64.ボス部屋
忘れていたけど、地下迷宮ダンジョン『フォビドン』の地下10F毎に【ボス部屋】が存在していた。
つまり、あの攻略ギルドはそのボスの部屋に入って行って……もしかしたら、ボスモンスターに?
「まさかね……」
「その可能性はあるでしょう。グレイス」
迷宮の広い通路を駆け抜けながら、ネメシスは冷静に言う。その道中に現れるブラックスライム。彼女の奥義スキルが炸裂し、その殆どを一撃で屠った。
すご……さすが師匠。
自分も覇王聖女となったけれど、やっぱり、師匠には敵わない。いつか……本当にいつか、あんな人になりたい。
走ってボス部屋の前に。
「ここですね」
アルムがその部屋の先を見つめた。
ボス部屋は、そこだけ空間が切り取られているような如何にもな雰囲気を持っていた。淀む重い空気。冒険者を駆逐せんとする明確な殺意。
わたしは一歩、ボス部屋に入った。
その時。
――警告【ゴールドゾーン】
:レイドボス出現――
なんて、部屋自体が警告を発した。
「これは……」
そしていきなり、ズンと地面が揺れて……地面に大きな魔法陣が展開。そこから、ボスモンスターが姿を現した。
【レイドボス:タイラントデーモン】
目の前に現れる巨体。ドラゴンも近い威圧感。
魔王とか魔神にも近い恐ろしすぎる顔。
漆黒の翼。
腕を組み、赤い瞳でこちらを威嚇して来た。
「ちょっとまって……攻略ギルドの人たちは?」
姿がなかった。
この部屋にいるのは、わたし、ネメシス、アルムだけ。彼らの姿がまるでなかった。もう、やられちゃったの?
「グレイス! 後ろ……」
「え……」
部屋の出入り口の方を振り向く――
すると、
「あちゃ~」
「こりゃ大変だァ!」
「レイドボス攻略がんばってねー」
ニヤニヤとこちらを見つめる男三人の姿。
嘘……さっきの悲鳴は自演!?
「俺たちの誘いを断るからだ」
「レイドボスにやられちまえ」
「ゴールドはヤバイぜ。多分、一種でお陀仏だな」
そして、彼らは去った。
「わ、私たちも出ましょう」
アルムが提案するけど――
わたしは首を横に振った。
「アルム、ボス部屋は出られないの」
「で、出られない?」
「ええ、ボスモンスターを倒さないと、向こうに出られないようになっている。だから、倒すか……死ぬしかない」
「…………そんな」
多分、アルムは【ゴールド】は初めてだったのだろう。わたしも初めてだけど、知識は持っていた。
「まさか騙されるとは……彼等には後でお仕置きしましょう。グレイス、とにかくあのレイドボス『タイラントデーモン』を撃破するのです」
「分かりました。わたしとネメシスさんで前衛を。アルムは、エンチャントで対応してください。尚、ボス部屋の場合、帰還アイテムすら使用できなくなるので……全力で参ります」
覇王聖女の力を開放して、疾走していく。
同じように別方向から、ネメシスも駆けだした。
だけど、タイラントデーモンの動きは素早く、わたしの方へ一瞬で到達した。……な、なんて移動速度。
『――――!!』
まず……これはボス専用スキル『ダークストライク』。破壊的ダメージで、受ければ、体力の半分を失うほど。これは避けなければ!!
バク転して、更にバク転。
右左とスキルを回避。
それでも敵はダークストライクを際限なく撃ちこんでくる。なんて多さ。というか、レイドボスだから、魔力も無限に等しいはず。避けても避けてもキリがない。
でも、回避するしか方法がなかった。
現状を打開する方法は――ある。
「ネメシスさん!!」
タイラントデーモンの背後に接近する師匠。
銀髪を風に揺らし、華麗に飛び跳ねて来た。
……今なら、デーモンは隙だらけ。
背後を取った今なら!!
『!!』
しかし、タイラントデーモンは背後の気配に気づいて、いきなり魔法陣を展開。なんと、その中へ消えた。
「うそ!!」
スカッっとネメシスの技が外れた。
こちらへ飛び込んでくる師匠を、わたしは受け止めた。
「……! ネメシスさん!」
「ごめんなさい、グレイス。仕留められなかった……あのボスは……空間転移も出来るとは恐れ入りました」
「空間転移……何処へ行ったの?」
地面を注視する。
気配くらいは追えるはず。
そう思って、辿っていくと――
「え……まさか。アルム!!」
「……!」
そして、それは的中。
アルムの目の前にタイラントデーモンが出現して――
「アルム!!」