61.新設・リーンカーネーション
ザンキは全て消え去ったわけではない。
いつ、どこから現れるか分からない。
でもいい。
また現れたら、元に戻す。
今のわたしには覇王聖女の力があるから。
「いいですか、グレイス」
先生のように指を立てるネメシス。
覇王聖女の何たるかをお風呂の中で教えてくれた。
「覇王聖女となった今、その力は膨大です。人々を助け、心を救うのです。それが我々、聖女の使命ですからね」
ネメシスがわたしの背中を洗いながら言った。
「……わ、分かったけどー…」
「擽ったいですか?」
「うん、ちょっとだけです」
「なるほど……ところで、グレイス」
なんか胸辺りに視線を感じる。
いや、確実に見られている。
「?」
「また大きくなりましたか?」
「……っ、だから分からないってばぁ~」
わたしは赤面して、胸を隠した。
「ふむ……」
「ふむって、そんなジロジロ見ないでぇ~! もう、ネメシスさんってたまにオジサンですよね」
「あはは……女同士ですよ~。気になさらなくていいのに。まあでも、前世は男性だったかもしれませんね」
冗談を言いながら、シャワーで石鹸を流す。……ネメシスも胸は大きい。というか、わたしと殆ど変わらない気が……。
◆◇ ◆◇ ◆◇
お風呂を出た。
ベッドにアルムが寝ていたけど。
「あら……アルム、どうしたの」
「グレイスさんを待っていましたよ」
「わたしを?」
「そうです。また冒険に行きたくて」
と、アルムから提案があった。
そんな赤い瞳を潤ませられると、断れない。
「分かったけど、うーん。そうね、じゃあ明後日でどう? 明日はお仕事だから」
うんうんと頷き、アルムは目を輝かせた。
「じゃあ、明後日でお願いします」
満足気にわたしの部屋から出て行った。
冒険か~、うん。やっぱり私は冒険が好き。
◆◇ ◆◇ ◆◇
【 ジェネシス 】
ギルドの受付嬢の仕事も慣れたものだ。
「グレイス、休憩に入って良いぞ」
「ありがとうございます、フレイヤさん」
休憩室へ入ると――
「今日もがんばっているな」
「エイルさん!」
椅子に座るエイルの姿があった。
あれ以来、ジェニシスに身を置いていた。
「身体は大丈夫です?」
「もう心配するな。あれから三日も経ったし、平気だよ。グレイスの方こそ何か変わりはないか?」
「ええ、大丈夫です。わたしは変わりません」
「そうか、じゃあ、わたしはオラクル家へ戻る」
「もう戻られるのですか?」
エイルさんは困った顔をして、こう言った。
「いや~…実は、リーンカーネーションの新設を手伝う事になってね」
「え……新設?」
「ああ、メテンプリコーシスという場所自体は変わらないが、リーンカーネーション自体はリニューアルだ。まあ、あの上層部が消え去ったからな……そういう意味でも心機一転ってワケさ」
なるほど。
あの元上層部の暴走があってから、リーンカーネーションは大変だったという。一時期は、消失するという話もあったくらいだ。
グラーフさんがフォーサイト様に相談し、それから皇帝へ相談。その結果、リーンカーネーションという重要な場所を失くすワケにはいかないと決まって、そのままになったみたい。
「新しい子も増えるんですね」
「そうだな、またグレイスみたいな優秀なギルドの受付嬢を育てていかねばな」
そう目を閉じ、エイルさんは立ち上がった。
「じゃ、私は帰るよ」
「お疲れ様です。また家で」
「ああ、グレイスもお仕事頑張って。応援しているよ」
爽やかな笑顔で、エイルさんは去った。
――さて、定時で上がったら今日も冒険へ!




