60.ありがとう
ルトくん……いえ、アルシュと別れて、わたしは冒険に出た。帰ったら、わたしは彼の元へ行こうと決意した。
でも、それはまだ先の話。
今は冒険がしたい。
それがわたしのもう一つの恋心。
――門前に辿り着く。
そこには、ネメシスとアルムの姿があった。
「お待ちしておりましたよ、グレイス」
わたしの前に立ち、笑顔を向けてくれるネメシス。やっぱり、いつ見ても綺麗な顔立ち。あの青桃のオッドアイで見つめられるとうっとりする。
それから、アクビをしながら鍬を担ぐ少女、アルム。彼女はもまたわたしの前に立ち、笑った。
「グレイス、随分遅かったです」
「ごめんね、わたし……ちょっと好きな人が出来ちゃって」
二人に嘘はつきたくなかった。
だから、ありのままを話した。
「「ええ~!? 好きな人~!?」」
二人とも驚く。
「だ、誰なんですか!! まさか、フォーサイト殿?」
ネメシスががっつく。
「あ、兄様を!? グレイスにならいいですけど……うう、ちょっと複雑かもですね。でも、グレイスならいいですよ?!」
アルムも動揺して目を回した。
「二人とも違いますよ~」
「「え!?」」
二人とも目を合わせた。
「「じゃあ、誰~?」」
「二人だけには話しておきますね。内緒ですよ~。実はですね、皇帝陛下のアルシュくんです」
「「――――――」」
二人とも固まって、絶句した。
あー……やっぱり、そんな反応しちゃうわよね。
ネメシスは「うそでしょ?」と口をあんぐりさせた。それからアルムも「またまた御冗談を~」と手をヒラヒラとさせた。
けれど。
「本当」
「「ええええええええええええええ!?」」
また二人とも驚いて、今度はがくがく震えていた。
「グレイス……いつの間に皇帝陛下とお付き合いを……。確かのあの上層部との戦闘でも陛下はお姿を出しておられましたけれど!!」
慌ててるネメシス。
一方でアルムも。
「あわわわわわ……。兄様じゃなかったんだ。意外すぎる!! で、でも……うーん。そっか、兄様はだから、頑なに守護するだけって言っていたんだ。そんな気はなかったんだ……」
なにやら納得するアルム。
◆◇ ◆◇ ◆◇
――それから、わたしを含め三人で冒険へ。
笑顔を絶やさず、ただ心の底から楽しんで草原フィールドを駆けていく。
◆◇ ◆◇ ◆◇
わたしは、心も持たないただのギルドの受付嬢でした――。
ずっとずっとそれが当たり前で、仕事一筋の日々。けれど、ある日、白髪の少年が言った。
『お姉さんも冒険に出てみたら?』
――と。
そのたった一言が、わたしに熱いものを宿した。
自ら動き、自ら感じ、自ら飛び込んでいく。
今ではそんな冒険心がある。
みんなに心より感謝にしたい。
ありがとう。
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