをわたしとネメシス、そして自身に付与して、鍬のソードダメージをクリティカルとして与えた。
すご……レイドボスにクリティカルヒットなんて。
一気に畳みかけ――これで勝っ……
『――――!!!』
デーモンの眼光が光ると、わたし達は飛ばされてしまう。
「―――――ぁぁっ!!」
なんて力なの……これがレイドボス。
地下10Fでこのレベルのボスモンスターが出現するなんて……ウソでしょ。
「いえ、グレイス。あのボスモンスターの今のスキルは最後の足掻きです。体力が削れてあと僅かな証拠。だから、今のは死亡寸前に発動する特殊スキル」
「え……そんなスキルが?」
「ええ、ボスモンスターは死に際になると『特殊スキル』を発動する場合があるのです。例えば『バーサーク』ですね。通常はこれです。でもあのレイドボスの場合は、鋭い眼光のようでしたね」
……それは初耳。
そっか、ダンジョンに来ないと分からない事もあるんだ。ギルドの受付嬢として、知っておかないとダメね。でも、これで学んだ。
そして、あのボスの体力は、もうそれほど残っていないという。ならば絶好のチャンス。ここで倒す……!
「ネメシスさん、アルム……二人とも力を貸して下さい」
「もちろん」
「付与します」
改めて、アルムの火力増幅を受けて、わたしとネメシスは駆けだして行く。完璧なフォーメーションで猪突猛進していく。
敵は再び、ダークストライクを放つ。
もうそれは見切ったし、ワンパターンね!
宙へ飛び跳ね、スキルを回避。
見切ったり……!
「ネメシスさん……! 今です!!」
「了解です」
わたしが右、ネメシスが左方向へ別れ――それから。
『覇王轟翔波――――――!!!』
『覇王轟翔波――――――!!!』
覇王聖女の最終奥義を放った。
赤黒い波動オーラがタイトラントデーモンを圧倒し、その禍々しい身体を溶かしていく。
『――グ、グォォォォォ……グオオオオオオオオオオオオ――――ッ!!!』
ついにレイドボスは雄たけびを上げ、それは断末魔となった。
【GOLD MVP】
【SPECIAL RESULT】
EXP:33997
MVPEXP:104999
DROP:暗黒の魂×1
MVPDROP:エクサニウム×1、大いなる金の箱×1、アビスブラウス×1、アビスビッグシールド×1、改良用アーティファクト
「うわ、なんか凄い数のドロップ……」
その結果にビックリした。
こんなにゲットしたのは初めてだった。
「それはそうですよ。相手はレイドボスですから、これくらいの報酬は当然です。あれだけ苦労しましたからね」
にこっと笑うネメシスは、当然のように言った。なるほどね~、あんなに強かったものね。
「大いなる金の箱は楽しみですね」
金色の箱に興味を示すアルム。あ、それわたしも気になった。すっごい黄金に輝いているんだもん。
なんて、ガヤガヤやっていると、
「……うそだろ」
「レイドボスを倒しやがった」
「ありえん……」
さっきの攻略ギルドが部屋に入ってきた。
「あなた達!! わたし達を騙したのね!!」
わたしは珍しく怒った。
あんまり怒るのは好きじゃないけど、これはばかりは怒った。危うく、ネメシスとアルムに傷を負わせてしまうところだったから、許せない。
「こうなりゃ……」
「ああ……」
「そうだな、やるしかねぇ」
男三人組はジリジリと近寄って来て……
これは、やる気ね。
その覚悟なら、わたしも彼等を倒――――
「すいやせんでした!!」
「申し訳ございません!!!」
「大変なご無礼を!!」
「――――へ?」
三人とも土下座していた。
「いやぁ~、あんなレイドボスを倒されるギルドの受付嬢様に挑むとか……無謀でしょ」
「ええ……俺等見てました。あのLv.85もあるタイラントデーモンを討伐しちまったんですからね」
「しかも、女の子三人が! すげぇよ。本当にすげぇ。俺たち、あのボスを全然攻略できなくてさ……」
……えー…。
情けないなって思いながら彼等を見つめ、でも許した。
「もう二度としないで下さいね」
「本当にすいやせんでした!!」
「ご迷惑をお掛けしました!!」
「すみません、すみません!!」
どうやら、三人とも反省しているようだ。
で、あの赤髪のアサシンがわたしの方へ。
「その~、これはお詫びなんですが」
と、アサシンは大量のエクサニウムを差し出してきた。……すごい量!
「い、いいのですか?」
「はい……俺等、本当に悪い事しちゃったんで。その、グレイスさんの受付、また行きたいッスから」
アサシンは頬を赤らめ、頭を下げた。
仕方ないなぁ~。
「ありがとう」
「……うっす。では、俺らは帰ります。本当にすいやせんでした」
ぺこっと頭を下げ、彼らはボス部屋に出現した『特別帰還ポイント』へ向かった。部屋の隅には青のワープゾーンが出現しており、その中へ飛び込むと外へ出られる。
「さすがグレイス。彼等を許すとは」
「ええ、わたしはギルドの受付嬢であり、聖女ですから……寛容な心を持たねばなりません。それに、彼等は十分に反省していましたし」
「素晴らしい……さすが、わたくしの嫁っ!」
ぴょんとわたしに抱きついてくるネメシス。擽ったい。それから、アルムも甘えるようにして抱きついて来た。
「も~~~…いいけどぉ」
わたしは、二人が大好き。
 




